夜空に種を撒きましょう
ソレは、コンビニと隣のビルの間に座って隠れていた。
「何…をしているんですか?」
ソレは手を振り応えた。
「お疲れ〜。待ってたよ」
上等(?)かも知れないスーツなのに、隣りの汚いビル壁に寄りかかって…親が見たら泣くよな。
「お客様、不審な行動は困ります」
(警察に通報しますよ)
「朝陽ちゃんを待っていただけだよ。さぁさ帰ろう、送って行くよ」
ソレは親指で通りを指した。
(酔っているな…)
「いえ、チャリで来ているので、結構です」
押しているチャリを前に出した。
ソレはショックを受けたように、目に見えたションボリ顔をした。
「わっ、酷いな。朝陽ちゃんを家まで送りたくて、ここでジッーと待っていたのに…」
「えーと…、…」
「えっ!もしかして、朝陽ちゃんって俺の名前覚えてないの?」
(はい)
「あっ、いえ。もう夜遅いですし、酔っていらっしゃるみたいなので、まっすぐ家に帰られた方がいいですよ。それでは、お疲れ様でした」
お辞儀をして話しを切り上げようとしたら、ソレはにっこりと笑いながら言った。
「ビール500くらいじゃ酔わないよ。酔っているように見えるなら、うーん。そうだな、朝陽ちゃんの魅力に酔っているって事だ」
(…。…、ドヤ顔かよ…)
「じゃあ、これで…」
チャリと一緒に歩き出すと、ソレが弁当の入った袋を持ち追いかけて来た。
「朝陽ちゃん待って…」
もう、こんな事は2か月ほど続いている。
あれは確か、夏のゲリラ豪雨に逃げ場を失ったソレが、私の働くこのコンビニに走り込んて来てからだった。
ソレの名前は、佐伯○○…。
○○?なんだっけ?まぁ、名前はいいや。私より年上だけど同期になる。
私は会社では総務勤務で、ソレ…佐伯さんは営業の若手スター。社内ですれ違っても、挨拶する程度の人だったはずなのよ。
「佐伯さん」
「会社じゃないから名前で呼んで」
(なぜ?)
「どうしてですか?佐伯さん」
「俺は、朝陽ちゃんって呼んでるでしょう」
(いや、名前なんだっけ?確か…)
「…えいえんさん?」
「永遠」
(あぁ、なるほど)
「では、永遠さん。急ぎますのでお休みなさい」
「えっ、物騒だから送るって」
「チャリなので大丈夫ですよ~」
(タラタラ歩いている方が物騒と思いますよ。チャリならビューって行きますからね)
永遠、置いて行かれる。




