エルフ族
エドワード先輩の突然の参戦に、部屋の中が静まり返った。皆驚愕した顔をしているが、エドワード先輩の父親であるアルテミス公爵とアルフレッド先輩だけが顔色を変えることがなかったので、たぶんこの流れになることを二人には事前に根回ししてあったのだろう。
「な、何を言っているんだ。四大公爵家が、異種族と結婚するなどと」
「おかしなことをおっしゃいますね。ロディーナ嬢は異種族ではありません。人族です。彼女の父親であるメリクリウス家の当主も母君も人族です。その子供が異種族? このような場で寝ぼけられるとは、耄碌されたのでは? 正直その発言は時代遅れなのでやめていただきたい。そして彼女はたとえ異種族であってもこの国の民です。不当に差別発言をするのはいかがなものかと思います」
アポロン公爵が反射的にエドワード先輩を責めれば、その倍以上の言葉でエドワード先輩は彼の反応がおかしなものだと反論した。
……そうか。私は人族でいいんだ。
花人の特徴を中途半端に持っている為、私は花人としても人族してもあいまいな存在だった。でもエドワード先輩が人族だと言い切ってくれたことが……なんだか、すごくうれしかった。別に花人が嫌いというわけではないけれど、でも胸を張ってこの国にいていいと言われた気がしたのだ。
「父上、そろそろ父上のやり方は時代にそぐわなくなってきたということです。波風が立たないよう、人族だけの世界で閉じこもっている時代は終わったのですよ」
「なっ」
「もちろんどうしても年をとると時代についていけないことはありますよね。ご安心ください。学園を卒業しましたら、いつでも代替わりしていただいて構いません。よろしければ、学生の身ですが、実務の引継ぎを始めても大丈夫です」
シレっとアルフレッド先輩が父親に引導を渡し始めて、アポロン公爵は言葉をなくす。
「陛下。いかがでしょう。我が国の民を安寧のために異国に追い出すのは、差別をなくすこととは真逆の行いだと思います。我がアルテミス家が責任を持ってロディーナ嬢を守りますので、お許し願えないでしょうか?」
えっ。いや。お許し願えないかって、待って。
エドワード先輩はそれでいいの? 確かにフィーネはオリバー先輩とうまく行ってしまって、私もそれを応援しようと腹をくくってしまったけれど。
口をどうはさめばいいものか、私はグルグルと考える。
「それはこまる!」
エドワード先輩の暴走をどうやって止めようかと考えていると、私ではなく別のところから抗議が入った。パッと見れば、先ほどまでずっと代理でアポロン公爵にしゃべらせ、一切発言しなかったルーカス様が声を上げていた。
「かのじょには、いっしょに、きてもらいたい」
「ロディーナ嬢は、異国で暮らすのは嫌なようですし、ここは懸想した相手の幸せを願ってはどうですか? それとも……」
エドワード先輩の目が鋭くなった。
「他に理由がございますか?」
ピリピリとした空気を感じる。私はその目を向けられたわけではないのに、緊張してしまう。
「……いい加減、こういう腹の探り合いはやめませんか? このままだと、貴方方は花人を手に入れられない。今回のことで、よりエルフ族への警戒が強くなりますし、ロディーナ嬢はもう二度と連れ去られることがないように守ります。そして次に何かあった時は、エルフ族を一番に疑います。今回の取り違えは、数年前にロディーナ嬢を連れ去ろうとした時、ロディーナ嬢の花が白いライラックで髪色もシルフィーネ嬢と似ていたため間違えたのでしょう? 一度失敗して警戒されているにもかかわらず、もう一度ロディーナ嬢をとらえようとするということは、数年間供給がなく、追い詰められているということではないでしょうか?」
危険があっても花人を攫おうとするということは、他の異種族では駄目なのだ。
エドワード先輩も、霊薬はただの珍しいものではなく、何かに対する薬であると考えたようだ。でもそれが何かが分からない。
オリバー先輩は霊薬は作っても、その効能は調べられていないと言っていた。つまり人族では試せないということではないだろうか。
そして今回動いたのが、エルフ族。ならば、エルフ族固有の病気の可能性が高い。
「ロディーナ嬢を国に連れ帰り霊薬とするのは、私も看過できません。ですが、エルフ族の方は理性的な方だと思っております。話し合いで何かお互いの妥協点を見出すことはできないでしょうか? そのためには、本当のことを話し、何故霊薬を必要としているのか言っていただかなければなりませんが」
アルフレッド先輩が飴となり、エルフ族を持ち上げ、同情を見せつつ、話すように訴えた。
ルーカス様は迷った末、その場でうなだれた。
「ロディーナさまのいのちはうばわない」
「奪わなければいいものではありません。だまして連れ帰るなど」
「ちゃんと、つまにするきだった。たいせつにあつかう。ただ……われらをたすけるために……ちとはなをささげてもらいたい。もちろんしなない」
訛ってはいるが、たしかに彼は【血】と【花】と言った。つまりは……霊薬として自分の体の一部を捧げて欲しいと言っているのだ。妻とするということは、殺す気はないのだろう。……それは善意で見ればやさしさからだが、斜に構えて見れば長く搾り取るために思えた。
異国に連れ去り帰れない状態にした上で、家畜のように食べられるために飼われ、娼婦のように扱われる。……地獄ではないか。
恐ろしい言葉をさも善意のように言われ、ぞっとする。もしかしたらエルフ族の中では最大限にこちらに譲歩しているのかもしれないけれど、怖い以外の何ものでもない。しかももしも私に子供ができ、花人の特徴を持っていたら?
それはつまり……その子供も同様に家畜にされ、娼婦にされるのだ。
「何その、気持ち悪い考え。家畜にして、さらに娼婦にして、末永く絞る宣言じゃないか。それのどこにロディーナ様の幸せがあるって? しかもそれ、たぶん花人が他に攫えたら、その花人とかけ合わせようと思ってるだろ。同種同士の方が幸せとか勝手なことを言って」
あまりに怖くて自分の腕を両手で握っていれば、ミケーレがスパッと言い放った。
私の考えは間違ってないと言ってくれたことにほっとする。これで結婚して大切にするならいいじゃないかという話になったら嫌すぎる。
「ん? それはどうしゅのほうがしあわせだろう? それにアールヴヘイムでくらせるのはしあわせだ」
「アホらしい。本気でそう思っているのが、もう救えない。だったら、ロディーナ様はこの国で結婚するか、僕の国で結婚する方がよくて、エルフ族なんて選択肢は端からなくなるんだけど。それに暮らしやすさなんて、生まれ育った場所が一番に決まっているだろう? 言語だって違うんだ」
「それではわがくにがこまる」
「だからそれはそっちの身勝手な意見なわけ。エルフ族第一主義なのもいい加減にしてくれる? 僕らは君たちを生かすためにいるわけじゃない」
ミケーレの意見に全面同意だ。
私にはエルフ族の考え方は理解できなくて、得体のしれない化け物のように思えた。まるで私を同格の者と思っているように思えない。
「それに、こまるのはわがくにだけではない」
「はい? 何に困るっていうんだい? 君らが何かの病気を持っていて、それを治すために霊薬が必要だと言いたいのかもしれないけれど、別に僕らはエルフ族が滅んだとしても、なんら問題はないよ。いなければいないで、世界は回る。エルフ族がいなければ世界が回らないなんて思いあがらないくれる?」
「ちがう。われらのびょうきは……たしゃをおそう。もしも、ぜんいん、はっしょうすれば、いしゅぞくをおそいはじめ、すべてのものをころしつくす」
「は?」
ミケーレは馬鹿馬鹿しいという態度でルーカス様と話していたが、他者を襲う病気で、殺しつくすという言葉に固まる。
「えるふぞくのじゅみょうはながい。びょうきがはっしょうしても、ながくいきる」
他者を襲う病気だというだけでも恐ろしさで思考が止まりそうなのに、その病気が発症しても長く生きて、襲い続けるという言葉に、私は固まった。




