信頼できる者
私の過去の話をするとミケーレは、片手で顔を覆って深くため息をついた。うんざりといわんばかりの様子に私は苦笑いする。
そりゃ、好きだと告白した相手に、別の人が好きな理由を話せば嫌になるのも納得だ。例えばエドワード先輩がフィーネが好きなところを語り出したと仮定したような状態……いや、私は意外に大丈夫ね。ただフィーネ以外が好きだと言い出したら解釈違いで憂鬱になるかもしれない。エドワード先輩が一途であることを願う。
現時点からエドワード先輩がフィーネ以外を好きになった場合、もう私の計画は破綻だ。計画のし直しを余儀なくされるということである。
「ねえ、全然違うこと考えているでしょ?」
「そんなことはございませんわ」
「まあ、いいけど。とりあえず、色々うん。分かった。むかつく方は言わないけど、いい知らせもある。とりあえず、犬狼族のお姫様。彼女は安全だ。何故か気になるなら、一度会話をする機会を得れば納得できるはずだよ」
「今の話で?」
どの情報を使えば、犬狼族のお姫様が安全だというのが読み取れるのだろう。
しかも話の流れからして、私の話を持って確信に変わったということだ。
「そう。でも僕が話すべきことではないと思うから、一度彼女と話してみるといいよ」
「中等部に留学していらっしゃいますし、弟を使えば会話する機会も得られるとは思いますが……」
もしくは、今からでもできそうだけれど、霊薬に関する話だと、あまり人目に付くような形で話さない方がいいだろう。
「そして僕らが危険視しているのは、エルフ族の王子様と龍人の王子様」
「元々鎖国中も交易があった国ですわね」
鎖国中に霊薬を異国に流すならば、交易がある場所からでなければならない。そうすると、おのずとこの二国はきな臭くなる。
「エルフ族は薬学が進んだ国だ。そんな国が霊薬なんて眉唾物な呪物のようなものを妄信して欲しがるとは思いにくい。逆に龍人の国は呪術などを信じている国だから、霊薬もありがたりそうな気はする」
ミケーレは龍人をより危険視しているようだ。
多分文化が龍人の方が違い、より不透明な部分が多いからだろう。またエルフ族はドワーフ族と同じで進んだ文明を持っているからというのもありそうだ。
「わたくし、思うのですが、本当に霊薬には何も効能はないのでしょうか?」
「は? あるわけないだろ? ただ僕たちを切り刻んだおぞましいものだぞ」
こちらからすれば、その通りだ。でも本当に呪術的な意味合いだけで、危険を冒し、世界中から断罪されかねないリスクを負ってまで手に入れようとするのだろうか?
切羽詰まった理由、それこそ霊薬がなければ命が危ないような、何かがありそうな気がするのだ。
「霊薬は希少だから欲しがる者がいるというのはその通りだとは思うんです。そういう希少というだけで醜悪なものでも欲しがる人はいますから。あとそれにより不治の病が治るという迷信を信じてしまうということもあるでしょう。でもこれだけ長い期間求められ続け、今も危険を冒しても欲しがるのは、本当にそれだけかと思うのです」
「つまり、霊薬には何らかの効能があると? はっ。もしもそうだとしたら、人の命をすすってまで生きようとするなんて化け物だね」
材料とされる側からすればその通りだ。
こちらを食べて生きながらえようとする様はまさに化け物である。でも死にそうになっている相手が自分ではなく大切な者だとしたら、人は悪魔にだってなれる。
「人族と花人を見て生きて来たのですが、種族が違うというのは、いろんな面で違いますわ。人族の国でかつて取引された霊薬は、それこそ情報に踊らされ、不老不死を信じたり、不治の病を治療したいと思った者が手を伸ばしましたが、効果があったという話はありません。でもそれは人族だからかもしれないとも思うのです」
他の種族だったら本当に何らかの効能を発揮して、だからこそ求められ続けている。
そう考えてもおかしくないぐらい、私たちは違う。
「もしなんらかの効能があると仮定するならば、エルフ族も龍人なみに要注意じゃないか。あの国は薬学が進んでいる。何らかの効能を掴んでいてもおかしくない。……まあ、つまりは気を抜くなということだね」
「ドワーフ族はどうなのでしょうか?」
「違うと思うけど、なんともいえないね。元々エルフ族とドワーフ族は同種で、住む場所の違いから見目などに大きな変化ができ、別種族を名乗っているところだから」
二つの国はあまり仲は良くない国だが、元々同じ国が別れた場所でもあるからどれぐらいの交流があるのかは分からない。エルフ族経由で霊薬が流れないと言い切れない。
結局ミケーレの話から安心して付き合っていけるのは、ミケーレ以外だと犬狼族だけとなる。
「そろそろこちらに人が近づいてくる気配がするし戻ろうか」
「はい」
元々こんな場所で立ち話するような話ではないのだ。ミケーレの告白からかなりずれてしまった。
ミケーレにエスコートされながら屋敷の方へ歩いて行けば、ばったりとエドワード先輩と会うこととなった。エドワード先輩は驚いたように目を丸くしているが、ミケーレが堂々としているところを見ると、ミケーレは分かっててやり過ごすのではなく会うようにしたのだろう。
はぁ……。
「ごきげんよう。エドワード先輩。このような場所にどうされましたか?」
「いや。ロディーナ嬢の姿が見えなかったから……」
「少しミケーレ様と込み入った話をしていたのですわ。もう会場に戻りますから、一緒に戻りましょう?」
「込み入った話……」
どこか茫然とした様子で私の言葉を繰り返す。
そんなに驚かせるような話に聞こえただろうか?
「ロディーに、僕の国に来ないかと誘ったんだよ」
「なっ。本当か⁈」
何故か焦った様子で、エドワード先輩は私を見た。あー。なるほど。私がいなくなると、フィーネのことでの相談者がいなくなると焦っているのだろう。エドワード先輩と仲がいいオリバー先輩も幼馴染のアルフレッド先輩もライバルである。
モテる女の子を好きになると大変だ。
「ご安心ください。一応、今のところお断りしておりますから。どうしようもなくなれば、ミケーレ様を頼ることにもなるかもしれませんけれど」
よっぽどないと思うけれど、もしも私がこの国に留まることで周りを危険にさらすようなことになりかねない事態になれば、頼る可能性はないとはいえない。
「なんで? 俺を頼ってよ」
「シルフィーネ様の旦那様に頼るのはちょっとちがうと言いますか……。あ、ちゃんとゴールするまで、応援しますし、中途半端で投げ出す気はありませんから」
私が逃げ出すとしたら何らかの決着がついた後の話だろう。
その頃には私も平民として生きているので、おいそれと頼れないと思う。ミケーレの場合は、父、または弟経由でなんとでもなると思うのだ。
「いや。友達だろ?」
「友達でも、身分差はございますので……。でもありがとうございます」
私に対して手を差し伸べようとしてくれるエドワード先輩はやはりいい人だ。
「ま、友人だったら、それぐらいしかできないってことだねぇ。僕とロディーは血のつながりがあるけれど」
「血って……。すごく薄いと思いますが……」
どれぐらい昔の話をしているのか。
そんな話をし出すと、どこかでエドワード先輩とつながっていないとも言いきれない。貴族というのは、どこかしらで繋がっていることが多々あるのだ。
「そう言えば、昔、ロディーの頭に咲く花は白い花だったことを知っている?」
「突然幼馴染マウントとってくるのはやめてくれませんか?」
幼馴染マウントって……。ミケーレの行動とエドワード先輩から出た言葉に私は深くため息をついた。告白を断っても、ミケーレはエドワード先輩につっかかりに行くのか。
「確かに幼い頃は白色の花が咲いていましたが、ミケーレと初めてお会いした時にはすでに、今の色でしたよ」
「えっ? 白?」
「前に話しませんでした? 花人は一生のうち何度か花が生え代わり、わたくしも花の色が変わってるんです。髪色も昔は弟と同じだったので、印象がだいぶんと違ったと思います」
あの日。エドワード先輩に恋をした翌日に、私の花は生え代わり、髪色は徐々にピンクに色づいていった。
きっとこの恋が終れば、私の花と髪色はまた変わるのだろう。
そうすると、エドワード先輩は私だと気が付かないかもしれない。でもその方がいいなと思いながら、私はそっと自分の花に触った。




