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砂糖菓子娘  作者: 黒湖クロコ
本編
32/75

ライバルだらけのお茶会

 どうなることやらと始まったお茶会だったが、エドワード先輩が共通認識としてまず前期に起きた食中毒事件を簡単に説明し、この事件は広めないことを学園側が決めたこと話した。そして次にオリバー先輩が何故自分で育てた植物でお茶をするようにしたかの補助的な説明をした。

「――というわけで、俺は園芸部ではこれからもハーブティーを飲みたいのですけれど、やはり食中毒が出てしまったことで、意見が割れていまして。元々ハーブティーは貴族の文化ではなく庶民の飲み物というイメージが強いのもあって、わざわざリスクを負ってまで育てたものを飲む必要はあるのかという意見が前より大きいです。もちろんハーブティーを飲むことを強制するつもりはないのですが……負の意見が強くなってしまったことをどう改善しようかと相談したく、お茶会を開きました」

「なるほどねぇ」

 そう相槌を打ちながらアルフレッド先輩は、オリバー先輩が手ずから入れたハーブティーに口を付ける。


「ん? 飲みなれないが、これはこれで美味しいな」

「ありがとうございます」

「当り前だろう? オリーが育てたお茶なんだからな」

「なんでエドワードが偉そうなんだい? 君はただの部外者じゃないか。なのに自分のもののような発言をするとか、正直気持ち悪いんだが?」

 ……これ、わざとあおってるんじゃないのか?

 そう思うような嫌味が出てくる。それに対して、エドワード先輩がムッとした様子を見せているけれど、アルフレッド先輩は悪気があるように見えない。

 これはもしや、何でも言い合える方が仲がいいをはき違えたタイプなのでは?

 悪口を言っても許されるから仲がいいと思っていた場合、フィーネとの婚約が決まった瞬間から、アルフレッド先輩がフィーネに悪気なく嫌味を言い出す可能性が高い。もしも本当にそうならば、アルフレッド先輩はナシ一択だ。


「とりあえず意見を言わせてもらうが、ハーブティーに対しての負の意見を消すことはそれほど難しくないと思うぞ?」

「えっ。どうやってですか?」

「確かにハーブティーは庶民のものというイメージは強いが、かつては貴族も飲んでいたもので、茶葉がもてはやされるようになったのは鎖国してからだから年月としてはハーブティーより浅い。だから庶民のものか貴族のものかという見方ではなく、この国独自の文化であるという認識を持たせるといい。異国に対してのコンプレックスをうまくつつくと、付加価値が付くはずだ。異種族を下げて自分たちを上に見せかけようとしているのは、結局は異国へのコンプレックスからきている部分もある」

 異種族は劣っていると思っていたが、鎖国をやめて世界を見れば、自分の国は遅れていると感じた者は多かった。

 それにより、より相手の悪いところを見つけ自分は劣っていないと思いこむようになった老人も多い。ただし若者は逆にこの状況を何とかしなければと異国から学ぼうとする者が多かった。でも異国から学ぼうとするため、より自分の国より異国の方がいいと感じてしまうこともあった。

 アルフレッド先輩の意見はここを刺激しようと言っているのだ。


「この国独自で、優れた文化というのはアイデンティティを保つために誰もが欲しているところだ。だからこのハーブティー文化こそそれだと思わせる。そうだな……、今度音楽祭がある時に、貴賓や異国からの留学生にふるまうのもいいだろう」

「ですが、ハーブティーは異国の方に嫌がられたりはしませんか?」

 異国は茶葉を使ったお茶を飲む国が多い。それもあって、この国の貴族も茶葉をもてはやしたのだ。

「出し方だな。少なくとも、エルフ族は嫌わないはずだ。あそこは、茶葉文化以外に薬茶文化があったはずだ。そして今回の留学生のうち、犬狼族とドワーフ族はご令嬢だった。ご令嬢ならば、美容にいいなどの情報を付ければ食いつくはずだ。そういったハーブをオリバーなら知っているのではないか?」

「なるほど。確かにハーブティーには美容にいいものもあります」

 オリバー先輩がなるほどと頷く。

 私も一気に見直した。アルフレッド先輩が頭の回転が速いのは間違いない。というより、計画する力がすごい。頭が切れると言われるのも分かる提案の仕方だ。

 逆になんでそんなに頭がいいのに、エドワード先輩を苛立たせる言葉を悪気なく言ってしまうのか……。不器用な人というやつなのだろうか?


「それで、ロディーナ嬢はどう思う? 君も意見を求められてここにいるんだろう?」

 挑戦的に言われ、私は苦笑いした。あなたがいれば私はいらないですよとこの場を譲ってしまいたい。

「アルフレッドがそんなことを気にする必要はないだろう?あまりロディー……ナ嬢に失礼なことを言わないでくれないか?」

「だからそういうわざとらしい、婚約したてのカップルのような――」

「はいっ!」

 やめて。妙な勘違いを誘発しそうな嫌味を言うのは。

 ここにはエドワード先輩が好きなフィーネがいるのだ。オリバー先輩がエドワード先輩と恋仲みたいと言ったのとはわけが違う。


 私が授業のように手を上げれば、全員が私に注目した。

「わたくしもアルフレッド先輩の意見は素晴らしいと思います」

「なんだ。同意するだけか?」

「はい。とてもいい意見だと思いますので。もしも加えるのならば、茶葉とは違う部分をより強く見せても、楽しんでいただけるかもしれません」

「違う部分?」

 私としても負の意見をひっくり返すのに、【この国独自の素晴らしい文化】という付加価値を加えるのはとてもいいと思う。後は見せ方だろう。

「柑橘系の汁を入れると色が変わるハーブティーもありますよね? なので、色が大きく変わるものを提供すると余興として楽しめるかと思いますわ」

 これは茶葉のお茶でも変化するけれど、あっちは色が薄くなる程度。多分ハーブティーの方がびっくりさせられるはずだ。


「確かにそういうハーブティーもあるね」

「そのようなハーブティーがあるのね。ロディーナ様は博識で素晴らしいですわ」

 キラキラとした目でフィーネが見てくれるのはちょっとくすぐったくて嬉しいけれど、アルフレッド先輩からギラギラとした目で見られている気がしてげっそりする。

「ふむ。ライバルとして不足なしということだな」

「いえ。アルフレッド先輩の方が素晴らしい意見だったと思いますわ。どのようなものでも、追加で意見を入れるより、最初に立案を出すことの方が難しいものです。ですからわたくしではとてもかないません」

 私はアルフレッド先輩からライバル宣言を撤回してもらうため、さっさと白旗を上げた。別に勝つ必要はないし、今後私ではなくアルフレッド先輩が園芸部に助言する立場に立っても全然問題ない。むしろ、代わりたい。どうぞ、どうぞというやつだ。


「謙遜しなくていい。私が認めたのだからライバルとして誇れ」

「勝手にライバルにされたら迷惑だろ。自分が四大公爵家だというのを忘れるな」

 ふふふ。それ、エドワード先輩もですからね? 

 自分のことを棚上げした意見に私は生ぬるく笑う。でも四大公爵家にライバル視されるとか、本当にやめてほしいのでありがたくもある。

 そんなこんなで、恋のライバルばかりが一堂に集まったお茶会だったが、なんとか和やかに終えることができたのだった。

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