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砂糖菓子娘  作者: 黒湖クロコ
本編
33/75

留学理由

 父に学園に留学生としてミケーレが来たことを伝えれば、早めに彼を招待するようにと言われた。その為、私は翌日にミケーレに夕食に招待したい旨を伝え、そのままその日のうちにミケーレが実家に来ることになった。

 パーティーでもないのに夕食に招待するのは、よほど仲がいい者ぐらいだが、ミケーレは花人の国との関係で我が家とは仲がいい。だから問題はないのだけど……。


「絶対、親密な関係だと思われた……」

「王子様な僕と親密だと思われるのがそんなに嫌なの? 光栄に思うべきじゃない?」

 確かにミケーレは王子様だ。だから本来ならば光栄に思うべきなのかもしれないけれど……。

「婚約者でもないのに、婚約者だと勘違いされて、変な噂を流されたらどうするの……。嫁の貰い手がなくても、わたくしにも外聞というものがあるのですけど?」

 嫁には行けないだろうとは思っている。

 この国で異種族の特徴を強く持っているということは、どうしても負のイメージが付きまとう。私も蔑まれながらの結婚なんてまっぴらごめんだ。でもそれと、婚約もしないのに花人の男と仲良くしているなどの不名誉な噂が流れるのは別だ。


「それなんだけど、外聞を気にしているところ悪いのだけど、一時的に婚約者ということにはできないかな?」

「は? 一時的?」

「そう。一時的に。別に婚約はしなくていいよ。君が僕の国で暮らすのは難しいのは分かっているし。ただ婚約まじかだと思わせるぐらい近くにいてほしいと思っている。ロディーのご両親を交えて、そのあたりの理由を話したい」

 急に真面目な顔をしたミケーレを見て、彼が冗談で言っているわけではないのだと理解する。でも何故一時的に婚約者のふりを?

 考えてみたが、今持っている情報では理由が思い浮かばなかった。

「……理由があるのは分かりましたわ。でも、ミケーレは一時的に嘘でも私と婚約者のふりをするのは大丈夫ですの? 仮にも王家に連なるものでしょう?」

「もちろんすでに国で了承は受けてるよ。僕は現在婚約者がいないから、ロディーが婚約者のふりをするのは問題ないし、むしろその方が安心すると言われている」

 安心?

 余計に意味が分からない。

 

 そんな話をしているうちに、馬車が停車した。どうやら我が家についたらしい。

 ガチャリと馬車のドアが開けられ先にミケーレは出ると、私をエスコートしてくれる。ここに他意はないのは私がよく知っている。こういったエスコートは男性はするのがマナーで、ミケーレでなくてもしてくれるし、いなければ使用人がしてくれる。

 でもきっと、これを見た人は勝手に仲がいいと思うだろう。見目が似通っている為、本人の意思関係なくお似合いと見るのだ。だから先ほど言った、婚約者のふりも、特に大々的に発表しなくても学校でよく一緒にいるだけでそういう噂が流れるとは思う。でも何故そんなことを言い出したのだろう。

 ミケーレは昔から私に対して怒ってばかりだったから、正直私のことはあまり好きではないだろうに。


「ミケーレ様、ようこそお出で下さいました」

 いつもはまだこの時間は顔を合わせたりしない父が、わざわざ外まで出迎えてくれた。ミケーレはご先祖様が兄弟であったとは言え、他国の王子様だ。

「いつもの通り、ミケーレと呼んでくれないか? ここでまで王子様はしていたくないんだ」

「かしこまりました。相変わらずのようですね」

「王族とはいえ三男だし、王位に就くことはないのだからいいじゃないか」

 苦笑する父に対し、気安い様子でミケーレは口をへの字にした。完璧に甘えている。

 ミケーレは私にはよく怒っていたが、父たちに怒ることはなかった。多分中途半端に花人であるからこそ、彼の何かを刺激してしまうのだろう。フェロモンがーという文句はしょっちゅうだったなと思う。


「ミケーレ兄様! お久しぶりです」

 話していると弟のユリウスもやってきた。すごくうれしいと言った様子に、弟ともミケーレは仲良かったなと思い出す。どうやらミケーレは兄弟で一番下な為、弟というものに憧れがあったらしい。そして何かと世話を焼いてくれるミケーレにユリウスも懐いていた。

「わたくしは一度制服から着替えてきますので、ミケーレのことをお願いできる?」

「いいよ、姉上。任せて」

 ユリウスに任せ、私は一人居室に戻り、制服からドレスに着替える。

 それにしても婚約者のふりというのは一体どういうことだろう。ただの気まぐれで提案するような内容ではない。


「ロディーナ様、第二客間の方で伯爵様がお待ちです」

「そう。ありがとう」

 使用人に手伝ってもらい着替え終わった私に告げられた部屋は、内緒話をするための部屋だった。きっと先ほどの婚約の件が出るのだろう。

 私は背筋を伸ばし気合を入れる。


「お待たせしました」

 中には父と弟以外に母までそろっていた。家族総出の状態に、ドキリとする。

「席に座りなさい」

「はい」

 父に促され、私はユリウスの隣に座った。一体何の話が出るのだろう。

 使用人は私のお茶を準備すると部屋から出て行く。ばたんと扉が閉まる音がすると、シーンと部屋の中が静まり返った。夕方ということもあり、今日は窓も閉められ閉塞感がある。


「改めて、メルクリウス家にお越し下さりありがとうございます」

「いや、こちらこそお招き感謝する。メルクリウス家はユーピテル王家にとっては家族であり、また旅の守り神と我が国でも絶大なる人気がある。花人ならば何としても我が国に呼んだのにと父はいつも言っているよ」

「旅の守り神ですか……。ずっと昔のことをいつまでも褒められるのは座り心地が悪いですね」

「花人は受けた恩を忘れぬ民だからね」

 私の一族がユーピテル国で旅の守り神扱いされているのは、この国が鎖国した初期に、花人を中心とした異種族の亡命の手伝いをしたからだ。

 その後我が国から霊薬が闇ルートで異国に流れるなどの騒動もあり、この時に逃がされた者たちから絶大なる人気があるらしい。らしいというのは、実際に現地でそういった人と会ったことがないためだ。

 少しリップサービスが加わっているかなと私は思っているし、父たちもそう思っているだろう。それでも好意的なのは間違いない。

「そのおかげで縁が切れず、ロディーナが先祖返りをした時に様々な助言をいただけたので、こちらこそ感謝しております」


 血筋的にはかなり離れてしまったが、そのことで繋がりが切れていなかったおかげで、私が花人の特徴を持って生まれた時から育てるにあたって様々な助言をもらっていた。

「いや。そもそも我が国が羽のないあなた達の祖先を受け入れるだけの度量がなかったから起こったことだよ。でも彼が国を出なければ同胞を救えなかったのだと思うと複雑だね」

 私は先祖返りだと言われるが、まさしくその通りだった。

 この国で初めてメルクリウス伯爵を名乗った者は、花人と人族のハーフで、姿は私と同じ羽を持たない花人だったそうだ。現在に残る姿絵は人族の姿で描かれ、公式にも人族の姿だと言われているが、実際はこの間私が町に散策に行った時のように、かつらや長袖で特徴を隠していたと言われている。

 それは花人として受け入れられなかったことによる花人への拒絶心からか、それとも自分を受け入れてくれた人族の王への忠義の証としてなのかは分からない。でも彼は花人の特徴を隠してこの国の貴族になった。


「受け入れられなかったのは無理もないと祖先は納得していましたし、この国に来て、フェロモンではなく言語や筆記で意思疎通できるようになりよかったと伝わっておりますから、先祖は誰も恨んではおりませんよ」

「ユーピテル国は花人ばかりだから、どうしてもフェロモンで意思疎通する場面が多いからね……」

 私の祖先がユーピテル国を出たのは、このフェロモンでの意思疎通ができなかったことが原因だそうだ。うまく周りと意思疎通ができず長年苦しみ、最終的に国を出ることで決着をつけた。

 そして私もそのご先祖様と同じなのだから、ユーピテル国で生きるのは難しいだろう。


「本題に入りますが、この度の留学は一体どのような思惑で行われているでしょう?」

「表向きはまだまだ引きこもり体質なこの国、オリュンポスとの交流をし、異種族差別がどの程度緩和されているのかを実地で調査するというものだ」

 調査するとか何様だと思うような話だけれど、この国の異種族差別の歴史を見れば、干渉されても仕方がない部分ではある。

「表向きということは、裏は?」

「それぞれの国で違うだろうが、わが国はむしろオリュンポスではなく、他国の監視だ。私の国でずっと言われていることだが、霊薬を作る奴は悪だが、買う者も同じく悪だと」

 花人は霊薬としてよく狩られた歴史がある。

 だからより敏感だ。


「いまだに霊薬販売が見つかるが出どころは、オリュンポスからだと思われる。そして霊薬が販売されるのは霊薬を欲している者がいるからだ」

 欲しい者がいるから霊薬を作るのか、霊薬が作られたから買う者がいるのか、これは卵が先か鶏が先かぐらい分からない。でも霊薬が作られ続けているのは間違いない。

「霊薬を作るのは悪だ。でもそれを作れと命令している国があるから輸出されていると我々は思っている。そしてオリュンポスへの監視の目が厳しくなり中々作られなくなったことで、相手側も焦っていると思われる。特に花人系の霊薬はもう在庫がないはずだ。だからこのあたりで誰が命令を下しているのか、私がおとりになり尻尾を掴もうと我が国は考えている」

 ミケーレは静かにそう宣言した。

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