5章 再びの波乱の舞踏会 2
「…ライルよね?」
私は間髪入れずに、問いかける。
すると、ーー
「何で解るんですか?!」
とドギアス王は狼狽え、聞き返す。
さらに声も、聞き覚えのある高い声になっている。
今の見た目と相まって、違和感しかない。
私は冷ややかな視線を向けながら、率直に理由を述べた。
「…勘。」
「いや、勘って。」
「…それに、さっき私の事を、さん付けで呼んでたでしょ。」
「えっと、…それは、」
「…私って伯爵家の令嬢よ。一応、正式な場所なら、カレンナ嬢って呼ばれるわ。しかも、目上の立場の人間は、へりくだった呼び方なんてしないわ。」
「あぁ、…。」
それをライルは聞いて、観念したようだった。
すかさず自分の顔を手で撫でる仕草をすると、変装を解いて素顔を晒す。
ついでに困った様な表情のまま、ゆっくりと独り言を呟きだす。
「参ったな。…気を付けてたつもりなのに、こんな簡単にばれちゃうなんて。…しっかりしないと、これから、あの事件が起きるというのに。…また、失敗してしまう。」
「…これから何をするつもりなの?」
私は、すぐに問いかける。
「何って、…解りやすく言えば、前回と同じです。
とライルも視線を反らし、自信なさげに答えだした。
「…僕が変装して会場に潜入し、犯人から魔法の根元を奪う。…またはナンリー様に、何かあれば、対応するんです。」
「随分と、大雑把な作戦じゃない?…行き当たりばったりみたいよ。」
「すいません。…何せ、解らない事ばかりなので。」
「じゃあ、犯人の目星は付いてるの?」
「…犯人は、まだです。…でも魔法の種類なら予想は付きます。…恐らくは、傀儡の魔法かと。」
「何よ、それ?」
「糸状の物を媒介にして、相手の意識を操る魔法です。身体に付着させると、一定の行動だけを行う様に指示が出来ます。
「…ただの糸で?」
「しかも、糸が長くて、術者に身近な物なると、強い指示を送れるんです。」
「それ、本当なの?」
次第に私は眉間に皺を寄せ、苦々しく呟く。
「…だとしたら、相当厄介よ。…糸なんて、簡単に持ち込めるし、仕込まれても気がつかない。…誰でも怪しく見えてくるわ。」
「はい。」
対してライルも同意する様に、静かに答える。
「…でも、傀儡は、操りたい対象に、予め接触する段階が必要になります。」
「…あ、そうか。」
「…だから少なくとも、犯人はナンリー様に近づける人に限定されます。」
「成る程ね。」
そこまで聞いて、ようやく私も納得する。
だが招待客の様子を思い返すと、頭の中がこんがらがり、思わず文句を言っていた。
「もう、無理。…私、小難しい事を考えるのは、苦手なのよ。」
「えっと、そうなんですか?」
今度はライルが質問してくる。
「…昔からよ。考えるより身体が動く質だし。…思った事を、すぐに口にしてしまうのが多いわ。」
と私も、何気なく答える。
「…羨ましいです。」
ふとライルは、ボソリと小声で呟いた。
それははっきりと聞こえていた。
すぐに私は、また聞き返す。
「え?…何よ。…いきなり?」
「いいえ、…何でも。それよりも僕、用事があるので行きますね。」
しかし、ライルは話を切り上げると、踵を返して、渡り廊下を歩きだした。
私も後を、追いかけていく。
さらに頭の中で、彼の言葉を思い出していた。
あのお茶会の時に、私が彼の容姿に憧れて言った台詞と、全く同じだった。
やがて渡り廊下を通り抜けて、城の方へとやってくる。
それと時同じくして、ライルは再び一瞬のうちに姿を変えた。
今度は見慣れた執事服となる。
「…どうしたの?」
すぐに私は、問いかけた。
「おおい、ライルよ。」
すると同時に、別の声が響いた。
城の廊下の奥から、誰かが近づいてきた。
私は気がつくと、目を見開いていた。
その廊下の先には、本物のドギアス王がいた。
後ろには、護衛の兵士を二人も引き連れている。
そのまま王は、此方の側まで歩み寄ると、ライルに呼び掛ける。
「…ライルよ。…ヴィシュー達は、もう来たのか?」
「はい。…予定よりも早くいらっしゃってます。…陛下も会場へとどうぞ。」
ライルも返事をしながら、渡り廊下の方を手で指し示して促していた。
しかし何故か、嘘を付いている。
「…わかった。」
ドギアス王は疑わずに、真横を通り過ぎて、進んでいく。
しかも横目で、私の方を一瞥していたようである。
護衛の兵士達も、此方に一礼しつつ、すぐに後を付いていく。
彼等の背中が遠ざかりだす。
その瞬間に、ーー
ライルは袖口から小瓶を取り出し、渡り廊下の方に投げ入れた。




