心に咲く黄薔薇は赤く変わる1(エドワード視点)
こちらはリクエスト番外のエドワード視点で、ダイジェスト的に本編での話を書いていきます。
新しい友人である、ロディーは俺の恋を応援してくれるとてもいい子だ。
外見に花人の特徴を持っているため遠慮がちで、人との間に壁を作っているように見えるけれど、話してみると面白い子だ。
正直嫌う要素がないのに、花人の特徴を持っているだけで距離を取るのは、俺としてはいただけない。そもそもロディーは花人ではなく人間。言語も同じで、価値観も同じ。髪が長いか短いかの違いに花が咲いているかいないかが加わり、髪色が珍しいピンク色かどうかというだけの話だ。
というわけで、俺は堂々とロディーの友人になるべく動いていた。
ロディーと仲よくなるにつれ、ロディーはかなりのお人よしだと分かった。
本当にこれは取引になっているのか?
最初は俺に近づくのは、四大公爵家であるアルテミス公爵家の力を借りようとする意図があるのかと疑っていたが、そんな話は全く出てこない。情報の売買が趣味とは言っていたけれど、なんというかロディーは相手に利を与えすぎていて取引としては破綻しているように思えてならなかった。趣味だからと言われれば、いいのかもしれないけれど……。
花人の外見的特徴を持っているから、周りと亀裂を生まない為に控えめなのは分かるけれど、時々度を越しているように感じた。そうなってしまったのは、これまでの経験からなのだろうか?
付き合えば付き合うほど、ロディーの生き方は献身が過ぎて、痛々しく感じた。
うん。これは友人として、もっとロディーを庇護してやらないとだよな。
四大公爵家の力を借りたいなんて一言も言わないけれど、俺の方が貸してやりたいと思うようになった。でもそう思っているのは、俺だけではないようでロディーに恩を感じたものは皆いつかはと思っているようだった。特に、俺が好きなシルフィーネ嬢は顕著だろう。
シルフィーネ嬢はいつも笑顔で、甘い砂糖菓子のような、大切に守りたくなるようなはかない外見をしている。けれど彼女はそれだけではなく芯があるような女性で、入学したばかりなのに生徒会に在籍している。着々と教師や生徒の信頼を得て突き進むが、それをやっかむ人間もいた。しかし誰かにかばってもらうことなくうまく周りと亀裂を生まないように強かに生きる彼女は、ロディーを絶対一人にしてやらないという明確な目的があるように思う。
アルフレッドと抱き合っている姿を見た時はショックを受けてつい泣いてしまったけれど、ロディーと会話する彼女を見ていればアルフレッドなどただの仕事仲間程度の関係に過ぎず、ロディーこそ彼女の一番だと分かった。
同性だからかロディーに対して悔しさは感じず、むしろロディーを取り合うライバルという感覚でシルフィーネを見てしまった。……俺は、本当にシルフィーネが好きなのだろうか?
確かにアルフレッドに先を越されたと思った時は、悔しいと感じた。
実際シルフィーネの外見はとても好ましいものだし、強かな性格も嫌いではない。ただ甘い言葉を吐くだけの女性よりも好ましい。
でもならば、彼女の一番になりたいのかと言われた時、最近はそこまでか? と思うようになっていた。
嫌いになったわけではない。ただ【好き】の感情が恋ではなく、友愛のように感じるのだ。シルフィーネ嬢が誰と仲良くしてもほほえましい気持ち以上のものが湧かない。
とはいえ、ロディーは俺とシルフィーネ嬢が付き合うことを望んでいる。いまさら、そこまでではないとは言いにくい。言ったら最後、ロディーとの接点がなくなってしまう気がしたのだ。
シルフィーネ嬢のことが嫌いなわけではないのだから、ひとまずこのままでいいかと思うことにする。
それにシルフィーネ嬢は俺の親友であるオリバーが好きなのだ。オリバーはロディーとどこか似ている気がする。彼は償いをしているかのような献身性と自罰性の強い男だ。
だからシルフィーネ嬢がオリバーのことをほっとけないと思う気持ちもよく分かる。そしてオリバーも少なからずシルフィーネに対して好意を持っていると思う。もしも二人が付き合うとなったとしても今度は涙を流さず祝福をするだろうし、ロディーには悪いが彼女がどう動こうともそういう結末を迎えると思うのだ。
なんだか恋心も落ち着いてしまい、長期休みも四人で楽しく遊び、今のままが一番楽しいのではないかと思っていた頃に嵐はやってきた。
オリバーが水やり前に皆でお茶をしようと提案したので、俺は気を利かせオリバーとシルフィーネ嬢を二人きりにさせてやり、ロディーを探しに行くのをかって出た。シルフィーネ嬢が言うには、ロディーは花人の王子に学校案内をしているらしい。クラス委員でもないのに頼まれてしまったのは、きっとロディーが花人の特徴を持っているからだろう。
花人の特徴を持っていいるけれど、ロディーは花人ではない。そのあたり教師は分かっているのだろうか?
勝手に押し付けた教師に少々腹を立てつつも、何か困っていることがあれば手助けをしてあげたいと思い探す。きっと異国人だから言葉が不自由だったり、習慣の違いで戸惑うことがあるだろう。
「……まあ、そんな感じ。うん。少しマシになった。ロディーの甘ったるいフェロモンは嗅ぐと腹が立ってくるんだよ」
「えぇ……。でもそんな甘ったるい匂いなのね」
校舎を捜し歩いていると、ロディーの声が聞こえた。ということはもう一方が花人の王子様ということだ。顔合わせでは挨拶だけだったから分からなかったが、思った以上に流暢に話している。
それよりもだ。
なんか親し気じゃないか? というか、なんでロディーを愛称で呼んでいるんだよ。
おかしい。ロディーは人と距離とるタイプだ。親切だけど心の壁は分厚く、こちらからかなり積極的に行き、鈍感なふりをして距離を縮めないと縮まらない。だからロディーの性格からして、今日の今日でここまで仲良くなれるはずがないのだ。
「ひたっ」
茫然としていると、ロディーの小さな悲鳴が聞こえた。
今、痛いと言わなかったか? もしかして怪我をしたのか? それとも何か暴力的なものを振われたのか?
俺は大股でできるだけ素早く声方向へ移動する。
「その顔、むかつくんだけど」
「やめへふははいぃ。ほへんははいぃ」
そこで見たのは、留学生に暴力を振るわれている姿――ではなく、ものすごく仲がよさそうにじゃれ合っている姿だった。
両頬を留学生がつねっているため、すごく距離が近い。
そしてロディーが潤んだ瞳で留学生を見上げている姿を見ただけで、俺の苛立ちは一気に強くなった。
「おいっ。何している」
俺はロディーの柔らかそうな頬を無遠慮につねる男の手をつかんだ。引っ張り引き剥がしたいけれど、それをすればロディーの頬に爪が当たったりして傷がつくかもしれない。
「この国では女性にむやみに触れるのはマナー違反ですが?」
幸いなことに留学生の男は俺より背が低かった。だから俺は体格で若干威圧的にできるはずだ。
彼は俺を嫌そうに睨みつけると、ロディーの頬から手を離した。
そして口元だけで笑みの形をとる。でも目がまったく笑っていない。だから俺も警戒を緩めることはできなかった。
「それは申し訳ありません。彼女とは幼い頃からの仲なので、つい戯れをしてしまいました」
「幼い頃から?」
「ええ。彼女の祖先は僕の祖先と異母兄弟関係だったので。今回学園への留学の話を受けたのも、彼女がこの学園に在籍しているからです。花人はあまり異種族との交流を好みませんから」
何が言いたいんだこの男は。
ロディーとは遠い親類関係にあたり、昔から交流があったあたりまでは分かる。
でもそこにどうして、異種族との交流は好まないという情報を加えた?
お前とは仲良くする気がないと言われているようなものだ。さらに異種族とは仲良くしないと言っているが、ロディーが在籍しているから来てやったという言い方だと、ロディーは花人だと言っているかのように聞こえる。
ロディーは花人の特徴を持っていようと、俺と同郷の人間だし!
ムカつく。
とはいえ、相手は王子だ。
王族ならば誰かにかしこまることも少なく、異国であろうと自分の意見こそ絶対だと思っていたりするものだ。下手に反発したところで意味がないので、表面上だけでも上手く取り繕った方がいいだろう。
そう思い、特に先ほどの失礼な意見には触れないようにして、ロディーと会話する。
しかしこれに対して男は口をはさんできた。
「僕の案内はロディーがしてくれるから大丈夫だよ?」
「……ロディー?」
「子供のころからの知り合いなので愛称で呼んでいるんだ」
ふふんと今笑ったよな? 間違いなく笑ったよな?
まるで仲がいいのは自分の方だというかのようにマウントを取られ俺は固まる。なんだこいつ。
よし。いい度胸だ。
その喧嘩買ってやる。
「貴殿はそうかもしれないが、学園では平等に名前に様づけと決まっている。申し訳ないが、ロディーナ様と呼んでいただけないでしょうか?」
若干自分のことを棚上げしている気もしたし、ロディーにも呆れた目で見られた気もするが、俺は気が付けばそう言い返していた。




