四章 お茶会 2
とりあえず私は頷き、促されるままに着席した。
然り気無く視線を向けつつ、ナンリー様の様子を伺う。
「シヤリー様、座り心地はどうですか?…苦しくないかしら?…もう少し椅子を後ろにさげますか?」
「いえ、大丈夫ですわ。…ありがとうございます。」
「そう、良かった♥…今日は、沢山の話しましょう。」
彼女には変わった様子はない。屈託ない笑顔を向けながら、シヤリーに話しかけている。凄く気にかけているようだ。
シヤリーも嬉しそうに答える。
彼女達は、良好な関係を築いているのだと一目でわかる。
(あぁ、なんて良い子なの。…あの兄とは真逆ね。)
私は感動してしまい、心から安堵している。ついでにヴィシューの所業を思いだして、憎さが倍増してしまう。
ふと背後から誰の気配がした。ナンリー様の方へと静かに近づいてくるようだ。
「姫殿下。…お茶会の支度が整いましてございます。…」
それは、一人の若いメイドである。
金髪の短い髪が特徴的な人物だ。ナンリー様の側で、恭しく御辞儀をしながら話しかけてきた。
「えぇ、わかりました。…ありがとうございます。」
と、ナンリー様も返事をすると、すぐさまシヤリーの左隣の席に腰掛け、周りに向かって呼び掛けだした。
「皆様、今回のお茶会を始めますわ。…御存分に、楽しんでください。」
それを合図に少女達は、各々の思い思いに、過ごしだす。
皆は話に花を咲かせながら、紅茶や茶菓子を堪能していた。
「ナンリー様、…お髪の髪飾りが乱れてますわ。」
その時、今度は長い黒髪のメイドが声を掛ける。
ナンリー髪飾りの位置を整えるだした。
「あら、ありがとう。」
と、ナンリーも頬えんで、礼を言う。
暫くの間、ゆっくりと時間が流れていた。
やがて数人の令嬢達が席を立ちだした。此方に向かって、早足で押し寄せてくる。
(来たわね。)
私は覚悟を決めて、待ち構えだした。あの時と同じ様になると、思っていた。
しかし、それより先に男の声がした。
「失礼、邪魔するよ。」
また誰かがお茶会の場所に姿を現した。前には無かった事である。
私は反射的に、顔を振り向かせると、「げっ!」と思わず、小さく声を漏らしてしまう。
そこにはヴィシューがいた。
周囲に微笑みを振り撒きながら、優雅に歩いてテーブルの側までやってきた。
次の瞬間には、少女達の大半が視線を釘付けとなる。
ついでにナンリー様も、すぐに席から立ち上がり、慌てて話しかける。
「…お兄様!…どうして、此方に?」
「どうしてって、…せっかく婚約者が来ているのだから、少しの間だけでも、一緒に過ごしたいじゃないか。」
と、ヴィシューは頬を染めながら、恥ずかしそうな素振りをして答える。
「…ヴィシュー様♥」
そんな様子に、シヤリーも嬉しそうに笑う。顔を両手で押さえて、照れているようだ。
「…あらぁ♥…わかりましたわ。…どなたか、お兄様にも椅子を用意してくださいな。」
またナンリー様も、メイド達に指示を送った。
その直後に、また長い黒髪のメイドが動き出す。
すぐに椅子を運びながら近寄ってきて、テーブルに設置してしまう。
しかも、私とシヤリーの間だった。
さらにヴィシューは、気にした素振りもなく着席する。おまけに此方の方へと振り向いてきて、話しかけてくる。
「…貴女は、スカーレット卿の御息女ですね。…噂はかねがね聞いております。…どうぞ、よろしく。」
凄く爽やかな笑みを浮かべており、初対面を装ってくる。
ただ目だけは笑っておらず、とんでもなく台詞も白々しい。
「…えぇ、私もお会い出来て光栄ですわ。」
と、なんとか私も笑みを浮かべながら取り繕う。
ただし腹の中は煮え繰り返る程に、怒りが込み上げてきていたのだ。
「ふん。」
とヴィシューも、振り返り様に鼻を鳴らす。他の人達が気づかない様に音をたてていた。
「…お紅茶です。」
さらに、先程の長い黒髪のメイドが持ってきた。
「ありがとう。」
ヴィシューは紅茶を受け取り、礼を述べた。ゆっくりとカップに口をつけて、啜りだす。
ふと長い黒髪のメイドにも、やや睨まれた様な気がした。
(…私って、…何か悪い事したかな?)
もう私は不愉快で仕方がない。しかし我慢するしかなかった。
シヤリーがいる手前で、席を立って帰る事は出来ないからだ。
「…お紅茶です。」
今度は此方のテーブルにも、そっとカップが置かれた。中身は湯気が立ち、良い香りが漂う。
「あぁ、ありがとう。」
と私も礼を述べつつ、カップを手にすると、口を付けていく。なんとなく気持ちが和らぐようだった。
「いえ、…此方こそ、すみません。」
すると相手も、囁く様な声で答えてきた。
「ん?」
ただ私は違和感を感じ、思わず振り返る。
すると、そこには金髪の若いメイドが立っていた。
やや目尻を下げて、困った様な顔をしているも、すぐに踵を返して離れていく。
その瞬間、私の脳裏に妙な可能性が過る。
だが今は黙って見送った。
それからお茶会は、何事もなく進行していく。
「もう、お兄様ったら。」
「そうですわ。…ヴィシュー様。」
「あはは!」
ヴィシューは笑い声をあげる。
シヤリーやナンリー様も、楽しげに話を続けていたのだった。
他の令嬢達は、彼等の仲睦まじい姿を静かに目に焼き付けていたのだった。




