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砂糖菓子娘  作者: 黒湖クロコ
番外
73/75

四葉のクローバーは自力でみつけるものである1(ロディー視点)

こちらはリクエスト番外で、ロディー視点です。

・その後のお話(エドワードははたして女の子同士のイチャイチャを容認できるか否かw)

・ロディーとエドワードのデート、フィーネを添えて(フィーネがちょっと邪魔をするお話)

・シルフィーネ視点(シルフィーネから見たロディーとエドワードの関係とフィーネがエドワードをどう思っているか)

を踏まえて書いています。

一話ごとに視点が変わっていくので、サブタイトルに誰視点なのかを書いておきます。

 下町の流行りに違和感を感じたのは、いつぐらいからだろう。

 髪飾り……というか、花を模した花飾りをつけて歩く女性が増えた気がするのだ。

 元々平民は普段それほど装飾品を身に付けない。だと言うのに、花を模した髪飾りが普通に露店に並んでいるのも見た。

 今までならば、こういった場所で売られるものは綺麗な石などで作られたペンダントや指輪が主流だったと思う。時折腕輪で、髪飾りは裕福な商人や貴族が身に付けたりするものという感覚だ。平民だと普通は紐で髪をまとめるぐらいで、お祝い事でも綺麗なリボンを使うぐらいである。

 装飾品というものが元々お金の余裕がある人が買うとはいえ、露天で髪飾り……。売れなければ置かれないので、ある程度の数が置いてある様子を見る限り、それなりに売れているのだろう。


 お祝い事の時に生花を髪飾りにしたという話題まで孤児院の子供達から聞かされて、やはり流行りに変化が表れているのを如実に感じる。

「あの子たちは腕に何か書いているみたいだね。あそこの店でやっているのかな?」

 変化を直接見るため市場調査をしようと行動を起こせば、何故かエドワード先輩までついてきた。婚約者なのだから近くで守りたいと真剣な目で言われれば断りきることはできなかった。ただし了承した後に、「わーい、デートだ」と言っていたのを聞いたので、守るという言葉は嘘でないけれど、本当の目的はそちらな気がしなくもない。

 いや、私だってエドワード先輩と一緒に行動することが嬉しくないわけではないのだ。ただエドワード先輩が平民の服を着ても、お忍びで出歩くいいところの坊ちゃん感が消えないため、調査する上では少し邪魔……げふんげふん。

 ともかく、まあ一緒に来てしまったものは仕方がないと、今日はそこまで調査できないかなと思いながら歩いていたわけだが、少し歩いただけで色々流行の変化を感じた。

 特に今エドワード先輩が指摘した、腕に絵を描くというおしゃれは、これまで見たことも聞いたこともない。


「皮膚に何か書くようなお店は、露天でやっているみたいですね」

 露店の前に置かれた看板には、絵や模様が描かれ、たぶんこの描いてあるものを体に書くのだろう。その下には値段が書かれている。ちょっとした贅沢として平民でも手出しできる値段設定だ。

 とはいえ、このような店は初めて見たので、よく分からない。

「すみません。こちらはどのようなお店なのですか?」

「いらっしゃい。こちらはクンロン国周辺でで流行っているボディーアートの店です。永遠に落ちない絵を描くところもあるそうですがそちらは痛みを伴います。当店は顔料で絵を描くので洗えば落ちますが痛みはないです。落ちてしまうのでもったいないと思うかもしれませんが、季節や気分で変えられますし、ごしごしと洗わなければしばらくは残せるのでおすすめです」

 落ちない絵はたぶんタトゥーというものだろう。やったことはないが聞いたことはある。確か、傷をつけてそこにインクを入れるという方法だったと思う。

 こちらは傷をつけず、ただ書くだけのようだ。


「お貴族様はマニュキアというもので爪に色付けされることもありますが、水仕事をするならばできません。でもこのボディーアートは好きな場所にできるので水仕事をしていても可能ですし、貴族より肌を露出する平民だからこそ映えるんです」

 貴族は日に焼けないよう長袖をを着ることも多い。元々贅を見せるためにふんだんに布を使った服も多い。でも庶民はお金がないので暑ければ薄着になるし腕も出す。暑い思いまでして贅沢に布など使わない。

「男性でもできるのかい?」

「はい。もちろん。異国ではお洒落ではなく厄除けとして描くこともありますから」

 とんでもないことを店主に聞くエドワード先輩にギョッとする。えっ。まさか。

「なら――」

「すみません。今日は忙しいので、またの機会で。ほら、エディー先輩行きますよ」

 私はエドワード先輩の背中を押して店から離れる。



「急いで急いで」

 私はエドワード先輩の手を握ると、足早に危険な店から離れる。

 好奇心旺盛なエドワード先輩ならば試したがるのも分かるけれど、学校で見せて先生に風紀がよくないと咎められるかもしれないのだ。簡単につけ外しできるアクセサリーとは違う。もしも私の所為で先輩の素行が悪くなったなんて噂が流れれば、アルテミス家から何を言われるか。

 こっちはただの伯爵位なのだ。勘弁してほしい。

 しばらく移動して、ここまでこればまた戻ろうなんて考えは出ないだろうと言うところまで離れて、ホッと息を吐いた。

「エディー先輩。今日中に消せるとは限らないのですから、考えなしに体験しようとするのはやめて下さい。お忍びというのは、内緒で行うものなのですよ?」

「ごめん、ごめん。でも服で隠れてしまう部分に書けば問題ないと思うんだ」

「そうかもしれませんが」

 隠そうと思えば隠せるわけなので、確かに目くじらを立てるほどでもないかもしれない。

「でも、隠してしまうなら意味がないのでは?」

 隠してしまうなら、何のために書くのかという話だ。ボディーアートが流行っている場所は腕などをさらす地域なのだと思う。

 ああいったものは、宝石とは違い、見せることで価値が付く。


「分かってないな。チラ見せが逆に想像を掻き立てていいんだよ」

「……チラ見せって見せてるじゃないですか」

 それ駄目じゃん。

 私が指摘すると、バレたかと言ってエドワード先輩は笑った。

「そこはね、異国文化を学ぶためにやりましたと、優等生の顔をして言えば、学校ではどうにでもなるよ。まさか異種族差別をなくそうとしているこの国で最先端の勉学を教える先生が、差別的な発言をなさるわけではありませんよね? ってね? それにしっかり見せるんじゃなく、勉学に集中するために上着で隠していて、でも袖が上がったりするとチラ見えするだけなのだから不可抗力さ」

「不良の見本のような答えですね。絶対教師になりたくないと思いました」

 元々四大公爵家で自身より身分が上で扱いが難しいのに、さらに詭弁をペラペラ話されたら、関わりたくないなと思ってしまう。

「そうかな? でもちゃんと周りに迷惑をかけないということは守っているよ?」

「当り前です。四大公爵家の方が横暴だったら、学校が崩壊します」

 とはいえ優等生だからこそ達が悪いと言うか……エドワード先輩が始めたら絶対それを見た生徒が真似するに違いない。きっと教師は頭がいたいだろう――。


 ふと真似するというワードにひっかりを覚え首を傾げる。

 このボディーアートという隠れお洒落が学校で流行る? 学校で流行ると言うことは、貴族の子女で流行るという意味だ。

 貴族の流行が平民の中にも浸透することもあれば、平民の流行りがより洗礼された状態で貴族間で流行った例がないわけではない。

 四大公爵家のエドワード先輩が宣伝するかのように始めるのだから、ボディーアートが流行っても何ら不思議ではない。先ほどの看板には、ワンポイントでハートなどの模様を入れるだけではなく、植物の蔦のような模様を腕全体に施すものもあった。

 そしてそれは……私の腕に産まれた時からある痣と酷似している気がする。


 そもそもだ。頭の花飾りも私の頭に咲いた花を連想させると言うか……。この間私に間違われて攫われたフィーネは頭に花飾りがあったのが原因で……んんん?

 これは偶然だろうか?

「あっ、ロディー。奇遇ね!」

「フ、フィーネ⁈」

 何かが見えそうで見えない状況にもやもやしていると、唐突に愛称を呼ばれた。その先には、誰よりも可愛らしい笑みを浮かべたフィーネが大きく手を振っていた。髪も露店で売っていたような貴族が使うものより格が下がった花飾りがついているが、それはそれで可愛らしい。

 そんなフィーネの腕に描かれたボディーアートを見つけ、私はギョッと目を見開いた。

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