どけよ、ババア!笑 と言われたので
――それは、年が明けて最初の日の出の時だった。
神社の参道は、早朝にも関わらず人で溢れていた。
家族連れ、恋人同士、酔っ払い。祈りと酒と欲が、同じ空気に混ざっている。
私は参拝者の列に並んでいた。
近くには、家族連れがいる。
小さな子どもを抱えた父親と、その後ろに小学生くらいの男の子と女の子、そして母親。
今どき珍しいな。と、こっそり見守っていた。
その時だった。
横から、酒臭い笑い声と一緒に、三人の若い女が割り込んできた。人の列を、空気を、家族を、当然のように分断する。
「ちょっと……!」
反射的に、手を伸ばした。
ほんの一瞬、子どもたちと目が合う。
――その直後。
「どけよ、ババア!笑」
肩に、軽い衝撃。
突き飛ばされた。
三人はゲラゲラ笑いながら、何事もなかったように列を外れ、人波に消えていった。
朝日に照らされる境内が、やけに眩しかった。
胸の奥が、すっと冷える。
……ああ。
やっぱり今年も、人は愚かだ。
私は、静かに息を吐いた。
その瞬間――
参道の先、本殿の松明が大きく揺れた。
空気が、変わる。
私の背後に、大きな影が立った。
否、影ではない。世界そのものの重みだった。
「……神様?」
誰かが、かすれた声で呟く。
私は振り返らない。
ただ、押された肩を軽く払った。
「いいえ」
声は穏やかだった。
「私はただの――今年を管理している者です」
次の瞬間。
境内を横切っていた三人の女が、何もない場所で同時に転んだ。
「え、なに!?」
「ちょ、足!?」
「うそでしょ!?」
立ち上がろうとして、また転ぶ。
スマートフォンは割れ、バッグの中身は散乱し、笑い声は悲鳴に変わった。
さらに。
彼女たちの頭上に、見えない“札”が浮かび上がる。
《今年の運勢:凶》
《原因:自業自得》
誰にも見えない。
――だが、運だけは確実に見ている。
「安心してください」
私は、先ほどの家族連れに視線を向けながら、淡々と言った。
「命までは取りません。ただ、今年一年。彼女たちは」
・電車、バスには必ず乗り遅れ
・恋は噛み合わず
・仕事も遊びも、なぜか一歩ずつ狂い
・人を笑った分だけ、同じ目に遭う
「それだけです」
この神社で。家族を分断し、人を突き飛ばし、それを笑った愚かさを見逃すほど、私は甘くない。
「もっとも」
私は、ほんの少しだけ口角を上げた。
静かに、続ける。
「これは、私たち“管理者”の仕事です。神様にお願いしても、どうにもなりません」
そして、列から外れた。
「退けと言われたので」
一歩、脇へ。
「今年は、退いたままにしましょう」
最後に、空を見上げる。
「――あけましておめでとうございます」
新年は、確かに始まった。
世界は今日も公平だ。
踏み越えた分だけ、きちんと躓く。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
少しでもスカッとしていただけたなら嬉しいです。




