5章 再びの波乱の舞踏会 6
その途中で、シヤリーが不安そうに尋ねた。
「それで私達は、この後は、どうするの?」
「もう城は安全じゃないです。…出来るなら、外に出た方がいい。」
ライルは少し考える仕草をしてから、答えだす。
「…この城の地下に、赤い扉の部屋があります。…ひとまずは、そこに身を隠しましょう。…人は滅多に来ないので、追手をやり過ごせます。」
「…どうして人が来ないって解るの?」
とシヤリーは聞き返し、首を傾げる。
「…そこは、僕の暮らす部屋なんです。…殆ど、誰も来ません。」
ライルは、言いにくそうに呟いた。
「は?」
その直後に、私も声を漏らす。彼の言葉を聞いても、理解が出来なかった。
だがライルは無言で立ち上がると、踵を返して部屋の奥に向かう。
「貴方、この城に住んでるの?」とシヤリーが、また問いかける。
それでもライルは止まらない。隠し通路の前で、此方の方に手招きしてきた。
「此方へ。」
すぐにシヤリーは恐る恐る立ち上がると、駆け寄る。
私も渋々しながらも、後を追いかけた。
ただし胸の奥では、得体の知らない違和感が燻っている。
※※※
そのまま私達は、隠し通路をを進んでいた。
ずっとライルは先頭を歩き続け、黙々と階段を下り続ける。
その後ろをシヤリーも付いていく。
「……。」
私も最後尾の位置から、後を追いかけており、後ろを警戒していた。
通路は薄暗く、足音だけが響き渡る。
今は敵の気配はない。
それでも私は落ち着かなかった。
(ーーライル、…アンタは何なの?)
ふと気がつけば、彼の方に何度も視線を向けている。
やがて階段を降りきると、袋小路の壁の前に辿り着く。
ほぼ同時に、ライルは壁の一部を押し込んだ。
すると重い音を立てて、目の前の壁が動いていき、隠された出入口が現れた。
私達は奥へと足を踏み入れた。
そこは、地下にある赤い扉の部屋だった。
「なんか、…牢屋みたいな部屋ね。」
とシヤリーは囁く様に話しかけてきた。
私も頷きながら、周囲に視線を向ける。
此処には、今までに二回は訪れている。
やはり内装は室内は殺風景だった。
家具は最低限の物ばかり。まずまずの質である。
人が住む場所とは言いがたい。
(前にライルが此処で、簡単な茶会を開いてくれたわ。…彼なりの精一杯のもて成しだったのね。)
そう思うと、私は胸の奥が痛んだ。
さらに、ライルの方へ視線を向ける。
「…とりあえず、此処なら多少は安全でしょう。」
と、彼は落ち着いた声で言い、
「お二人は此処で待っていてください。…私は近くに敵が居ないか、周囲の様子を見てきます。」
と、部屋の外に出ていこうとした。
すぐに赤い扉のドアノブに、手を掛ける。
ほぼ同時に私は素早く近寄り、ライルの手を掴んだ。
「…ライ、…アルジェン。」
さらに顔を間近まで寄せて、問いかける。
「…貴方、まだ何かを隠してるでしょう?」
「え?…何を言ってるんですか?」
対してライルは、真顔で否定した。
ただし、一瞬だけ視線を反らすも、すぐに元に戻している。
私は視線を外さずに、見つめ続けた。やがて確信する。
「……何で嘘をついてるの?」
自ずと、問いかける声に怒りが滲み出ていた。
それでもライルは、表情を崩さない。
寧ろ此方の手を強く握り締めると、ゆっくりと語り掛けてくる。
「…今は、貴女の御友人の身の安全が最優先ですよ。」
「…カレンナ、…大丈夫?」
ほぼ同時に、シヤリーも心配そうな声で、声を上げた。
少しだけ私は黙ってしまうも、ゆっくりと手を離してから、静かに答えた。
「…大丈夫よ。…確かに今は、シヤリーが大事ね。」
まるで自分に言い聞かせる様に言っていた。
でも胸の奥の苛立ちは消えてない。
ただ今は耐えるしかなかった。
ようやくして此方も、次第に落ち着きを取り戻す。
その頃合いを、ライルは見計らい、話を進めだした。
「…まだ敵は城の中を探している筈です。…地下に手が回る前に、なるべく早くには、次の行動へ移りましょう。」
「つ、次って?…」
すかさず私も問い返した。しかし気まずさで、僅かに声が上擦る。
でもライルは淡々と根拠を述べだした。
「…やはり犯人の狙いは、明らかにシヤリーさんである可能性が高いと思います。」
「私?」
と、シヤリーも相槌を打ちながら、話に加わる。
「…でも、今日の舞踏会の時でないと、犯行に及ばないのは、明らかに不自然です。…恐らくこの場所でなければならず、ナンリー様を巻き込まなければならないのには、理由がある筈。…だから多分、今のうちに城の外に出れれば、彼女の安全は保証されるかと。」
「…そうか。…言われて見れば、確かに。」
私は話を聞いて、納得した。
隣でシヤリーも頷くと、独り言を喋りだす。
「…私だけを狙うのなら、わざわざ舞踏会の時に狙う必要はないわ。…」
「ねぇ、…シヤリー。…貴女と姫殿下を狙うのだとしたら、相手に心当たりはない?」
私は間髪入れずに、問いかける。
しかし、シヤリーは首を横に振った。
やはり犯人に、思い当たる人物はいないようだ。
「…やはり、まだ城の地下までは、手が回っていないようだ。…今なら、移動が出来る筈です。」
その時、ライルが部屋の扉を僅かに開けて、隙間から外の様子を伺うと、
「…シヤリーさんは、馬車で来ていましたね。なら、駐車区画にされている南側の正門に行きましょう。」
と提案した。さらに静かに扉を開けて廊下に出る。
すぐ側の壁の前で立ち止まると、一部のタイルを押し込む。
すると、また壁の一部が音もなく開いて、別の隠し通路が出現する。
「…この先は王家の避難通路です。此処を通れば、正門まで直で付きます。」
ほぼ同時に、ライルは呼び掛け、手招きしてくる。
「シヤリー、…先に行って。」
私は顔を振り向かせながら、指示を飛ばして促す
シヤリーも、小さく頷くと、素直に部屋を出て行った。
すぐに私も後を追いかけていく。
※※※
そうして、再び隠し通路の中を移動する。殆ど道は真っ直ぐに続いていた。
やがて突き当たりに辿り着く。
そこには上へと続く梯子がある。
さらに頭上の方には、床下収納に使われる様な小さな戸が設置されている。
真っ先にライルが梯子を登って、戸を開けると、外に出ていく。
次にシヤリーも、辿々しい動きで登って行った。
その後から、私も続いて上まで移動し、戸を潜り抜ける。外に出た瞬間に、周りを見渡した。
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