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砂糖菓子娘  作者: 黒湖クロコ
本編
55/75

学園からの連れ出し方

 オリバー先輩が死にそうな顔で頭を下げたことで、しんとその場が静まり返る。

 でもフィーネを探すのは当たり前だ。探さないという選択肢は私にはない。

「もちろん探すさ。そんなに思いつめるな」

 エドワード先輩はバシンとオリバー先輩の背を叩いた。

「なんにしても、まずはシルフィーネ嬢を助け出すのが先決だ。この学園内にいると仮定しても空き教室を含め、かなり広い。教師の手を借りて、多数で探すべきだな。そしてまだことを荒立てない方がいい。下手に騒げば異国の貴人の安全が優先されて、シルフィーネ嬢の捜索が後回しにされる危険がある」

 それは考えられることだ。

 国際問題に発展しかねない異国の貴人と、伯爵令嬢。どちらが優先されるかなんて、少し考えればわかる。


「だとすると、エドワードとオリバーはそろそろ戻るべきだな。発表の時間が迫っているだろう。二人が戻らなければ何か起こったのではないかと思われる」

「ですが、こんなことを起こしたのだから、俺は――」

「いや、アルフレッドの言うとおりだ。空き教室を探すのなら、俺達でなくてもできることだ。教師だって、大事な貴族令嬢を預かっているのだから、捜索には協力的なはずだ」

 もしもこのままシルフィーネが見つからなかったら、学園が責任を取る形になるだろう。だとすれば、教師がぐるでない限りしっかり探してくれると思う。

 そしてこれまで私が安全に通ってこれたのだから、ある程度はこの学園の教師を信頼していいだろう。というか、疑いだすときりがなくなってしまう。

 信用するのは怖くもあるけれど、人一人でできることなど限られているのだから。


 私たちは再び大広間の方へ向かった。

 でも本当にシルフィーネは学園の中のどこかに閉じ込められているのだろうか?

 警戒態勢が築かれているから、学園からフィーネを外に連れ出すのは難しいのは分かる。でも時間が経てば経つほど、人一人いなくなったことに気が付かれるリスクが高くなるはずだ。そうしたら今のように捜索が開始される。学園のことをよく知る教師が捜索を始めれば、見つけられる可能性は高くなると思うのだ。

 もしも私が犯人なら、気が付かれる前に学園の外に連れ出したいと思う。

 でも人が入るような大きな箱や袋があれば、普通に考えて中を確認するはずだ。薬で眠っているフィーネを連れ出すにはどうすればいいのか。


「あの。異国の貴人の荷物ならば中を確認されないとか、そういうことはないでしょうか?」

「それはないよ。今回の音楽祭を行うにあたり、僕ら王族でも荷物検査に協力してほしいという要請が来たんだ。中に何が入っているか分からない大きな荷物があれば、絶対確認をするはずだし、拒むような怪しい行動をすることはないと思うよ」

 私が何か荷物検査を突破する裏道がないかと質問をするが、ミケーレから権力にまかせて強行する方法はとれないと反論が返ってくる。

 確かにすでに要請が来ていて、それに納得して参加しているのに、確認を拒むなんて怪しすぎる行動をとるとは思えない。


 でもどうにかして外に出さなければいけないのだ。

 何か方法があると思う。

 殺されてという最悪の事態も考えられるけれど、私が幼い時に閉じ込められて攫われそうになったことを考えると、生きている状態でなければ霊薬を作る上で意味をなさないなどの制約があるのではないかと思っている。

 もしも死体でよければ、幼かった私なら殺して隠しておけばよかったと思うのだ。犯人の立場で考えると、その方が手間取らないと思う。でもその方法をとらなかったということは、生きているということが大切なのだろう。

 生きた状態でフィーネを連れ出すにはどうしたらいいのか。


「先生、お話があります」

 大広間前までやってきたエドワード先輩は、教師に現状を話し、フィーネがいなくなったこと、そして救護室で睡眠作用の強い薬を飲んでいて、攫われた可能性が高いことを伝えた。

 先生は顔色を変え、学園長に伺いを立てに向かった。

 多分この後は上手く隠しながら先生たちが捜索を開始するはずだ。もしもこの学園内にフィーネがいるならば、これで見つかるはず。

 でも私はそれで見つかると思えないのだ。

 相手はいろんなリスクを負って連れ去りを決行した。対象を間違えてしまったけれど、でも連れ去る方法を考えずに実行するほど無計画だとは思えない。

 睡眠作用の強い薬を持ち込んでいることから見て、突発的なものではないのだ。

 だから学園から連れ出す方法はどこかにある。


「貴方たちは音楽祭に参加してください。特にエドワード様とオリバー様はもう出番です。楽器を使うのだからちゃんと自分の楽器があるかの確認もして下さい」

 戻ってきた先生に言われ、オリバー先輩は苦々しい顔をした。

 オリバー先輩としては音楽祭など放棄して、フィーネを探しに行きたいのだろう。私もそうだ。こんな状態で音楽などと思ってしまう。

 だが、事を荒立てるわけにはいかない。

 そして気が付いたが、フィーネが花人ではなく、間違いで攫ってしまったと気が付かれるのが一番危ないのではないだろうか。花人なら霊薬づくりのために生け捕りが必須だとしても、そうでないのなら霊薬に使えないから生け捕りにしておく理由がなくなる。そしてもしも犯人の顔を見ていれば、生かしておく方が犯人にとってリスクが上がるのだ。


 どうにか気が付かれる前に見つけ出さなければいけない。そう思えば、余計に捜索が開始していることを気が付かれるわけにいかない。

「オリバー先輩はどのような楽器を演奏するのですか?」

「……俺はフルートだよ」

「俺はバイオリンだ。他にもいろいろな楽器を使っているよ。木琴とか色々普段は使わない楽器に挑戦している者もいるよ」

 無理にでも日常生活を送っているように見せかけなければいけない。

 そのことにエドワード先輩も気が付いているのだろう。私の会話にのってくれる。


「普段は使わない楽器ですか?」

「折角のお祭りだからね。バイオリンだけではなく、サイズの違う弦楽器も使われている。アルフレッドのクラスもそうだっただろう?」

「ああ。大きいものだとコントラバスというものを使ったな」

 あまりちゃんと聞いていなくて申し訳ないかったなと思ったが、確かに色々な楽器を使っていた気がする。

「コントラバスとはどれぐらい大きいのですか?」

「ロディーナ嬢、見ていなかったな」

「……すみません」

 フィーネが気になって仕方がなかったという理由はあれど、アルフレッド先輩としては面白くないだろう。とはいえ、誤魔化そうにも、見ていなかったのは事実なので謝るしかない。下手に誤魔化せば、余計に絡まれそうだ。


「仕方がない状態だったとはいえ、面白くないな」

「まあ、まあ。コントラバスというのは、人と同じぐらい大きなものだよ」

 ギロリと睨まれてた私をかばうようにオリバー先輩が間に入ってくれる。

「人と同じ?」

「ああ。大きすぎて持つことができないから地面に置いて演奏するんだ」

 それはかなり大きい。

 というか、そんな楽器があったんだ。

 

 そんな会話をしていれば前の演奏が終わり、扉が開かれた。

 私も席に戻るべきだろう。でもフィーネが心配でならない。

 ガチャガチャと使用人によって運び出される楽器を横目で見ながらどうにか私も捜索に参加できないか考える。

 エドワード先輩の元にも、使用人がバイオリンを持ってきた。個人の楽器だからだ。学校が所持している楽器は、使いまわされるので出し入れはない。

 楽器は高価なものだから、使用人がそれぞれ管理しているのだろう。


 エドワード先輩がケースを空けて楽器を確認している姿を見て、ふと思った。

「あの……さっき言ったコントラバスにもケースはあるのですよね?」

「もちろん。裸のまま持ち運びなんてできないからね」

 バイオリンのケースは綺麗にバイオリンが入るようになっている。

 ピアノはカバーというものはあっても入れきるケースというものはない。だがコントラバスが運ぶことを前提として作られているのならば、バイオリンケースをかなり大きくしたものなのだろう。それこそ人と同じぐらいの……。


 その時私ははっと気が付いた。

「コントラバスは人と同じぐらい大きなものなのですよね? それならば、そのケースの中に人が入ることはできますか?」

 私の心臓がバクバクと音を鳴らす。

「もしもコントラバスのケースの中に人が入っていても、楽器が入っていると思い込んでいたら、中を確認しないこともあるのではないでしょうか?」

 私の言葉に皆が目を見開いた。

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