心に咲く黄薔薇は赤く変わる7(エドワード視点)
俺とロディーが幸せに結ばれる土台を作るための根回しをし、味方をつけている最中に事件は起きた。
ロディーと間違えられ、シルフィーネ嬢が攫われたのだ。
幸いロディーのこれまでの行いにより、たくさんの人からの協力を得られ、シルフィーネ嬢は無事に保護されたが、水面下ではまだ問題は解決していなかった。
「エドワード。父上が国王を巻き込んで、ロディーナ嬢とルーカス様を婚姻させようとしているぞ」
事件が解決してすぐ、アルフレッドからそう警告された。
「思った以上に動きが速いな」
「それだけ今回の失敗に焦っているってことではないか? もしくは、どさくさに紛れて連れ去りたいか」
シルフィーネ嬢を攫った犯人はエルフ族だった。
そんな中で、エルフ族の王子であるルーカス様からロディーへの結婚打診。どう考えても、ロディーが幸せになれるような申し込みとは思えない。
「どちらにしろ父上は駄目だな。保身ばかりに目が行って、騒ぎを起こしたロディーナ嬢が悪いと屋敷で文句を言っている。どこをどう見ても、犯罪を犯した方が悪いに決まっているのに。父上はどんな悪習だとしても、エルフ族とこれまで通りの関係でいたいらしい」
長年この国の外交を担当してきたからこそ、国同士の争いに発展させたくないと思っているのだろう。大勢の人間を守るためならば、少数である花人の特徴を持つ娘を切り捨てるつもりなのだ。
ふざけるな!
そう言いたいけれど、これが戦争に発展した場合、それこそ目も当てられない大惨事となる。エルフ族とこの国では圧倒的な戦力差があり、負けるのは俺達だ。他の国からの支援が受けられた場合でも泥沼になり、多くの犠牲者が出るのは明らかである。
だからと言ってロディーを諦めるわけにはいかないし、この先もエルフ族の犯罪に目を閉じ続けて、それに加担するのはこの国にとっていいことではない。そんなものはただの属国だ。
「悪いな。自分の父親を裏切るような真似をさせて」
「いや。逆に相談相手がいてよかった。いなかったら、後先考えずに父上を殴り倒していたかもしれない。確かに今まではそれでうまく行ったかもしれないが、この先もエルフ族の言いなりでいることが正しい外交だとは思えないからな。特に今、ロディーナ嬢を切り捨てる真似をすれば花人族との関係は悪化するのは間違いない」
エルフ族と龍人族のみ付き合えばよかった昔と今ではかなり状況が変わった。
今まで通りにこだわり変化を受け入れられなければ、いずれアポロン公爵家は外交から外れることになるだろう。四大公爵家でバランスを取ってきたのに、そこが崩れるとまた別の問題も発生しそうだ。
「思わくを挫くためにも、エルフ族の王子様が婚約を打診する時に同席できるようにしたい。そこで俺も婚約者候補として名乗り出ようと思う。協力してくれないか? アルフレッドの力が必要なんだ」
「……ま、まあな。幼馴染の願いを叶えるのはやぶさかではないな」
ふふんと少し嬉しそうな顔をするアルフレッドを見て、俺は内心ため息をついた。こいつ、思っていたより単純だったんだな。
ちょっとおだてるようにお願いすればうまく動いた。……いちいち絡み方がうっとうしくはあるけれどアポロン家独特の表現方法なのだろう。
「ただ、エドワードの親族の方はいいのか? 結婚相手を理由に次期公爵位から外されるとかないか?」
「父の説得は骨が折れたけれど、外交をアポロン家だけに任せずこちらもユーピテル国やクンロン国との繋がりができることやロディーが生粋の異国人ではなく先祖返りでこの国の国民であること、彼女がこれまでにしてきた美談や彼女がいれば異国人差別を止めたという宣伝になることなど、婚姻を結ぶにあたってのメリットを山ほど上げておいたからね。両親は納得しているし、おじい様からの防波堤にもなってくれると請け負ってくれた。どちらにしろ老人はいずれこの世を去るし問題ないよ」
もちろん全員から祝福されるのが一番望ましいし、それがシルフィーネ嬢が望むことだけれど、すべてを書き替えるのは難しい。特に長年こうだと思い込んできた老人の考えをいまさら変えることは不可能に近い。
でも思い込みにとらわれた老人は徐々に消えていくし、全体数からいったら間違いなく少数派となるだろう。
大多数からの支持を得て、後はロディーが傷つかないように俺が矢面に立てばいい。
「政治的なメリットばかり上げられると、ロディーナ嬢を利用している大悪人のようだぞ」
「自由を望んでいる子を囲い込もうとしているのだから、俺は大悪人なのかもな」
ロディーの人生設計に俺との結婚はない。。
彼女は平民になって、誰からも守ってもらえずとも自由に強かに生きようと考え、実際にそのための行動している。ロディーは大人しく王子様を待つお姫様ではない、自分で行動を起こせる女性だ。だからこれは彼女からしたら余計なお世話だろう。
それでも俺は、彼女を自分が幸せにして、ずっと彼女の傍にいたいと思ったのだ。
「でも大悪人のようなことをしても、諦められなかったのだから仕方がない。その代わり、ロディーの笑顔が守れるように動くよ」
ロディーの幸せは彼女一人が幸せになればそれで満たされるわけではないようだ。
彼女だけでなく、彼女が大切に思う人物も平和でなければならない。そうでなければ、自分を犠牲にしてでも周りを救おうと動いてしまう。
ロディーが自分だけ満たされていれば幸せな、守られるだけのお姫様だったら、もっと話は早く、楽だっただろう。周りを遮断して屋敷に囲い込み、会う人も制限して、好きなものだけ与えておけばいいのだから。でも俺が好きになったのは、そうではないロディーなのだから仕方がない。
だから俺は自分の用いる限りのものを使って、彼女が笑顔でいられるようにするのだ。
その後、俺が国王の前で婚約を申し出たのは、友人として自分を守るためだったという解釈をされ、告白がなかったことにされかけたりもした。流石ロディー。一筋縄ではいかない。でも根回しが終ったのだから、後は地道にロディーを口説いて行くだけだ。
ロディーの反応はいちいち可愛いし、それはそれで楽しいだろう。
俺はロディーに俺の手を取ってもらえるよう、言葉も行動も惜しまないとにやりと笑った。
リクエストのエドワード視点はこれにて終わります。ありがとうございました。




