5章 再びの波乱の舞踏会 3
すると小瓶の蓋が取れ、中の液体が床に溢れた。
その途端、周囲に甘い匂いが漂いだす。
私は思わず、顔をしかめながら、両手で鼻を覆った。
直感的に、危険を感じて後ずさった。
次の瞬間に、護衛の兵士達は床に崩れ落ちる。どうやら気絶したようだ。
だがドギアス王だけは、すぐに踵を返して引き返してきた
さらに顔が振り向くと、口と鼻を手で塞いでいる。
なんとか此方にまで辿り着くと、咳き込みながら喋りだした。
「げほ、…ライルよ。…もう少し、なんとかならんのか。…あの眠らせる薬は少しばかり効きすぎるぞ。」
「どういう状況!?」
私も思わず、声を荒げた。
状況が全く理解できない。ずっと二人の顔を交互に見ていた。
「なんだと?…」
ドギアス王も、怪訝そうな視線を向けてきた。
するとライルは、例の如く説明をしてくる。
「…すみません、カレンナさん。事前に説明してませんでした。…実は陛下は、我々の協力者です。…今回の犯行も、僕の正体も知っています。」
「はぁ!?」
また私は驚いてしまう。
今度は平静を保てない。何処までが真実で、嘘なのか解らなくなってきていた。
「成る程、そうなのか。」
とドギアス王は呟く。納得した様に頷いてから、改めて名乗りだす。
「てっきり、知っているとばかり思っていたぞ。…余がドギアス国王だ。…改めて、宜しく頼む。…もっとも裏方の様な事しかしないがな。」
「は、はぁ。…」
私も言葉に詰まりながら、返事をした。なんとか取り繕っている。
しかし、心の中では、
(王様なのに、裏方?)
と疑問に思っていた。
「…余も、自分の子供達が可愛いのでな。…協力は惜しまないから、なんなりと必要な事は言うがよい。」
そのままドギアス王は、一人で喋り続ける。
それを私は聞き流しながら、ライルの方に視線を向けて、問いかける。
「…ねぇ、ライル?…もう他に、アンタの正体を知っている人は居ないわよね?」
しかし、彼は目を反らして、無言で頷くだけだ。
なんとなく、気まずい雰囲気を漂わせる。
その様子に私は深く追及せず、半ば無理矢理に納得するしかなかった。
やがて話しは、ようやく打ち切られていた。
さらにドギアス王は、護衛の兵士の一人を、近くの部屋に運び込む。
私とライルも手伝い、もう一人の兵士を同じ部屋に押し込み、すかさず扉を閉める。
ようやくして、一息つける状態となった。
「さてと。…護衛も撒いた。…渡り廊下の換気も済ませたし、…さっさと会場に向かって、準備をするかね。」
とドギアス王は言うと、先んじて渡り廊下を歩きだした。
それを合図に、ライルも後を付いていく。
「…」
私も黙って、後を追いかけていた。
やがて三人で、会場の袖口まで戻ると、ざわめきが聞こえてきた。
私は扉の隙間から覗き込み、会場内を見渡す。二階の手摺から下の階の状況が見えた。
一階部分には、多くの招待客が集まりつつある。今かと開始を待っているようだ。
ふと隣で、ライルとドギアス王が小声で、段取りを確認していた。
「では、ライルよ。…余は、会場の袖口で待機する。お前の合図で、シャンデリアの灯りを消すからな。…余の代わりに、ヴィシューとナンリーを頼んだぞ。」
「……はい。」
とライルは返事をした瞬間、姿が変わる。
再びドギアス王の見た目になった。
そのまま彼は会場へと、歩みだす。
「ライル!」
と、私は思わず、呼びかけた。
しかし、彼は振り返らずに、進み続けていく。
すぐに会場に姿を現した。
その直後に、「おい、見ろ!」と招待客の誰かが言っていた。
周囲のざわつきが広がった。
その光景は、見た事ある。
前回の時に、ドギアス王が最初に姿を現した場面と同じだった。
(あの時のは、ライルだったのね。…)
と私は目の前の光景を見ながら、密かに納得するのだった。




