5章 再びの波乱の舞踏会 4
「…皆の者。…今宵は我が息子の為に、集まってくれて感謝する。ワシからの心ばかりのもてなしだ。…世界各国の極上の料理や旨い酒を、存分に心ゆくまで堪能してくれたまえ。」
ドギアス王、ーー変装したライルは、招待客に向けて労いの言葉を送った。
それと同時に、私は背後から人が近づく気配を感じる。
すぐに扉を抜けて会場内に入り、二階部分の柱の影に身を隠す。
程なくして扉から、三人の若者達が現れた。
ヴィシューとナンリー様。
そして、シヤリーである。
彼等は歩いて、変装したライルの側まで向かう。
全員が揃うと、前回と同じく仲睦まじい姿を、周りに見せつけだした。
それを合図に、招待客達は喝采を挙げて、惜しみ無い拍手を送ってきた。
やがて宴は、本格的に開始された。
会場内に、オーケストラの生演奏が鳴り響いていく。
ふとヴィシューは、先に階段を下りだした。ずっとナンリー様に付き添い、歩いている。
その隣で、シヤリーは笑顔を絶やさずに、後を付いて行く。本当に幸せそうな雰囲気を漂わせていた。
(でもシヤリーは、事情も皇太子の裏の顔も知らない。…下手をすれば命を失う可能性があるのね。)
私は目の前の光景を見つめていると、次第に胸の奥で不快感を募らせていた。
(ああしてヴィシューがナンリー様に付きっきりなのは、彼女だけを守る為なのね。…でも今は私とライルしか、状況を打開する事は出来ない。)
しかし、すぐに頭を横に振るい、
(…だから今は我慢して、シヤリーやナンリー様を守るために、怪しい奴を探す事だけを考えないと。)
と、思い直したら、気合いを入れ直す。
ようやくして、シヤリー達が一階に到達する。
招待客と、挨拶回りをしだした。
その頃合いを見計らい、私も階段を下りて行った。再び周囲を見渡しつつ、警戒をする。
そうして一階へと、場所が移り変わる。
だが未だに怪しそうな人物は、見つからない。
(でも、…誰がシヤリーを殺す必要があるの?…彼女が誰かに恨みを買う事なんて、あるの?)
また私は疑念を抱き、考え込んだ。
すると正面から誰が近づいてくのに、気がつくのが遅れた。
「カレンナ。」
そこには、シヤリーがいた。屈託のない笑顔を向け、手を大きく振りながら側までやってきた。
あの時と同じく、何の曇りもない表情をして。
「もう、此処に居たのね。」
「え、えぇ。…そうね。」
なんとか私は、返事をする。だが表情が固く、続けて言葉が出ない。
頭の中でも感情が入り混じり、整理が出来ない。
自分でも眉間に皺が寄るのがわかった。前の様な態度になれていない。
シヤリーも表情が不安そうに曇ると、問いかけてきた。
「…カレンナ?…どうしたの?」
「え?…いや、別に。」
「…具合が悪いの?…それとも、何かあるのかしら?」
「…いや、何かあるのは、私じゃなくて、シヤリ、……!?…」
と私は思わず口を滑らせかけ、慌てて言葉を止める。
「…本当に、どうしたの?…」
そんな様子にシヤリーは真剣な目で、さらに詰め寄ってきた。
彼女の瞳は潤んでいる。
不安と悲しみが混じった視線だった。
私は一瞬、言葉を失う。
「シヤリー!!」
その時だった。
ヴィシューの大きな声が会場に響く。
私達は気がつくと、すぐに振り返った。
するとヴィシューは、真っ直ぐ此方に迫ってきていた。
そして私達の間に割って入る。
さらにシヤリーを強引に抱き寄せると、甘い言葉を囁きだした。
「シヤリー、今日の君は凄く綺麗だ。…片時も離れたくない。」
「ヴィシュー様??!」
「…折角だ、…これからダンスがある。…私と一緒に踊ってくれるね?」
「…は、はい。♥」
端から見れば、情熱的に抱きあう恋人同士だ。
多少は強引な流れだ。
それでも若い恋人の戯れにしか見れない。
他の招待客達も、微笑ましそうに眺めているだけだ。
だがヴィシューの瞳は違った。
冷たく鋭い視線を向けてきている。
私は睨みつけられていた。
やがて会場内には、生演奏が流れ出す。
それからヴィシューは、シヤリーを連れて、一緒に舞台の方に歩いていく。
そして去り際に、此方を振り向くと、ーー
「(お前は、何もするな。)」
と口の動きだけで、告げてきていた。
そのまま社交ダンスが始まる。
次々と若い男女も集まりだし、音楽に合わせて、ステップを踏み始めた。
ヴィシューも優雅にリードする。
シヤリーは恍惚な表情で、身を委ねている。
二人の距離は、やけに近かった。
「……。」
私は苦虫を噛み潰した様な表情で、静かに引き下がる。
そして招待客達の輪から外れ、場所を移すと、遠巻きから周囲の様子を伺う。
次第に緊張から、ゆっくりと胸が締め付けられる。
前回では、ナンリー様が異様な行動を取り始める頃だ。
(…ナンリー様は?…それと、ライルは?)
と私は視線を巡らせて、二人を探す。
意外にも、近くにいたようだ。
ナンリー様は舞台端で、招待客の輪の中で、社交ダンスを眺めている。
顔は頬を赤くなり、胸の前で両手を握り締めている仕草をしている。
目の前の光景に、ときめいている様子だ。
今は不穏な様子等は表れていない。
周囲の招待客達も、社交ダンスを眺めているようだ。
怪しい動きをする人物もいない。
さらに変装したライルも、招待客達の後ろ側に現れた。
さりげなく人と人との間を通り抜けて、ナンリー様の側に近寄っていく。




