四葉のクローバーは自力でみつけるものである3(エドワード視点)
リクエスト番外のエドワード視点です。これにて四葉のクローバーは自力でみつけるものであるはおしまいです。
ロディーと二人きりでのデートを誘うことに成功したと思いきや、まさかのシルフィーネ嬢の登場に、俺は思わず睨みつけてしまった。
学校では学年も性別も違うため同じ授業なんてまずないし、生徒会などのつながりもない。そのため下手したら一日会えないことすらあるのに、待ちに待った日にこの仕打ち。きりきりとしてしまうのも仕方がないと思う。
しかもロディーに至っては、シルフィーネ嬢の登場に驚きつつもどこか嬉しそうだし。
知ってましたよ。知ってましたとも! ロディーの一番がシルフィーネ嬢だと言うことは。
幼馴染としての数年分の時間の積み重ねは仕方がないと分かっているけれど、やっぱりそのキラキラとした眼差しが奪われるのは面白くない。
「エドワード先輩もそう思いません? ロディーにボディーペイントってすごく映えると思うんです」
面白くないけれど……でもロディーが自由におしゃれできるようになって欲しいと思う気持ちは同じだ。だからこのボディーペイントを流行らせようと俺はシルフィーネ嬢とこっそり動いていたわけだし。
塗料を輸入すると、平民が使用するにはお金がかかるから、開発費は俺もちでこの国にある材料で害のない塗料を作るところから始まった。これはオリバーにも協力してもらっている。
そしてシルフィーネが実際にやり、看板となる。
今はようやく少しづつ浸透してきたところだ。
「確かに似合いそうだね。……折角だし、シルフィーネ嬢とお揃いにしてもらったらどうだい? 別に見せびらかさなくても、仲良しの証のようでいいのではないかな?」
本当は俺がお揃いにしたいけれど、たぶんそれはまだまだロディーの中ではハードルが高だろう。そうでなくても痣のある腕を出すことに抵抗があるのだ。だから少しでもやりたくなる選択肢をあげる。
「それすごくいいですね! ロディー、やろうよ。私ロディーとお揃いが欲しい」
「あー。うーん。でも、その、私の腕だと店の人が驚くのではないかな?」
「そんなことないって。だって、あの人ここに来る前は別の国でボディーペイントしていたし、師匠は異種族の人だったって聞いたもの」
シルフィーネ嬢が言う通り、今ある露店の店主は、差別主義ではなく、異国人とも問題なく付き合える人を人選した。本当は実際にボディーペイントの文化が根付いている地域の職人を引っ張ってきたかったが、異種族が行うと避ける人も出てしてしまうのがこの国の現状だ。
そういった人が店を持てるようになるにはもっとこの国で根付いてからだろう。ひとまずは異種族の特徴がまったくないことを条件に人員を探した。実際は異種族の血が多少混ざっているそうだが見目さえ人間なら問題ないし、混ざっているからこそ異種族の特徴を持つ者に対して寛容だ。
「ね? ロディー、だめ?」
「……いいよ」
流石はシルフィーネ嬢だ。あざとく小首をかしげ上目遣いでロディーにお願い事をし、見事同意を得た。にっこり可愛らしく笑っているが、内心は暴れ回るぐらい歓喜の嵐だろう。
ロディーにお願いをごり押しして聞いてもらって、なおかつ好意が減らないと言うのが少しうらやましくて憎たらしい。
きっと自分がロディーにそういう手で出れば命令だと受け取るだろう。最終的に聞いてはくれるけれど、好感がごりごり削られるに違いない。
「そうと決まれば、エドワード先輩も早く行きましょう。善は急げです」
確かにロディーの気持ちが変わってしまう前にやってしまうべきだ。シルフィーネ嬢に押される形で小走りになるロディーを俺は追いかける。
「あら。いらっしゃいませ」
「ふふふ。お客を連れてきたわ。私の親友なの。私のも付け足していいからお揃いっぽくペイントして欲しいのだけど」
「かしこまりました。それでは一度服を変えてもらってもいいですか? 塗料がついてしまうともうしわけないので。更衣室はこのカーテンの向こうで――」
ロディーは長袖で首までしっかり素肌が隠れる服を着ている。その為、めくったとしても腕に描くのは大変だ。先に着替えてもらうと言うのは効率的だろう。
「さあロディー、はやくはやく」
「えっ。あの」
「大丈夫、ちゃんと伝えておくし、ロディーは着替えてくれればいいから」
相変わらずシルフィーネ嬢はロディーの肩を掴みごり押しして、更衣室となっている場所にロディーを入れた。
「彼女、頭に咲いている花で分かると思うけれど、花人の特徴をもっているの。元の痣を上手く使って飛び切り綺麗にしてくれるかしら?」
「ええ。分かりました」
「ついでに私もお揃いみたいにおねがいね。完璧に同じは無理でも、親友だって分かるような構図で」
店主は特に顔色を変えたりすることなくすらすらと注文を聞く。それどころか若干楽しそうだ。
しばらくして、閉められていたカーテンが開いた。
「えっと……あの……」
ロディーはものすごく困った様子で、ノースリーブの服を着て出て来た。少しでも隠そうとするかのように腕に手をやっているが、焼けた事のない白い肌にははっきりと蔦のような痣が見えた。
すごくロディーが気にしているようすだったから、相当見目が悪いのかと思ったが、ペイント前でも俺にはそれが美しく見えた。
「うん。肌が凄く白くてきれいだし、やりがいがあるわ。こちらに来てもらえる? 好みの花とか柄とかある?」
「えっと。とくには……」
「じゃあ、何枚か絵を見せるから好きなものを選んでくれる?」
すごくびくびくした状態でロディーは出て来た。それをぼんやりと見ていた俺のわき腹に、どんと衝撃が加わる。
「女性のおしゃれするところを男性にまじまじと見られるのはやりにくいです。ちょっとどこかに行っていて下さい。三十分ぐらいで終わりますから」
「はい?」
「ほら。早く」
なんということだろう。デートどころか、その場所からも追い出されてしまった。
ボディーペイントは化粧の一種みたいなものだし、やっている最中をのぞくのはマナー的にもよくないのは分かる。分かるけれど……くやしぃぃぃぃぃ。
シルフィーネ嬢は女の子同士だという強みを使いすぎではないだろうか。
それでも折角、かたくなに肌を出さなかったロディーがやる気になったのだから、俺は邪魔するべきではないだろう。ロディーを幸せにするというのは何と忍耐を強いられるものなのか。
店の前に居れば気が散るだろうと思い、俺はぶらぶらと町中を歩く。
「お兄さん、花買って下さい」
足が遅かったのもあり、貧民の花売りに声をかけられてしまった。
まだ十もいっていないだろう少女の籠には、薔薇の花が入っている。
「……三本くれるかな?」
「うん」
俺はせっかくなので三本の赤薔薇を買った。確か薔薇は三本で告白だ。
きっと綺麗になっているだろうロディーに再度気持ちを伝えるのに丁度いい。
「そうだ。この辺りにライラックが咲いている場所はある?」
「今は咲いていないよ」
あっ。そうか。
ロディーは年中咲かせているからつい忘れるが、ライラックの開花時期は、一年の本の一時だった。
「ありがとう」
薔薇を持ち、俺はさらに町中を歩く。
ライラックの花が咲いていないのならば、せめて模した髪飾りが手に入らないだろうか?
だが残念なことにライラックを模したものはなにも見つからなかった。
……俺も何かお揃いが欲しかったんだけどなぁ。
のんびり歩いて回り、そろそろかなと言うところで店に戻った。
きっとこの後もシルフィーネ嬢が一緒だろう。折角だから俺との思い出を何か持ってもらいたかったのだけれどロディーも嬉しそうだし……仕方がないか。
「エドワード先輩、早く早く!」
店に近づけば、シルフィーネ嬢が鮮やかにペイントされた腕を大きく振って俺を呼んだ。
町ゆく人がシルフィーネ嬢を見て頬を染め、その腕に注目し、お店の方を見てそれぞれ会話する。本当に看板として、すごい威力だ。
「シルフィーネ嬢、綺麗にペイントできているね」
「ありがとうございます。でも、ロディーが嫉妬しちゃうといけないので、残りの褒め言葉はロディーにお願いしますね。じゃあ、私、この後オリ—とデートの約束をしているので」
「え?」
オリ—とデート?
てっきりこの後も俺達と一緒に遊ぶのかと思ったのに、出てきた言葉にきょとんとしてしまう。
「ロディーが先輩のこと迷惑そうにしていたら、オリ—も合流して四人でデートということにしようと思っていたんです。でもロディーってば、エドワード先輩をおいだしてしまったことにすごく罪悪感を感じているし、ペイントが変ではないかなって、もうとにかく可愛い表情で聞くし。……邪魔するのは野暮というものという感じなのでエドワード先輩に任せます」
シルフィーネ嬢は少し拗ねたような表情をしたが、すぐに真剣な表情に変え、俺を真っ直ぐ見た。
「でもロディーを泣かせたら、二度と二人っきりのデートはないと思って下さい。あらゆる手を使い、ロディーと出かける時は必ず多人数にしますので」
「……肝に銘じておくよ」
しくじれば毎回デートがデートではなくなると。
それは勘弁だ。
「じゃあ、存分に可愛いロディーを愛でて下さい」
そう言ってシルフィーネ嬢は颯爽と立ち去った。
嵐のようだなと思いながら、店内をのぞくと、白色のノースリーブの服を着たロディーがいた。先ほど店の人に貸してもらった服とも違うので、もしかしたらシルフィーネ嬢が準備したのかもしれない。
「ロディー、お待たせ」
「いや、えっと。お待たせしたのは私というか……あの、えっと。この姿で隣を歩くと目立ちすぎてしまいますよね。その……あの」
いつもとは違い、すごい混乱したように話すロディーは腕を押さえようとしては、絵が消えてはいけないと思ったのか我慢してそわそわするという行動を繰り返している。
「すごくきれいだ」
なんと褒めようか。
どう言ったら一番喜んでもらえ絵うだろうかなど考えていたけれど、ポロっと本音がこぼれた。腕には花と蝶が書かれており、とても美しかった。
「まるで花の女王のようだ。美しき女王陛下、こちらを貰って下さい。俺の気持ちです」
三本の薔薇の意味を知っているのだろう。
ロディーは顔を真っ赤にした。肌が白いのでよく分かる。
「からかわないで下さい」
「からかってなんかないよ。本当にきれいだ。できることなら、俺にも同じものをまとう光栄を与えて欲しいな」
「お、おなじ?」
ロディーの頭の花が一房とれてしまっているのを見つけ、それを拾う。
取れてしまったライラックだけれど、それでもなお綺麗なままだ。それを俺の耳に刺すように飾る。
「本当は腕もお揃いにしたいけれど、また今度にしよう。ロディーはこんなにきれいで、俺はロディーのものなのだって見せびらかしたいしね。あーでも。本当は誰かにとられないように隠してしまいたいなぁ」
チュッとロディーの頭にキスを落とせば、とても甘く幸せな香りがした。




