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貴族学園シリーズ

王太子殿下、いくら愛を囁いても心の中で喋ってる声は聞こえませんわっ!

 ◇◇◇


 ───ああ、今日もマリアンは美しいな。風に戯れる小麦色の髪が、キラキラと輝いて悪戯に私の心を惑わせる。捕まえて抱き締めてしまったら、君は驚いて逃げてしまうだろうか……


 心の中でそんなポエムを読まれているとは露知らず、無表情で凝視されたことが怖かったマリアンは、びくっと肩を震わせた。


「あ、あの、殿下?どうかなさいましたか?」


「いや、何でもない」


「あ、はい」


 アンドレの頭の中の妄想が加速するとともに、場はますます静まり返る。


 ダルメール国の王太子アンドレと、公爵家の令嬢であるマリアン。二人はれっきとした婚約者同士だ。


 月一度は二人きりでデートをするのが恒例なのだが、口下手でシャイなアンドレは、ただマリアンをじーと見つめるだけ。アンドレは愛する彼女と同じ空間で、ゆっくり見つめ合いながらお茶を飲む、それだけで幸せだった。


 一方のマリアンは、今も毎日ラブラブな両親をみて育ったため、ちっとも仲良くなれない二人の関係に悩んでいた。


(お父様もお母様もこっちが恥ずかしくなってしまうくらい愛の言葉を囁やきあってるわ。殿下は寡黙な方だけど、本当に愛してるなら愛してるの一言くらい、言ってくれるはず。でも、一度だってそんな言葉、掛けてもらったことないわ。殿下が私を選ばれたのは政略的なことかもしれない。でも、私は私を愛してくれる人と結ばれたい。このままで私、本当に幸せになれるの?)


 今日も二人の思考は思いっきりすれ違っていた。



 ◇◇◇


 そして迎えたアンドレ18歳の誕生日。成人を迎え、貴族学園を卒業したあとは、愛する婚約者との幸せな結婚生活が待っている。アンドレはそう信じて疑わなかった。待ちに待ったマリアンとのデートに出かけるまでは。


 その日の午後、マリアンは震える手を握りしめ、意を決して切り出した。

「殿下……本日をもちまして、婚約を解消していただきたく存じます」

 アンドレの世界が、音を立てて崩れた。

(なぜだ!? こんなにも、これほどまでに愛しているのに!?)


「殿下は、わたくしのことがお気に召さないみたいですし、わたくしとしましても……」


(嫌だっ!聞きたくないっ!)


 焦りと動揺が頂点に達したアンドレは、取り返しのつかない言葉を口にしてしまう。


「この婚約は王家と公爵家を結ぶもの。勝手に婚約破棄などできると思うな」


 マリアンは一瞬だけ目を見開き、次の瞬間、ぽろりと涙を落とした。


「やはり、殿下はわたくしのことがお嫌いなのですね……」


 泣きながら走り去っていくマリアンを呆然と見つめるアンドレ。


(ど、どうしてこんなことに!)


 ◇◇◇


「なぁ、今日の殿下一段と機嫌が悪くないか?」


「ああ、なんかヤバい目つきしてるよな」


 ヒソヒソと囁やき合う級友たちを尻目に、アンドレは言葉もなく落ち込んでいた。


(もうおしまいだ。彼女のいない人生なんて考えられない。このまま旅に出たい……いや、王太子の立場ではそれすらも許されないのか。死にたい)


 ズーンと落ち込むアンドレに貴族学園で魔法学の教師として教鞭を執っている宮廷魔術師が声をかけた。


「あの、殿下?他の生徒達が怯えてますが、何か機嫌を損ねることでもありましたか?」


「ああ、お前か……」


 飄々とした男だが魔法の腕は確かで、国王からの信頼も厚い彼は、アンドレに臆することなく話しかけてくる数少ない人物のひとりだ。


 アンドレはマリアンから婚約破棄を申し出られたことをぽつりぽつりと話し始めた。普段なら決して漏らすことのない弱音。それほど弱っていた。


「はは〜ん。まぁ、よくあるすれ違いですね。殿下はマリアン嬢のことを憎からず思っているのに、マリアン嬢はそのことにちっとも気がついていないと」


「そう、だな」


「まぁ、そもそもマリアン嬢が殿下のことを好きかどうかはわかりませんが。王家からの婚約の打診を断る家なんてないでしょうし」


「──くっ、わかっている!だから、結婚後は俺の生涯を掛けて全力で幸せにするつもりで……」


「殿下、いくら心の中で想っていても、声に出さなきゃ伝わりませんよ。そうだ、良いものをあげますね」


 そう言って魔術師は小さな瓶を差し出した。


 瓶を訝しげに見つめるアンドレ。


「なんだこれは。言っておくが俺に媚薬の類は効かないぞ?」


「まぁまぁ、騙されたと思って飲んでみてください。誕生日を迎えられた殿下にちょっとしたプレゼントです」


 思い切って瓶の中身を煽るアンドレ。


「昔同じように悩む方に差し上げたこともありますから。効果は保証しますよ」


 ◇◇◇


 次の日の朝、いつになく饒舌なアンドレがそこにいた。


 いつも朝の用意をする侍従に対して、

「いつもながら手際がいい。水の温度管理も完璧だ。私が熱いお湯が苦手なのを知っているのだな。心遣いができる男だ。感謝している」


「殿下!何ともったいないお言葉!一生お仕え致します!」


 朝食を運んできた料理長には、


「いつもながら絶品だ。トーマスの朝食を食べるのが朝起きて一番の楽しみだ。特にこの手作りジャムが美味いな」


「こ、光栄です!これから毎日お出ししますね!」


 次々と周囲に感謝の言葉を述べるアンドレ。

 普段無口で何を思っているか分からないアンドレの突然の賛辞に、最初は戸惑いながら、感動する側近たち。


「殿下!」「嬉しいです!」「嫌われてると思ってました!」と声が上がる。


 一方でアンドレは思ったことが全部口をついて出ることに驚き、これから学園に行くのに、変なことを口走らないようにと、頭の中を整理することに四苦八苦していた。


(何がプレゼントだっ!王太子として思ったことを何でも口にしたらまずいだろうがっ!)


 どんなに気をつけていても、ついついぽろりとこぼれる本音。だが、周りの評判はうなぎ上りだった。


「今日のアンドレ殿下いつもと雰囲気が違うよな」


「ああ、前は正直近寄りがたかったんだけど、殿下のほうから気さくに話し掛けてくれて驚いたよ」


「それな」


 一方で女生徒たちは首を傾げていた。


「そうかしら?」


「私たちの前では特に変わらないけれど」


「マリアン様はどう思われます?」


 とその場にいたマリアンに話を振る。


 静かに肩を落とすマリアン。


 マリアンはあれ以来アンドレを避けていた。アンドレが変わったと言っても、2人の関係は変わらない。アンドレが認めてくれない限り、婚約破棄は難しい。結婚後はこのまま仮面夫婦になって、冷たい夫婦生活を送るんだわ。とか考えていた。


 そこに教師に呼び出されたアンドレがやってきた。


(しまった!)


 と思ったときは遅かった。


「ああ、マリアン。俺の天使。俺の生きる希望。君に無視されてから俺はもう死にそうだ。こんなに愛してるのに君にどう伝えていいかも分からないなんて、俺はなんて駄目な男なんだ。君を愛する気持ちは誰にも負けない。君だけが俺のすべてなんだ!」


 マリアンが視界に入った瞬間、言葉がスラスラと口から飛び出す。


 ぽかーんとアンドレを見つめるマリアンと周りの生徒たち。


 大笑いする宮廷魔術師。


 またしても呆然と立ち尽くすアンドレだったが、

 マリアンが


「それ、ほんとう?」


 と聞いてきたので、思わず


「俺は君のことを死ぬほど愛してる!」


 と答えてしまう。


 おお〜っとどよめく教室。


 だが次の瞬間、


「嬉しい!」


 マリアンは、アンドレの胸に飛び込んだ。


「えっ!?マリアン?」


「殿下がそんなにわたくしのことを想って下さっていたなんて!わたくし感動しましたわ!」


 ◇◇◇


 翌日すっかり元に戻ったアンドレだったが、


「ねえ、わたしのこと好き?」


「もちろん愛してる」


 と、マリアンの前だけは素直に愛の言葉を伝えることができるようになったのでした。


 おしまい。


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― 新着の感想 ―
拝読させていただきました。 いや王太子。いいことばっかり思ってたじゃん。 根っからいい奴じゃん。 これはハピエンになるじゃん。 宮廷魔術師いいキャラしてるじゃんw
すんごく可愛い短編をありがとうございます! 薬が切れても、ちゃんとマリアンに愛を伝えられる人になってて安心いたしました♪
ほっこり幸せな気持ちになりました♪ 素敵な年納めが出来ましたー! 短編ありがとうございます(≧∇≦)/ (めっちゃスラスラと出るほど好きやん、殿下…。やっぱり想いは口にして正解!)
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