心に咲く黄薔薇は赤く変わる6(エドワード視点)
ロディーのことが好きで、彼女のためにできることをしよう。
そう覚悟を決めた後に判明した事実。
……俺の初恋、もしかしてロディー?
「……なんというか、原点に戻ったのか? それとも、幼い頃から好きなる方向性が変わっていないと言うことか?」
幼い日のあの子だから好きというわけではないと思う。
見目が近いと興味を引きやすいというのはシルフィーネ嬢の件で証明されているわけだけれど、俺は同一人物だと知らずに恋に落ちた。だからあの恋の続きをしているわけではない。
俺はロディーの人となりを知って、彼女を幸せにしたいと思ったのだ。できることならば、彼女の隣で俺が幸せにしたいと。
「まあそう言うのは些細なことだよな。というわけで、ミケーレ様。ロディーが抱えている問題を教えて下さい」
「君、馬鹿?」
俺はミケーレを屋敷に呼び、俺の心情などを伝えたわけだけれど、ミケーレは呆れたような顔をしていた。頭を押さえて、深いため息までついている。
「馬鹿は酷いなぁ」
「いや、分かってる? かなりあからさまに伝えたつもりだけど。もう、この際はっきり言うよ。僕はロディーが好きだ。つまり恋敵。分かる?」
「はい。分かってるつもりですけど?」
何度も喧嘩を売っているのかと思うぐらい煽られるし。
誕生日会の音楽も、まんま恋歌だったし。
何よりミケーレがロディーを見つめる時の目がソレだし。
「じゃあ何で僕が君に協力すると思っているのさ」
「えっ? ロディーが好きだからですかね?」
「はあ? ロディーに自分が一番好かれているとでもいいたいわけ?」
「いや、ロディーが一番好きなのは、どう見てもシルフィーネ嬢ですよね?」
恋愛ではないと思うけれど。
多分ロディーの中の不動の一番は彼女ではないだろうか?
俺の答えに、ミケーレは化け物を見るような目をした。
別にそんなに変なことを話しているつもりはないのだけれどなぁ。
「ミケーレ様もロディーが好きで、ロディーに幸せになってもらいたいと思っていますよね? 別に俺の恋を協力して欲しいと言っているのではないです。ロディーが抱えている問題を教えて欲しいと言っているんです。まず根本的な問題を綺麗にすることは俺にとってもミケーレ様にとっても大切だと思います。ミケーレ様はロディーが不幸せであるところに付け込んで連れ去りたいわけではないでしょう?」
もしもそうするならば、彼は今すぐにでもロディーを連れ去れるだけでの権力とコネを持っていると思う。彼は王子だし、ロディーの家族とも親密だ。
でも無理やり連れ去ろうとしているようには見えない。
あくまで彼は俺と対等な立場でロディーに振り向いてもらおうとしていると思うのだ。ロディーの気持ちをないがしろにできないならば、俺と向いている方向は同じだと思う。
「……はぁ。出し抜こうとか、そういうことは考えないわけ?」
「それでロディーが幸せになれるならそうしますけど、違いませんか?」
俺の方がミケーレ様より幸せにできると、今は胸を張っては言えない。とにかくまずはどういう形が一番幸せになれるかだ。
「本当に、ムカつく。……ムカつくけど、君の意見には賛同できる。でも、認めたわけじゃないからね! ロディーを幸せにするという点だけ協力するだけだからね!」
「それはもちろん」
そう簡単に好きな相手の恋を応援できるはずがない。
俺自身がそうなのだから。でも模索して、色々知って、それでもミケーレと付き合った方が幸せだと分かれば……たぶんまた考えも変わると思う。でもそれは今すぐの話ではないし、俺はまだ何もしていないのだから。
「簡単に言うと、ロディーは命を狙われ続けている状態なんだよ」
そう始まったミケーレの話は、正直この国の歪みを指摘されているようなものだった。
人間こそ優秀で素晴らしくそれ以外は下等とみなし搾取してきた過去が前提としてあり、それは間違っていると正常に戻そうとしても、霊薬として異種族を原材料とした薬を今も裏で取引される。
そして花人は元々人間に限らず、異種族から狙われやすかったそうだ。攫われないように色々対策を練り続けた結果、ミケーレ様の国での被害はほぼなくなったが、逆にならば攫いやすいところからということでロディーが狙われるはめになったと。そして俺がロディーと初めて出会った時も、ロディーは攫われるかどうかの瀬戸際だったらしい。
それは全く知らなかった。
もしかしたら父は知っていたかもしれないが、まだ子供だった俺には情報をふせたのだろう。あの日、あの会場を主催していた貴族は……アポロン公爵家だったはず。
四大公爵家の一つが主となって動いているのか、一部の人間が動いてるのかは分からないが、あの騒動はもみ消されたのは間違いない。アポロン公爵家が黒幕だからというのは一番分かりやすいけれど、その会場で起こったという醜聞を消すためにもみ消した可能性もあるので、必ずしも中心がそことは言い切れない。
「だとすると、ロディーは確実に守れるミケーレ様の国に移住する方が幸せになれると思われているのですか?」
結局のところ、この国にいるから守り切れないのだ。
だからしっかり守ることができる国への移住というのは、ロディーにとって悪い話ではない。もちろん俺としては不服だけれど、でもそういう案があるということはちゃんと知っておいた方がいい。
「……悔しいけれど、それはそれで問題があるんだ」
ミケーレは悔しそうに顔を歪めながらも、冷静にどう問題があるのかを話した。
どうやら花人には俺達にはない、フェロモンでのやり取りがあり、ロディーはフェロモンを出すことができても感じ取ることができないそうだ。そのため無意識にフェロモンを垂れ流しになることがあり、それが問題を引き起こすらしい。
いっそフェロモンがまったくない方が、トラブルにならずに済むようでままならないものだ。逆にこの国は人間ばかりだからこそ、ロディーはフェロモンが垂れ流し状態になっても、不都合なく過ごせているらしい。
そもそもロディーの祖先が、ロディーと同じ状態で移住を決めたというのだから、花人にとってはかなり問題なのだろう。
「もちろんロディーは僕の国の言葉も話せるし、フェロモンをある程度は遮断できる帽子もあるから、住む場所を考えれば暮らせなくはないよ」
「でも行動が制限されてしまうということですね」
だとすれば、それなりの覚悟がなければ移住は難しいと言うことだ。それこそ本人が望まなければ。しかしミケーレはムッとした顔をした。
「制限されているのはこの国だって同じだろう? 彼女が肌が出ない服を常に来ているのは何故か。気を使いすぎるほど使っているのはなぜか? そのあたり分かっている?」
「はい。だからそれを取り除くために考えているんです。まずは味方につけるなら、アポロン家のアルフレッドですかね」
「正気か? アポロン家は、ロディーが攫われそうになった時の関係者だろ?」
「はい。でも絶対その時点のアルフレッドは関わっていません。何故なら俺と同じであの時はただの子供でしたから。そしてかなり腹立たしい行動もしばしばとりますが、彼は差別主義者ではないのだけは知っています」
俺の行動を邪魔ばかりするし、腹立たしいことも多いけれど、幼馴染だからこそ分かる。性根自体は腐ってないので、たとえアポロン家がなにか後ろ暗いことに加担していたとしても、長年のやり方というものに従うのではなくアイツは好きに変えていく。むしろさっさと代替わりをしようと動くかもしれない。
「それほど仲がいいのか」
「いや。全然。仲良くなんかないというか、むしろ犬猿の仲かもしれません」
「は?」
「でもだから協力しないのは違いますよね?」
好き嫌いではなく、目的のために必要か否か。
「自分が嫌なことを避けることでロディーが嫌な思いをするならば、俺は避けるような卑怯者にはなりたくありませんから」
そして自分が自分を誇れないのに、ロディーに好きになってもらうなんておこがましい。
俺の宣言にミケーレは呆れたように笑った。




