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砂糖菓子娘  作者: 黒湖クロコ
番外
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四葉のクローバーは自力でみつけるものである2(フィーネ視点)

リクエスト番外のフィーネ視点です。前回の話の続きとなりますが、フィーネの過去から話がスタートします。

 物心ついた時には自分が可愛いということに気が付いていた。

 五歳ぐらいの時に看取った母は病と栄養失調でやせ細り、病人特有の異臭もした。それでもなお綺麗だと思えるぐらい整った顔立ちと、そう思わせる空気を持っていた。そんな母から生まれた私もまた人から好かれやすい相貌をしている。


 母が居なくなり孤児院に移っても、私は初日から大人から可愛がられ、男の子も好意的だった。最も男の子の場合は、好意が意地悪になることもあるので注意が必要だ。また男の子から好かれることにより、女の子からは嫉妬されるので、こちらもまた注意が必要。とくに女の子は集団で行動し、そこからずれたものを敵とみなすこともままあり、孤児院のような場だと注意深く行動しなければならない。

 可愛ければなんでもうまく行くと言う人もいるけれど、それは嘘である。

 自分からは断れない立場なのに貴族の子を孕んだことで、仕事先に居られなくなり、親族も頼れず子を一人で育て、最後は病にかかった母が幸せだったとは私には言えない。

 砂糖菓子のような女性だった母は、その甘い香りに誘われた者に、バリバリと頭から彼女の幸福ごと食べられてしまったのだ。

 だから私は、母より賢く生きようと思った。

 自分の顔は武器だ。これまでの経験から冷静に人の顔色を見て、どうしたら好意を持ってもらえるかと考えられるところも。

 だから砂糖菓子のような外見は十分に利用するけれど、決して群がる虫たちに奪われないよう立ち回るのだ。最終的に私が幸せでいられるように。


 そんな幼少期からの考えは変わらないけれど、私は孤児院で出会った少女、ロディーと共に幸せになりたいと願うようになった。ロディーは貴族の娘だった。だから私は初めから彼女に気にいられようと行動していた。

 でもロディーは私が困った時、美しいからでも、都合がいい人材だからでもなく、なんの打算もなしに私を守ろうとしてくれた。

 貴族令嬢だからそんな搾取されるだけの馬鹿な行動をとったのかと思えば、普段は自分の頭を武器にして上手く立ち回っている。底抜けのお人よしなのは確かだけれど、それだけではない。それは私が目指すべき姿で、いつしか打算なく彼女と共にいたいと思うようになったのは当たり前のことだ。


 ロディーは外見に花人の特徴を持つため色々陰で言われるが、私は誰より綺麗だと思っている。あの美しさに気が付かないのは異種族という偏見から、世界が歪んで見えるのだろう。

 ただ美しさだけを見ようとすれば、あの鮮やかな花も、桃色の髪も美しく、まさにロディーは花だ。そして彼女のやさしさは蜜のように甘い。一度味わえば癖になる。

 だからこそ、私はロディーを踏みにじろうとする有象無象から守りたい。でもロディーが綺麗だということは知らしめたい。不当にロディーが馬鹿にされるのは我慢ならない。


 そんな考えは、学校で会ったエドワード先輩と合致した。

 エドワード先輩ははじめ、私の外見を好きになったようだが、これはいつものことなので勘違いされないよう、ただの先輩後輩として適切な距離を心がけた。

 なんといってもエドワード先輩は四大公爵家の一つアルテミス家の嫡男なのだ。ただでさえ、高等部からの途中編入で目立つ上に、貴族に引き取られたことで平民から階級から変わり、習慣に合わせるのが大変なのだから、下手な嫉妬を買わないようにしたかった。特に私には迷惑になるからと距離を取ろうとするロディーと学校でも仲良くなるために、同級生の女子を味方にしなければいけないのだ。

 孤児院と変わらず貴族社会でも女子はグループを作る生き物だ。私もうまくそこに入り、ロディーを引き入れ、ロディーが一緒に行動することを断れない状態にしたい。

 そしてゆくゆくは学校でも親友の座を獲得するのだ。


 だというのに、エドワード先輩が好意を寄せたため、同じく四大公爵家のアポロン家のアルフレッド先輩にまで興味を持ってしまった。なんと迷惑なのだろう。

 告白されたら階級的にも厄介だし、その告白を断っても受け入れても女子からの嫉妬はすさまじく私の学校生活がめちゃくちゃになるのは目に見えている。そんなことになれば、ロディーと仲良くするどころではなくなってしまうだろう。

 何とか、自分で勝手にあきらめてもらう方向に持って行かなければ。

 そこでタイミングを見計らって転んでアルフレッド先輩に抱きとめてもらうのをエドワード先輩に見せるということをしてみた。エドワード先輩はそこまで私に執着していないし、アルフレッド先輩もエドワード先輩がちょっかいを出すから興味を持ってしまうだけだ。

 私の作戦は上手く成功したと思われたが、その後なぜかエドワード先輩はロディーに興味を持ってしまった。もちろんロディーの魅力は私が一番知っているのだから、それを知れば好きになるのは当たり前だとは思う。思うけれど……その親友ポジションに簡単に座るのやめてもらえます? そこは、私が苦労して何とか掴もうと足掻いている場所なんですけどっ‼


 正直腹立たしかったが、そのおかげでロディーと学校でも仲良くできるように認めさせられたのでよかったということにしよう。多少ごり押しだったけれど、仕方がない。

 そんなわけでエドワード先輩とはロディーが好きな同志なわけで、親友ポジションは譲れないけれど、ロディーを幸せにすることに関して協力し合うのもやぶさかでもない。というか、正直助かる面もある。

 やはり権力というのは偉大だ。

 私も伯爵家の一員ではあるけれど、立場は庶子。使える武器はこの顔だけ。そうするとロディーが幸せになれる環境を作るにはいささか弱いのだ。

 

 今回はエドワード先輩と相談し、ロディーの外見が周りに受け入れやすくなるようにちょっとした流行りを作ってみようと言うことになった。

 でもだからと言って、ロディーとエドワード先輩の仲を認めたわけではないので、あくまでロディーを幸せにする上での協力者だ。だからもちろん、デートだって邪魔をする。というか、私だってロディーとデートしたいのだから、独り占めはずるいと思う。

「あっ、ロディー。奇遇ね!」

「フ、フィーネ⁈」

 タイミングを見計らって声をかければ、ロディーは凄く驚いた顔をした。逆にエドワード先輩はお綺麗な顔を苦虫でも嚙んだかのように歪めた。あら? この人、こんな顔もするのね。

 ミケーレ様のことがあっても、私の時とは違い諦めようとしなかったのだから、ある程度は執着しているとは思っていたけれど。

 そういう姿を見ると少し好感度が上がる。うんうん。ロディー自身はエドワード先輩が好きなのだし、彼女だけが尽くし搾取されるような関係にならなければ私としては満足なのだ。


「その腕、露店で描いてしまったの?」

「可愛いでしょ? 今流行ってるみたいだから、やってみたの」

「もちろんフィーネならなんだって可愛いけれど……」

「えへへ。ありがとう」

 ロディーに褒められて、私は嬉しくてにこにこだ。

「お店の人も絶賛で、周りの人もこれを見てやりたいって言ってたの。無料にするから、沢山いろんな人に見せて宣伝してって頼まれたぐらいで。あ、もちろん料金は払ったよ。でもこんなに素敵なお店だからたくさんの人に知ってもらいたいなと思ってしっかり見せて歩いているの」

 私の顔をもってすれば、いい看板になるはずだ。 

 男性に好意をもたれ、女性から嫉妬されやすいと言っても、綺麗なものが嫌いな女性はいないのだ。ただの看板としてなら、とても好意的な目を向けてもらえる。


「でも、学校ではどうするの? その絵が見られないとも限らないのよ?」

「そこはね。真面目な顔をして、クンロン国の文化に触れてみようと思いやりましたって、堂々と説明すれば大丈夫」

「エディー先輩と考え方が同じだ……」

 ロディーは頭を抱えたけれど、こういうのはやった者勝ちだ。そして可愛いと思われている私ががやることで学校の他の女子にもやってみたいと思わせたいのだ。

 そうすれば貴族の中にこの流行が浸透し、いつしか文化の一つとなる。


「ロディーもやろうよ」

「えっ。私は……」

「ほら、腕にある痣に上手く合うようにペイントすれば絶対お洒落だと思うよ。むしろ町ゆく人が皆うらやましがるかも」

 そしていつしかロディーが何も隠すことなく、好きにオシャレも楽しめるようになればいい。

 ささやかだけど、少しずつ。私とロディーが幸せに暮らせるようになればいいと私は願い笑った。

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