四章 お茶会 1
※※※
それは舞踏会の日取りから数えて、ちょうど一ヶ月も前の出来事から始まった。
ある日の昼過ぎ頃。ーー
私は自室で、静かに手紙を読んでいた。
その差出人は、シヤリーである。内容は要約すると、ナンリー様からお茶会に招待され、此方も一緒に出席してほしいとの事だ。
彼女の理由としては、お茶会の趣旨が友人との交流の場でもあり、他にも何人かの招待客が招かれているからだ。
因みにシヤリーは、やや人見知りな性格だった。大勢の見知らぬ人の中に一人でいるのは、緊張してしまうとの事である。
しかし文章の途中から、彼女の心情も綴ってある。
義理の家族として、ナンリー様との親睦を深めたいと思っている。
だから私も納得した。返事の手紙で承ったと書き記し、本番の当日に望んだ。
ただし、実際には大変な目に会ってしまう結果となる。
そして当日を迎えた。
その場所は【ロストカ城】の中庭だ。
薔薇の生け垣に囲んだ休憩場がある。
そこでは、城のメイド達がお茶会の準備をしていた。
中央に大きなテーブルがある。天板の上にも真っ白なクロスを敷き、色とりどりのデザートと香しい紅茶を用意している。
その周囲には、椅子を大量の並べられ、参加者達が次々と着席している。
やがて、お茶会が始まる。
「貴女がカレンナ様なんですのね!…お噂は、よく聞いていましてよ、」
「お会いできて光栄だわ!…私は男爵家の次女の…」
「是非とも私とも、お話をしてくださいませ!」
「あの、宜しければ好きな物とか教えていただきたいのですけど?」
「お待ちなさい!…私が先でしてよ?!」
すると貴族の少女達は、一斉に集まりだした。ほぼ半数の人数である。
各々が捲し立てる様に喋りかけてきた。
物珍しさに引かれたのだろう。
対して私は戸惑いながらも、なんとか取り繕って話をしていく。
しかし突然の出来事に、思わずシヤリーの方に視線を送って、助けを求めていた。
だが彼女も同じ様な状況だ。たまに此方に向かって、苦笑いを向けてくる。どうやら助けを求めてきているようだ。
私達は考えが一緒のようである。
「それで、シヤリー様は、お兄様とはどんなデートをなさったの?…何か甘い言葉でも囁かれていましたか?
「えぇと、…」
「…ドギマギしてしまいしたの?…私、凄く知りたいのですわ♥」
と、ナンリー様は輝かしい笑顔で、シヤリーに質問攻めをしていた。
どうやら年相応に、恋の話を聞きたいようである。もはや目の前の事にしか意識が向いていないようだった。
シヤリーも、しどろもどろとした様子をしながらも丁寧な口調で答えている。やや恥ずかしがっているけど嬉しそうに、口元に笑みを溢している。
彼女達の後ろでは、ナンリー様の侍女が落ち着かない素振りだった。必死に静止しようとしているも、全く効果がないのである。
やがて時間が許す限り、お茶会は続いていたのだった。
それが当初のお茶会の様子である。
※※※
「はぁぁ、」
私は大きく溜め息を吐いた。お茶会での事の成り行きを思い出していると、陰鬱な気分になっていた。
さらに城の中を歩き続けていても、中庭の方へと近づく度に、なんとなく足取りが重くなっていく。
何故なら、今日がお茶会の当日なのである。
あれから、ーーライルの正体を知った日から時間が過ぎている。
何事もなく予定していた通りの日々を送ってきた。
ただし、今の私は緊張と不安が脳裏を過っていた。そわそわと落ち着かない気分が続き、ー
(…平常心よ、平常心。…落ち着け、自分。)
と、必死に自分に言い聞かせていた。
(…あの時とは事情が違うから、何も考えずに楽しめないけど。…少なくとも事件の事とかは、バレない様にしないと。)
だが尚も不安に心の中を掻き乱される。段々と眉間に皺が寄り、怖い表情になっている気がした。
そうしていくうちに、離れた場所から、少女達の可愛らしい声がしてきた。
私が気がつくと、前方に中庭の入り口を見つける。急いで服装の乱れを確認した。
今の服装は、白い長袖のシャツとベスト、ぴっちりした黒色のズボン。比較的に気軽な格好をしていた。
ただ今回は格式ばった席ではないとの事で、服装は自由である。
「よし。」
と私は襟元を正して覚悟を決めると、中庭の方へと入っていった。
そこでは多くの人がいた。当初の予定した通りに、お茶会の準備が行われているようだ。
城のメイド達は、忙しそうに動き回って作業していた。
椅子とテーブルを設置し、皿や料理を並べていく。もう殆どが佳境に入っているようだ。
テーブルの周りにも、参加者の少女達が集まってきて、次々と椅子に着席している。
その中には、見知った顔ぶれもいた。
シヤリーである。
さらに隣にはナンリー様も立っていた。
「…あ、カレンナ!」
と、真っ先にシヤリーが此方に気がつき、手招きしてくる。凄く安堵した表情をしている。
ほぼ同時に、周囲はざわつきだす。
彼方此方から視線が向けられる。
「え?…うそ!」
「あれは、カレンナ様?!」
少女達の囁く様に会話する声もしていた。
「あはは。…」
と私は苦笑いで横目にしつつ、シヤリーの方に寄っていった。
すると此方が辿り着くや否や、ナンリー様が優雅に御辞儀をして、挨拶をしてきた。
「ごきげんよう、カレンナ様。…ようこそ、お越しくださいましたわ。」
「ごきげんよう、ナンリー殿下。…お招き感謝致します。」
すぐに私も姿勢を正し、笑顔を向けながら挨拶を返した。
なんとか平静を装おえている。
ついでに少女達の黄色い声もしてくる。
「…そんな畏まらないでくださいませ。…今日は、お友達同士の交流の場ですわ。…」
ナンリー様は柔和な笑みを向けながら、返事をする。
すかさず自らが椅子に手を掛けて引き、シヤリーの右隣の席に座る様に促してきた。




