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砂糖菓子娘  作者: 黒湖クロコ
本編
62/75

国王からの呼び出し

 それからしばらくして、私はこの度の事件の説明として突然国王に呼び出されることとなった。

 ……国王……だと?

「……いや。えっ。代理でいいのでは? なんで国の一番偉い人出てきちゃうの?」

 両親から渡された手紙を読みながら、私は顔を引きつらせた。フィーネの誘拐未遂について、内密に説明したいそうだが、正直、この内密という部分が怖い。


「断るなら、協力するよ」

「そうすると、お父様の立場が悪くなりませんか?」

「大丈夫。今は鎖国も止めて、花人とも交流をしていきたいと考えているから、我が家を潰すなんて無茶はしないよ。花人との関係悪化はこの国の望むところではないからね」

「……確かに。ならば、わたくしは拝謁しようと思いますが、条件は付けたいです。一対一は絶対嫌ですから、お父様に付き添っていただくことと、ミケーレとヨウキ様にもご同席して話を聞いてもらうというのはどうでしょう?」

 今回私が巻き込んだことで、事の顛末を知りたがってるミケーレとヨウキ様ならば声をかければ同席をして下さるだろうし、異国の目があれば、よほどの無体も隠蔽もできないと思う。

「別に今回の犯人を広く公開して欲しいわけではありません。しかしなかったことにして、私の身を勝手に供物扱いされたら困ります。例えば貴族子女を攫うことは無理でも、婚姻という形で国を跨がせることはできますので……」

 ことを荒立てないために、さっさと国内から問題になりやすい私を合法的に排除し、欲してる国へ与える。そして事件はなかったことにし、良好な関係を維持し続けるなんてことがないとは限らない。


 私を罪人として国外追放なんて方法をとれば、花人の国が受け入れると表明するだろう。だからその線は低い。やるならば、慶事として横やりを入れられないようにして、移すという方法だ。

「確かに婚姻という形をとると、止めるのは少し難しくなるね」

「そうなのです。はた目から見れば、幸せなのですから」

 例えば異国の王子に婚姻を申し込まれたという話が出れば、世間的にはシンデレラストーリーだ。花人の特徴を持ち、苦しんでいた少女が、王子様に見初められて幸せになる。完璧なハッピーエンドである。

 でも実情は、供物として捧げられた花嫁で、いわゆる生贄だ。私は砂糖菓子のようにバリバリと食べられる。誰にも見えないところで。


「分かった。こちらから条件の打診をしよう。それが呑めず、それでもなお娘を呼び出すのならば、花人の国に連絡をすると脅しをかけてみるよ」

「よろしくお願いします」

 虎の威をかる狐のようだけれど、でも多分ミケーレは力を貸してくれると思う。


 それからさらに数日経ち、こちらの条件を呑む形で拝謁の許可が出た。

 どうやらミケーレとヨウキ様の同席に難色があったようだが、ミケーレとヨウキ様にこちらから連絡を入れ、お二方からも圧力がかけられた結果通ったようだ。

 この国ですり合わせを行ってから異国に発表をとりたいならば、難色をしめすのも分からなくはない。でも勝手に私の望まない形で決められてしまった後に発表なんてことになるのは避けたいので、我がままを通すしかないのだ。


「メルクリウス家当主および娘が召集に従い拝謁します」

 私達は王宮に出向くと、父が基本話した。私は父の後ろで立ち、あまりしゃべらない予定である。

 父だって王様と直接話すことなんてなかなかないだろうし、緊張するだろうが、シレっとした表情で手続きをとっていた。

 案内された部屋には、王族以外に四大公爵家の家長とアルフレッド先輩とエドワード先輩がすでにおり、さらにミケーレとヨウキ様、そしてエルフ族のルーカス様がいた。


 エルフ族の者が犯人だったからルーカス様もいるのは分かるが、被害者であるフィーネはいないことを考えると、やはりこの呼び出しはあまり嬉しくないものな気がした。そもそも賠償ならば、当主を呼び出して行うのが通例で、たとえ被害者本人だろうと未成年である私が出て行くのは異常なのだ。

「メリクリウス家当主および娘は国王の召集に従い拝謁にまいりました」

「呼び出しに答えてくれて感謝する。この度のことで、不幸な行き違いがありぜひとも話がしたいと、ルーカス様から話があり、呼ばせてもらった。できればミケーレ様とヨウキ様の手は煩わせたくなかったが、この度のことを過度に心配していたため、同席する流れとなった」

「そうでしたか」

 父は色々言いたいことがあっただろうが、短く言葉を切った。

 何故ここに四大公爵家も来ているのか。もしも私一人だったらどうなっていたか冷や汗が出る。


「ルーカス様は我が国の言葉に不自由な点がございますので、変わりまして事情を説明させていただきたいと思います」

 そう言って名乗り出たのは、アポロン公爵だ。外交関係を色々任されているので、アールヘイム語も得意だし、交流もあるはずだ。

「この度のポセイドン家のシルフィーネ様が連れ攫われた事件は、そもそもロディーナ様と取り違えたそうです。そしてそのような強行に家臣が出てしまったのは、ルーカス様がロディーナ様をお見初めし、できれば一緒に母国に来てほしいとつぶやいたことを過剰にとり、連れ去るという強硬に出てしまったそうです。このことはルーカス様も大変遺憾に思うと同時に、申し訳なく思われており、賠償も考えられています」

 やっぱりそう来たか。

 お見初めって、いつそんなことが起こったのだと言いたいけれど、人の気持ちは見えないのだから口に出さなかっただけと言われればそれで終わる。

 ルーカス様との交流はあまりないが、アルフレッド先輩を通して、一緒に楽器演奏をしたり食事をしたりと、はた目から見ればそれなりに仲が良かったようにも見えなくないのが厄介だ。


「へぇ。なら、スヴァルトアールヘイムから来た女性は何だったんだい? ルーカス様に協力する理由がないだろう?」

 ミケーレがにこやかに笑いながら質問をした。ただ二人の家臣が間違った命令を受け取り強行をしたというのならおかしな話だ。

「彼女はどうやら学園で家臣同士交流をし、問題を起こした男の一人と恋仲になっていたようで、協力を頼まれて手を貸してしまったそうです」

 国は違えど同族で、さらに言語も同じだ。そう言うことがないとは言えない。

「本当に? エルフ族は肌の色で差別をすると聞いたことがあるけれど? だからアールヘイムには白い肌の者しかおらず、スヴァルトアールヘイムには黒い肌のものと体が小さなドワーフ族が住むとね」

 そうなんだ。

 でも私もエルフ族というと白い肌というイメージで、黒い肌のエルフ族は初めて見た。

「人の心ばかりは分かりませんので、恋仲になったというのならばそういうこともあるのでしょう」

 確かにこればかりは嘘かどうかの証明は難しい。


「ルーカス様はこのようなことになってしまい申し訳なく思っております。それでもロディーナ様に懸想を抱いており、婚姻を申し込みたいと言っております。国際的に閉じこもっている我が国が、異国と仲良くしているというアピールにもなりますし、ロディーナ様もこの国にいるより他国の方が暮らしやすい面もあるのではないでしょうか?」

 花人の特徴を持つのですからという聞こえない声が聞こえた。

 排他的なこの国らしい、排除の仕方だ。

「それはないんじゃない? エルフ族と花人は違う種族だ。もしも暮らしやすさを求めるなら、断然僕の国だろう? この婚姻がロディーナ様のためというのならば、僕は反対するし、異国との婚姻をというのなら、僕がロディーナ様をもらい受ける。ロディーナ様も僕とは幼馴染で、連れ去るなんて野蛮な方法をとろうとした国なんかよりずっといいよね?」

「そちらの国では、混血は暮らしづらいとお聞きしておりますが? メルクリウス家ができた発端も、混血したことで一部しか花人の特徴を持たず、差別されこの国へ来たと聞いております」

 ミケーレが待ったをかければ、アポロン家の当主は眼鏡をくいっと上げて抗議した。

 確かに混血が暮らすには、差別というよりも身体的な問題で大変なのはだいぶんと分かった。フェロモンという感じ取れない部分のコントロールが効かないから、うまくいかないのだ。


「失礼だね。僕たちの国も長年研究し、少しづつ混血でも暮らしやすいように変わってきているところだ」

「変わってきているだけで、変わったわけではありません。そしてそちらの国は、多重婚という野蛮な習慣がございますが、わが国とアールヘイム国は一夫一妻制で、生活習慣が近く、暮らしやすいのではないでしょうか?」

「そこまでにしなさい。ミケーレ様に失礼だ」

「……申し訳ございません。あつくなりすぎました」

 異国の習慣に口をはさみだしたため、国王がアポロン家の当主を止めた。


「ロディーナ嬢は、どちらとの婚姻を望む?」

 国王からの言葉に、私はぎゅっとドレスを握った。

 選んで出て行けと言われているのだ。この国にいれば火種になりかねないと。どちらも断る選択肢は用意されていない。

 そもそもがミケーレがいなければ、これはエルフ族との婚姻を成立させてしまうための場だったのだ。私だけだったら、たぶん家にも帰してもらえなかった。

 見初められ、そのままエルフ族に渡ったとされたのだろう。


「申し訳ございません、陛下。もう一つ案がございます」

 エドワード先輩がスッと手を上げた。

「申してみよ」

「正直に言いますと、生活習慣が似ているかどうかでいうと、どっちもどっちではないでしょうか? そしてエルフ族の中で過ごすのも異種族として混ざっていかなければならない苦労がございますし、花人の中で過ごすとこれまた身体的な問題があると、以前ミケーレ様から伺いました」

「ならばどうするのがいいと?」

「はい。ですから、彼女は我が国の民なのですし、わが国で過ごすのが一番幸せであると愚考しております。確かにこの国は排他的な方も多いですが、それを変えていくのが早急の課題だったのではないでしょうか? 異国に他種族の特徴を持つだけの我が国民を移動させ、人族のみの国にすることは国際的に見てどうなのでしょう」

 エドワード先輩はとてもにこやかだった。にこやかだけれど、すごい言葉に圧がある。

 怒ってると、丁寧な言葉なのに、なんとなく私は思った。


「ですが、それならまた同じ騒動が起こるのでは?」

「おかしいですね。この度のことは、エルフ族の王子様が懸想してつぶやいた言葉を部下がかってに間違えて受け取った悲劇だと伺いました。ここできっぱり断れば起こらないですよね? それとも霊薬作りで彼女が狙われていると言いたいのですか?」

「霊薬?」

 国王はいぶかしんだ様子だったが、アポロン家の当主は苦い顔をした。

「どういうことだ? 霊薬は禁じられているだろう?」

「はい。そうです。国際的に禁じられております。非人道的なものですから。でも今だに花人は狙われるそうです。ですよね、ミケーレ様」

「はい。我が国は、今もなお、我が国の民をさらい霊薬にしようとするものを追い払うのに力を入れております。花人は霊薬にされた歴史が長いのでとても敏感です」

「其方はその話を知っていたのか?」

 アポロン家の当主に国王がたずねた。彼は苦々しい顔をしながら頷いた。


「そのようなことがあることは知っております。だからこそ、花人の特徴を持つ者はこの国にいない方が良いかと……」

「それはこの度の事件とは全く別ですし、この国が守れないから他国に渡す。そこで攫われて霊薬にされたらこの国の責任はないって、すごくおかしくありませんか?」

「だが、現に、守れていないではないか。今回は未然に防げたが、次はどうなるか分からない」

「でも異国なら安全というわけではないでしょう? むしろ異国だからこそ、危険が上がるかもしれないではないですか」

 なるほど。私がどこで攫われるかで、国際社会で攻撃される国が変わるのか。

 この国の力は強くない。だから下手な弱みを持ち続けたくはないというのがアポロン家の当主の考えかもしれない。


「エドワードの言葉は正しくはあるが、確かに現状、伯爵家の力で守り抜くのは難しいかもしれない」

 国王はエドワート先輩の言葉の正当性を認めつつもアポロン家の当主の懸念にも同意した。

 そこでエドワード先輩はニコリと笑った。

「この国にいるには伯爵家の力では難しいかもしれません。でも伯爵家以上の力ならどうでしょう? そこで提案します。四大公爵家の一角であり、次期公爵である私が彼女と婚約を結ぶのはどうでしょうか?」

 は、はいいいいいいいい?

 エドワード先輩の言葉に、私は目を見開いた。

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