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砂糖菓子娘  作者: 黒湖クロコ
番外
67/75

心に咲く黄薔薇は赤く変わる2(エドワード視点)

 俺は今まで差別をしたことはないつもりだ。

 人間だけで国に閉じこもってられる時代はとうに終わり、両親からも強く言われ、おじい様たちとは違う現代的な価値観を持っていると思う。

 でも、俺は思った。

 花人は苦手かも、と。


「僕もロディーナ様の家にお世話になりたいなぁ」

 花人族の王子、ミケーレはことあるごとにロディーと仲がいいアピールをしてくる。……実際に仲がいいのかもしれないけれど、相手は異性。それなのに突然お泊りの誘いをし出すとかありえない。

「はあ?」

「昔から泊まらせてもらっているし、寮生活より羽が伸ばせると思うんだよね」

「……俺だってまだ一緒にお泊りなんてしたことないのに」

 異性としての自覚はないのか?

 いや、まて。落ち着け。相手は花人族。異性云々の前に、種族が違うから気にしないのかもしれない。……でもやっぱり、無理。

 何こいつ。普通にムカつくんだけど。


 学校案内をしている途中もところどころ、突っかかってくるのはまだしも、ロディーとのわざとらしすぎる仲良しアピールは本当に腹が立つ。

 案内後、流石に俺達のお茶会に混ざろうとまではしなかったけれど、最後の最後まで仲の良さをアピールされた。幼い頃から知っているからなんだというのか。仲の良さは、時間だけが長ければいいというものじゃないはずだ。

「……ロディーはミケーレ様と仲がいいんだな」

「まあ、それなりにいいとは思います。いとこのような関係なので」

 ……ロディーにまで肯定されてしまい、俺は落ち込んだ。

 いとこということは、親戚みたいなものという話だろう。思った以上に距離が近い。


「ううう。俺も、ロディーの家に招待してもらいたい」

「いや、招待もなにも、エドワード先輩は勝手に突撃してきましたよね?」

「そうではなくて、招待してもらいたいんだよ。この気持ちわかる? 俺は彼に、自分の方が仲がいいんだと牽制されているんだ」

 押しかけていったのと、招待してもらうでは全然違う。

 こう受け入れられ度が違うというか。

「友人関係は別に一人である必要はないので、ミケーレ様のことは気にしないで下さい。そもそも、それほどミケーレ様と仲がいいというわけではございませんから」

「えっ。あれだけ距離が近くて? まあ、友達は確かに一人ではないな……」

 いとこのような関係で、あれだけ距離が近くて、それほど良くない?

 なら俺は? どれだけ心の距離が離れているというわけ?

 と思うのと同時に、友達は一人ではないというのはその通りすぎるので、自分の感情に混乱する。


 俺だって、ロディー以外の友達はいる。今からお茶をする、オリバーやシルフィーネ嬢も友達だ。ならばロディーに友達がいるのも当たり前だ。

 当たり前だと分かっているのに、自分より間違いなく距離が近いミケーレ様に対してイライラするのは、ただ彼が喧嘩を売ってきているからだけではなく、俺がロディーの一番の友人になりたいからか?

そもそも俺は友人関係に対して優劣をわざわざつけることなんてこれまであっただろうか?

 ん? そもそも俺は何に苛立っているんだ?


「……よろしければ、今度わたくしの誕生日会に参加されますか? あまり大々的にはしていないのですが」

「えっ。する! 絶対する!」

 考え込んでいると、ロディーが思わぬ誘いをしてくれた。

 よろこんで返事をすぐさましたけれど、同時に俺はロディーの誕生日がいつなのかも知らないということに気が付いた。

 ロディーとミケーレ様の仲の良さにいら立つ前に、俺の方がまずロディーのことをもっと知っていかなければいけないんじゃないか?

「ありがとうございます。今年はシルフィーネ様も呼ぶことになっているんです」

「えっ?」

「学校では距離を置こうと話した時に、シルフィーネ様にごねられまして。誕生日会に招待するということで手を打ったんです。まあ、今はその距離を置こうは全然機能していない感じですけれど」

 誘われたのは俺だけじゃないのか。

 当たり前なはずなのに、少しだけ残念な気分になった。変だな。誕生日会なのだから、大勢で盛り上げた方が絶対楽しいのに。


「本当はシルフィーネ様の誕生日会にエドワード先輩が出席できるといいんですけどね」

「……ああ。うん。そうだな」

 シルフィーネ嬢の誕生日会の話題を振られたけれど、どうしても参加したいという気持ちは湧かなかった。別に参加したくないわけでもないし、祝う気持ちがないわけでもない。友人として誘われたら、もちろん行くに決まっている。

 でもロディーの時のように、絶対行きたいという気持ちがない。

 ……俺はシルフィーネ嬢よりロディーと仲良くしたいのかもしれない。シルフィーネ嬢が駄目とか嫌いになったとかではなく、ロディーをもっと知りたいし、彼女の特別な友達になりたいという気持ちの方が強いのだ。

 その後アルフレッドがやってきたせいで、俺の気持ちについての考察を続けることができなくなってしまったが、これまで以上にロディーが他の人と仲良く話すのを見ると心がざわついた。



◇◆◇◆◇◆


 ロディーは花人の外見的特徴を持っているからだろう。異性にも関わらず、入学式以降も学園内でミケーレ様の世話を任されてしまっているようだ。もちろん外聞に関わるためシルフィーネ嬢も一緒に過ごしているようだ。

 でも花人の王子と花人のようなロディーが並ぶと何というかとてもしっくりくる。

「可愛らしいですわね」

「本当に。妖精のカップルのようですわ」

 ひそひそとそんな言葉が耳に入ってきて、胸がざわめく。

 ロディーは花人は異国人だから差別されると思っているし、実際祖父母世代はかなり根強い差別意識がある。でも俺らの世代になればそう言う感情は比較的薄く、中には空想の生き物の花の妖精のようで可愛いと思うような子がいるのを知っている。

 もちろん花の妖精のようとか言っている限り、やはり異物という感覚は残ってしまっているのだけれど、でもかなり肯定的な言葉ではあるのだ。だからそこに引っかかったのではなく、カップルという、恋仲を思わせるような単語に引っかかる。

 よく見てくれ。あそこにいるのは、ロディーとミケーレ様だけではなく、シルフィーネ嬢もいるだろう? 彼女はかなり目立つ外見をしているし、いきなり空気のように見えなくなったりしないだろう?


 声を大にして言いたいけれど、なんだか言ったら負けな気がする。

 見た目だけが似ているからカップルなんて言ったら、異国ではカップルだらけになってしまう。そしてロディーもそんな風に思われるのは困るはずだ。

 うん。なら俺は、この空気を壊しに行こう。これは人助けだ。

「やあ、ロディーナ嬢」

 俺はオリバーを連れてにこやかに三人のところに話しかけに行き、無事に一緒に昼食をとることになった。

 我ながらいい仕事をしたと思う。

 何故かロディーの顔が引きつっていたけれど。ロディーは、色々気にしすぎなところがあるからな。もっと周りのことなど無視すればいいのに。


「僕はロディーとこれから毎日一緒に食べる予定なんだ。今日もロディーの家のシェフがお弁当を作ってくれたし」

「は?」


 これからも一緒に昼食を食べるのはどうだろうと誘った結果、ミケーレ様に告げられた言葉に固まる。

 ふざけるなよ。どうして一緒に昼食を食べる云々話から、ミケーレ様がロディーの手料理をもらったみたいな顔で弁当自慢をするんだ。ロディーはただ運んだだけだろ? 

 相変わらずの挑発的な態度にイライラが止まらない。


「すみません、エドワード先輩。ミケーレ様は人見知りもありまして、学園ではできるだけ一緒にいてサポートをするように父から言われているんです。お弁当はミケーレ様が久々に我が家のご飯を食べた際、また食べたいと言われまして」

「えっ。食べたの?」

 一緒に? 家で? えっ? いつ?

「僕は晩餐にも呼ばれるぐらいの仲だからね。昨日も彼女の家に遊びに行った時、ご相伴にあずかったんだ」

「は?」

 昨日? 聞いてないんだけど?


 ロディーのことをもっと知りたいと思ったけれど、ミケーレ様から幼馴染マウントを取られる度にイライラが増えていく。

 確かにこんな幼馴染がいるよ情報もロディーについて知るためには必要かもしれないけれど……でも、やっぱりムカつく。

 しかもまたロディー呼びに戻っているし! 何でそんなに幼馴染アピールをしてくるわけ?

 十歳から知り合いで、ロディーの家族とも仲が良くて、ロディーに色々花人について教えてあげる先生的立場で?

 昼食を食べている間ずっと、親密ですということをこれでもかというぐらいちりばめられた会話を聞いているうちに、俺は最後の方は、苛立ちより落ち込みの方が強くなった。

 確かに仲良くなるのは年月だけじゃないけれど。……仲良過ぎじゃないか?

 ここで実は、婚約してるんですとか言い出してもおかしくない親密さだ。いや、いとこのような関係と前に言っていたのだから、これぐらい当たり前かもしれないけれど。

 なんというか、自分のにわかさが分かってちょっと辛い。


「ねえ。ちょっと男同士で話したいことがあるから、少し席を離してしゃべらないかい?」

 そんな風に落ち込んでいると、突然ミケーレ様からそんな提案をされた。

 はっとミケーレ様を見れば、彼は俺を挑発的な目で見ていた。……受けて立とうじゃないか。確かにロディーナとの友達歴は浅く、にわかでしかないかもしれないけれど、彼女を尊敬する気持ちや助けたいと思う気持ち、そして仲良くなりたいという気持ちに嘘はない。

「いいね。男にしか聞きにくいこともあるだろうし」

 これはロディーの親友の座を勝ち取るためにも、負けられない戦いになりそうだ。

 俺は絶対負けないと思いながらミケーレを見返した。

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