四章 お茶会 3
※※※
そうして時間が流れていき、お茶会は終了した。
場所は変わり、此処は城の玄関先である。
今は参加者の令嬢達が帰路につこうとしている。
それぞれの馬車に乗り込んでいた。
やがてシヤリーの順番がやってきた。
彼女はワゴンの扉を潜り、座席に座ると窓から顔をだして、別れの挨拶をしてきた。
「カレンナ、今日はありがとう。…おかげで、緊張しないで済んだわ。」
「…あはは、なら良かったわ。」
「…今度会うのは、舞踏会ね。…待ってるから。」
「えぇ、…」
と、私も苦笑いしつつ返事をした。
「……?」
するとシヤリーは、首を傾げる仕草をしていた。
その直後に、彼女の馬車が動き出していく。門を超えて行き、だんだんと遠ざかって小さくなって、見えなくなる。
私は見送った後に、くるりと踵を返して、城の方へと戻っていく。
※※※
再び場所が移り変わる。
此処は城の中庭である。先程まで、お茶会が行われていた場所だ。
既にナンリー様も戻っており、残ったメイド達が、後片付けをしていた。
殆ど終わりに近い状態だ。
私は近くの柱に身を隠すと、辺りを見渡しながら様子を伺う。
すると目の前を、金髪の若いメイドが横切って行った。
周囲を警戒して気配を消しながら、さっさと中庭から離れていくようだった。
すぐに私も後を追いかけた。だんだんと距離をつめていき、すかさず呼びかける。
「ねぇ、貴女、…ライルでしょ?」
「…え!?!」
と金髪の若いメイドは、肩をビクつかせ立ち止まる。思い切り振り向いていた。
どうやら図星のようである。
「やっぱり、…」
と、私は呟くと、呆れて肩を竦めながら、ゆっくりと歩み寄る。
やがて私達は、廊下の真ん中で合流した。
「…あは、は。」と金髪の若いメイド、ーーライルは苦笑いを浮かべていた。
さらに、スッと手で顔を覆う仕草をした後に、変装を溶いて、素顔を晒していた。
「…アンタ、何でメイドに紛れているのよ?」
と、すぐに私は問いかける。
周囲には他に人の気配もなく、ちょうど良いタイミングである。
ライルも静かに、答えだした。
「すみません。…迷惑かと思ったのですけど、ヴィシュー様が。」
「あぁ、あいつ?…確かに来ていたわね。…前は居なかった筈なのに。」
「…実はナンリー様から今日の話を聞いたらしくて、貴女を直々に監視すると息巻いていたので、…」
「…皇太子って暇なの?」
「いえ、今は舞踏会を控えているので、…そんな筈はないんですけど。」
「…あっそ。…ライルもご苦労様ね。」
やがて私は頭を抑えながら労いの言葉を伝える。
ついでに心の中でも、溜め息を吐いた。なんとも頭の痛い話である。
もっとも今の状況が変わった原因は、私にもあるため文句は言えない。
「すいません。」
と、またライルも謝罪してきた。
だが途中で、ー
(あれ?…そういえば、もう一つ、…前とも違う事があった様な。…)
と、私は脳裏に何かが引っ掛かる。ただし、深くは思い出せない。
「あの?…」
すると再びライルの声が聞こえてくる。此方を呼んできた。
私は気がつき、すぐに顔をあげると、間近にライルの顔があった。
彼は心配そうに此方の表情を伺っている。
「な、何でもないわ。…」
私は返事して、慌てて取り繕う。ただ視線はライルの顔に釘付けとなってしまう。
(顔、ちっさ。…睫毛も長いし、目が綺麗。…それに、銀の髪が煌めいているみたいだわ。…)
やがてライルは、ハッと気がつくと、頬を赤くしだす。顔も反らして、恥ずかしそうだった。
「…うらやましい。」
そんな様子に、私は思わず呟いてしまった。
可愛いと、心の中で感じていた。
だが同時に、憧れと嫉妬が入り交じった感情もある。まるで心の中で刺がチクリと刺さったようだった。
「はい?」
ライルも、すぐに顔を戻して聞き返した。
「…いいから、歩くよ。」
しかし、私は素っ気なく言い、さっさと歩きだた。我ながら可愛げなくて、嫌気が指す。
「は、はぁ。」
すぐに彼も渋々と付いてきた。此方を気にして、ずっと視線を送ってくる。
暫くの間、二人は無言で歩き続けていた。
辺りには静けさが漂いだす。
なんとも気まずい雰囲気だった。
「あ、あの。…」
しかし、ライルは再び話しかけてきた。
「あ、あの?…今度は、何処に行くのですか?」
「ん?…あ、…」
私は気がつくと、すぐに辺りを見渡す。いつの間にか、場所は移り変わっているのに気がついた。
ここは城の中の一階部分の、どこかの廊下だった。
目的の場所でもない。
ただ歩いていたら、辿りついただけだ。
(やってしまった。)
と、私は顔を片手で覆いながら天井を仰ぎ、途端に恥ずかしくなった。すぐに申し訳なさが押し寄せてきて、謝罪しようと口を開く。
「ご、ごめん。…何も考えずに、ボーッとしてた。」
「…こっちに。」
しかし、それより先にライルが此方の腕を軽く掴み、引っ張って歩きだした。
私も後を付いて歩きだす。抵抗する間もなく、黙って流されるままに付いて行った。




