表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

どけよ、ババア!笑 と言われたので

作者: まめまめみ

 ――それは、年が明けて最初の日の出の時だった。


 神社の参道は、早朝にも関わらず人で溢れていた。

 家族連れ、恋人同士、酔っ払い。祈りと酒と欲が、同じ空気に混ざっている。


 私は参拝者の列に並んでいた。

 

 近くには、家族連れがいる。

 小さな子どもを抱えた父親と、その後ろに小学生くらいの男の子と女の子、そして母親。

 今どき珍しいな。と、こっそり見守っていた。


 その時だった。


 横から、酒臭い笑い声と一緒に、三人の若い女が割り込んできた。人の列を、空気を、家族を、当然のように分断する。


「ちょっと……!」


 反射的に、手を伸ばした。

 ほんの一瞬、子どもたちと目が合う。


 ――その直後。


「どけよ、ババア!笑」


 肩に、軽い衝撃。

 突き飛ばされた。


 三人はゲラゲラ笑いながら、何事もなかったように列を外れ、人波に消えていった。


 朝日に照らされる境内が、やけに眩しかった。

 胸の奥が、すっと冷える。


 ……ああ。

 やっぱり今年も、人は愚かだ。


 私は、静かに息を吐いた。


 その瞬間――

 参道の先、本殿の松明が大きく揺れた。


 空気が、変わる。


 私の背後に、大きな影が立った。

 否、影ではない。世界そのものの重みだった。


「……神様?」


 誰かが、かすれた声で呟く。


 私は振り返らない。

 ただ、押された肩を軽く払った。


「いいえ」


 声は穏やかだった。


「私はただの――今年を管理している者です」


 次の瞬間。


 境内を横切っていた三人の女が、何もない場所で同時に転んだ。


「え、なに!?」

「ちょ、足!?」

「うそでしょ!?」


 立ち上がろうとして、また転ぶ。

 スマートフォンは割れ、バッグの中身は散乱し、笑い声は悲鳴に変わった。


 さらに。


 彼女たちの頭上に、見えない“札”が浮かび上がる。


 《今年の運勢:凶》

 《原因:自業自得》


 誰にも見えない。

 ――だが、運だけは確実に見ている。


「安心してください」


 私は、先ほどの家族連れに視線を向けながら、淡々と言った。


「命までは取りません。ただ、今年一年。彼女たちは」


 ・電車、バスには必ず乗り遅れ

 ・恋は噛み合わず

 ・仕事も遊びも、なぜか一歩ずつ狂い

 ・人を笑った分だけ、同じ目に遭う


「それだけです」


 この神社で。家族を分断し、人を突き飛ばし、それを笑った愚かさを見逃すほど、私は甘くない。


「もっとも」

 

 私は、ほんの少しだけ口角を上げた。

 静かに、続ける。


「これは、私たち“管理者”の仕事です。神様にお願いしても、どうにもなりません」


 そして、列から外れた。


「退けと言われたので」


 一歩、脇へ。


「今年は、退いたままにしましょう」


 最後に、空を見上げる。


「――あけましておめでとうございます」


 新年は、確かに始まった。


 世界は今日も公平だ。

 踏み越えた分だけ、きちんと躓く。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

少しでもスカッとしていただけたなら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ