無理やり勇者にさせられた町人〜世界を救う系の主人公なのに何故か装備がめっちゃ弱いの〜
「おお、勇者ローヒンよ。待っておったぞ」
「王様。私は兵士として雇われると姫から伺いましたが、何かの間違いでしょうか。今勇者とおっしゃいました?」
この男ローヒンは、城下町で町人としてごく普通の町人生活を送ってきた男である。たまたま外に出掛けていった姫が何故か井戸に落ちかけているのを発見し、助けたことで兵士としてスカウトされた、はずだったが。
「いやいや、間違いではないぞ。そなたは確かに勇者としてここに呼ばれたのだ」
ローヒンは王から顔を背けてボソッと言った。
「いやいや、オレただの町人やで。勇者とか意味わからんて。てか勇者って何? 何か怖いこと命令されるんちゃうやろな」
王はローヒンにジトリとした目を向ける。
「ん? 何か言ったか?」
「いえいえ、何でもありません」
ローヒンは慌ててごまかす。王は咳払いをして言った。
「オホン! 勇者ローヒンよ。この城から遥か東にある巨大な城のことは知っているな?」
「ああ、あのキーングとかいう大きなモンスターが住んでいるという噂の?」
とりあえずその勇者って呼ぶのやめてくれへんかな、と心の中で文句を言いながら返すローヒン。
「そうそう。近頃その怪物がとんでもなく暴れまわっている。どうしたもんかと思っておったのじゃが」
ローヒンは嫌な予感がした。
「まさか私に倒しに行けとかいうんじゃありませんよね」
「お、話が早くて助かる」
ローヒンはまた王に聞こえないくらいの声でボソッと言った。
「いやいや、意味分からへんて! オレただの町人やで? 何考えてんの、この王様」
「姫がどうしてもそなたに行ってほしいと言ってきかないのじゃ」
ローヒンはますます困惑する。
「お姫様もお姫様で何考えてるねん! オレは町人なんや! そんな戦いとかしたことないし。親子そろって何考えてるねん、ほんま」
「ああ、ローヒン? うなっているところ悪いが、これは国王命令じゃからな。そなたには何が何でもそのキーングを倒してもらわねば」
「いやいや、無理ですよ。私に倒せるわけないじゃないですか」
王は頭を下げた。
「頼む! 姫の願いを聞いてくれ! そなたに旅立ってもらわねばわしが姫に怒られるのじゃ」
いやあんたの心配かい、とローヒンはずっこけそうになる。
ローヒンは気を取り直して言った。
「意味不明ですって。何でお姫様が私に旅立ってほしいのですか」
「鈍いやつよのー。姫はおぬしに惚れとるんじゃ」
ローヒンは少し良い気分になったが、旅立ちを免れたわけではないのでまた暗い気分に戻った。
「光栄だとは思いますけど、それとキーングを倒すことに何の関係が?」
王はそのたくましく生えているひげを触りながら言う。本当にたくましいのはひげだけだが。
「それは決まっておろう? 何のステータスもない今のそなたでは国民が納得しまい。しかしあのキーングを倒した勇者が相手であれば誰も文句は言うまいて。要は結婚のための儀式みたいなもんじゃな。ホッホッホッ」
ローヒンは頭を抱えたくなった。
「あのなあ、それオレに気がなかったら成立せえへん話やで。お姫様と結婚は悪い気はせんけど、無茶苦茶やて」
「どうじゃ、悪い話ではなかろう?」
「いや悪い話です。誰が好き好んでモンスター退治に出掛けますか。いくらお姫様の頼みでも聞けません」
「そんなこと言わず、お願いじゃ。頼む勇者よ!」
王は頭を下げた。
「何度言われても無理ですよ」
ローヒンはそっぽを向いた。
「そんなこと言わず、この通りじゃ」
今度は王は土下座した。ローヒンはさすがに慌てて王を起こそうとする。
「え、ちょっ、王様? 何もそこまでせんでも」
するとそこに姫が現れた。
「あら、お父様。どうして土下座なんてなさってるの?」
「おお、姫。来たか」
「げっ、まずいわ。こんなところ見られたら」
しかし姫はただ不思議がるだけでそれ以上のことは聞かず、ローヒンの姿を見るや興奮したようにローヒンに近づいた。
「あらローヒン! お待ちしていたわ。きっと来てくださると思っていたのよ。それでお父様。お話の方は?」
「おお、ローヒンはこれから旅立つとのことだぞよ」
「は?」
ローヒンは驚いて思わず声を上げた。姫は瞳を輝かせ頬を赤らめて言う。
「まあ! それではローヒンは私との結婚を承諾してくださったのね? 嬉しいわ、ローヒン!」
姫がローヒンに抱きつく。ローヒンは姫に聞こえないように小さく叫ぶ。
「何や何やこの展開。てか、いつの間にか王様椅子に戻ってるんやん」
王はローヒンにウインクした。
「うわ、何やあの無駄にうまいウインク、何かむかつくわ。でもこれもう旅立たなあかんかな。お姫様かなり期待してるみたいやしな……、しゃあない
な、もうやるだけやったるわ!」
ローヒンは無理矢理自分を納得させ旅立つことにした。
「ところで王様、私の武器などは?」
姫は勉強の続きをしないといけないらしく、席を外した。
ローヒンは旅立つ前に王から武器や防具を支給してもらうことにした。
「ん? 武器? おお、武器か!」
王は完全に忘れているようだった。
「王様、まさか丸腰で旅立てと?」
ローヒンはあからさまに不満そうな目を王に向けた。
「いやいや、さすがにそんな無茶なことは言わんよ」
既に無茶な要求をしている癖にどの口が言うのだろうか。ローヒンはさすがに武器くらいはちゃんとしたものを提供してもらえると思い期待してみる。王は後ろにあった箱を色々探って武器らしき物を取り出すとローヒンに差し出した。
「ほれ、この武器を持て」
渡されたのは木の棒だった。
ローヒンはしばらく木の棒を眺めた後、ため息混じりに言う。
「あの、王様?」
「何じゃ?」
「お言葉ですが、これではモンスターと戦えません。もっと強い武器を支給してはいただけないでしょうか?」
王は当然のように驚いた。
「何と、おぬし木の棒では戦えないと申すか?」
ローヒンはボソッと言う。
「いや、当たり前やん。ただの町人相手に木の棒で戦えとか正気か? レベル上げる前にやられるで」
王は腕組みしながら考え込んでいるようだ。
「むう、しかし旅人に支給できるのは木の棒だけなのじゃ。残念ながら」
「ええー、仮にも勇者やのに待遇めっちゃ悪くない?」
ローヒンは頭を抱えつつ王に返す。
「しかし王様、これではやはり戦うには不十分かと」
「むう、しかしなあ」
そこで、いつの間にか帰ってきていた大臣が口を挟む。
「陛下、兵士用の武器や防具ならありますよ。それをお渡しになられては」
「おお! それではそれを下さい!」
しかし王は明らかに不満そうな声をもらした。
「ええー、いやあれは兵士用の武器であって旅人に渡すものじゃないぞ。兵士でもない者に渡したとなったら周りの兵士に反感をくらいそうじゃ」
ローヒン、またボソリ。
「何でやねん、キーングを倒しにいくための武器なんやから、それはええんちゃうの」
大臣が言う。
「それでは陛下、兵士として旅立たせればよいのでは? それなら兵士用の武器や防具も支給できますし。元々そのつもりで姫もお声をかけられたのでしょう?」
「まあそうじゃな。うーん、しかしローヒンよ。そなたはただの町人なんじゃろ? いきなり槍とか剣とか扱えるのかの?」
そう思うのならキーングを倒しにいけなんてはじめっから言わんといてほしいもんや、とローヒンは心の中で毒づきながら反論する。
「しかし木の棒だけだと何とも心もとないと言いますか……」
「ふむ、まあそうじゃな、確かに」
そして、王が考える脳があるのかないのかよくわからない頭を右に左にひねりまくっている様子をローヒンは、いつ終わるんかな、と思いながら見ていた。
それを見かねたのか、大臣が提案する。
「陛下、それでしたらウォーリッシュに一緒に行ってもらうのはいかがでしょうか」
「おお、そうじゃ! ウォーリッシュがおったな!」
聞き覚えのない名前にローヒンは首を傾げた。
「あの、ウォーリッシュとは?」
「彼はなかなか腕の立つ戦士ですよ。普段は北の洞窟にいるのですが、たまーにふらっとやって来ますね」
するとそこに体格の良い右腕に古傷のある男が現れた。
「呼んだ?」
「おお、ウォーリッシュ! 待っておった!」
「って、この男がウォーリッシュかいな。ほんまにふらっと来おったな。しかも遠慮もなく、ずかずか入って王様にタメ口たたけるとこ見ると色んな意味でただもんじゃないわ、この兄さん」
「何か唐突に来なあかんような気がしてな、来てみたんやけど」
そのガッシリとした体つきに似合わずウォーリッシュは人懐っこそうな笑みを浮かべて言った。
「さすがはウォーリッシュじゃ。探しにいく手間が省けて助かった。ウォーリッシュよ、早速だがこの勇者ローヒンはこれからキーングを倒しにいく。ただ見てのとおり、こやつはただの町人。特に取り立てて力があるのかないのかすらわからんが、一人だと不安なので仲間が必要というわけじゃ」
勇者として半ば強引に旅立たせようとしている男に対し、散々な言いようである。ウォーリッシュはローヒンを見て心底、心配そうな表情を向ける。
「え、キーングを倒しにいくんかいな。あんたそら、無謀やで。もちろん行ったるわ。あんた見てたらちょっとしたモンスターにでもすぐやられてしまいそうやもんな」
「いや、あんたそら言い過ぎやで」
ローヒンは口ではそう言いながらもホッとしたのだった。
「何はともあれ、ひとまず安心ですね」
「おお。ローヒン、ウォーリッシュ。頼んだぞ」
「はい!」
こうしてローヒンたちの旅が始まった。
「ところであんた、そないなふわふわした格好で旅に出るつもりかいな?」
「え? あー!!」




