アルフレッド先輩
今ここに、フィーネをめぐる男二人と、フィーネが好きな男一人が一堂に集まった!
果たしてこれでどんな化学反応が起こるのか、ファイトッ‼
「……じゃないわ」
面倒なことになる以外の選択肢がない。
どうするの。この状況で、フィーネが、オリバー先輩のことが好きですなんて言ったら。当て馬終了、負け馬一直線ではないか。オリバー先輩が断るとは思えないし。
いやでも、ここでオリバー先輩が権力に屈したら? いやいやいや。それはそれで嫌すぎる。オリバー先輩を見損なうし、きっとフィーネも同様だろう。でもフィーネも頑固だから、恋が冷めたからエドワード先輩になんてことはないと思うのだ。多分そこで残り二人に告白されても、断る一択。
全員が負け戦というとんでもない結果が生み出されてしまうかもしれない。
「エドワード先輩。負けていられません。何とかして、シルフィーネ様がオリバー先輩に告白するのを阻止しつつ、アルフレッド先輩の告白も阻止しなければいけません。この場で告白大会になったら大惨事しか起こりません。全員敗北です」
焼野原とかした場所で部活の相談に乗るなどごめんだ。
私はこそこそとエドワード先輩に耳打ちする。
でもすでに告白大会が始まっていた場合は……うーん。私も恋愛経験があるわけではないからなぁ。
経験値不足の自分が情けない。
「……分かった。アルフレッド、園芸部の部室で部外者の君が何をしているんだ?」
エドワード先輩は気を取り直して、果敢にこの混沌とした部室内に声をかけた。野次馬がいないだけが幸いだ。ここで噂まで流れ始めたら、フィーネが尻軽だのなんだのと、やっかみまじりの悪い噂を流されかねない。それは私にとって、何よりも避けたいことだ。
私としてはエドワード先輩とうまく行くかより、フィーネに傷をつけないことの方が最重要だ。
養女であるフィーネは、かばってくれる親はおらず、下手をしたら傷がついているのだからとろくでもない輩を呼び寄せてしまうことだって考えられる。
「ロディーナ様! お待ちしてましたわ!」
ぱあああああっと花が咲くような眩しい笑顔に私の目がつぶれそうだ。なんて可愛い……じゃない。そうじゃない。
エドワード先輩じゃなくて、私に反応しないで欲しい。ほら、アルフレッド先輩が、なんでいるんだという顔をしている。
私の方こそ、何故あなたがいるのだという状態なのに。
「本日は園芸部の部長であるオリバー先輩と生徒会長であるエドワード先輩、そしてこの学園の才女であるロディーナ様とで今後の園芸部の活動について話し合うことになっておりますの。ですから、申し訳ありませんが、本日はアルフレッド先輩のお屋敷でお茶会はできません。ごめんなさい」
どうやらアルフレッド先輩は午後の授業がない為、フィーネを遊びに誘いに来たようだ。オリバー先輩と親密に歩く姿に焦りを覚えてここまで来たのかもしれない。でも自分から動かれるとか、エドワード先輩より積極的で流石だなぁと思う。
「……どうして」
「どうして?」
思わずと言った様子でアルフレッド先輩がつぶやく。それに対してフィーネは困ったように首を傾けた。
もしかしたらアルフレッド先輩は自分が一番フィーネの好感度が高いと思っていたのかもしれない。それなのに、自分の誘いを優先してもらえないなど考えてもいなかったのだろう。
アルフレッド先輩は四大公爵家なだけあって、この方もエドワード先輩に負けずプライドが高い。さて、どうこの場をおさめたものか……。
「どうして私を抜かして、そんなに四人が仲良くなっているんだい⁉ 長期休みもエドワードもシルフィーネ嬢も忙しいと言って誘いに乗ってくれないし」
……あれ? シルフィーネ嬢の前にエドワード先輩の名前が出たぞ?
私は横にいるエドワード先輩を見る。そもそも忙しいって……ものすごくたくさん孤児院や私の家に出没していたのに? むしろ来すぎで私が心配になったぐらいなのに?
「いや。忙しいし」
「わたくしも、忙しくて……」
「生徒会で親睦を深めようって、さんざんお茶会に誘ったのに‼ なのに、なんで園芸部の方には顔を出しているんだ。しかもロディーナ嬢。君は部外者だろう」
「……その通りですわね」
間違いなく部外者だ。
ぶっちゃけ、一瞬で帰りたくなった。
誰よ。アルフレッド先輩は知的で策略家という噂を流した人。焦りからか仮面が外れかかっているんだろうけど、ぶっちゃけ見た目が知的なだけで、内容が残念過ぎる。
まあエドワード先輩も実は人知れずよく泣く人だし……四大公爵家の人は分厚い仮面をかぶらなければいけないから大変そうだ。
「ロディーは、部外者じゃない。こちらからお願いして園芸部の問題に取り組んでもらっているんだ」
「ロディーだって⁉ 私の事は、一度も愛称で呼んでくれないのに、ロディーだって⁉」
やめて。巻き込まないで。
焦ったのかわざとなのかエドワード先輩が私を愛称で呼んだせいで、火に油が付いてしまったじゃないか。私の愛称は二回も呼ばなければならないほど重要なものではないというのに。
というか……。
「あの……エドワード先輩とアルフレッド先輩は仲がよろしいのですか?」
フィーネを取り合っているのもあるが、元々この二人はライバルのような関係だと思っていた。
同じ年齢の同性で、どちらも四大公爵家の出身。すごく険悪だとは思っていなかったが、お互い相手を意識しているのは間違いない。家の関係で誕生会などは呼び合うが、普段から一緒にいる姿はなく、色々な場面で衝突も見られるため、ライバルだと位置づけていた。
「赤子の頃からの幼馴染だ!」
「腐れ縁だな」
堂々と言い放つアルフレッド先輩とエドワード先輩の温度差が酷い。風邪をひきそうだ。
「恥ずかしがらなくてもいいだろう? そうやって斜に構えれば大人だと思うのは、より子供っぽいと思うがな」
「……誰が子供だ。事実を言ったまでだ。確かに幼馴染という関係図ではあるかもしれないが、好きでやっているわけではないのだから腐れ縁だろう?」
あっ。悪気なくアルフレッド先輩がエドワード先輩を貶し、エドワード先輩が苛立っている。……なるほど。こういう関係だったのか。
遠目から二人を見ることはあるが、中々近くで会話を聞くことがなかったから知らなかった。
「とにかく、幼馴染だ。幼馴染なら、俺のことこそ愛称で呼ぶべきではないか? それなのにクラスではオリバーを愛称で呼びかけて、お互い苦笑いしていただろう? なんだ、その隠れて付き合いだしたばかりの恋人のよう関係は」
「やめろ。俺とオリーの関係を邪推するな。俺たちは純粋な熱い友情で結ばれている。だよな?」
オリバー先輩がすごくこっちを向くなという顔をしていた。しかしあきらめたようにため息をついた。
「熱いかどうかは分かりませんが、エドワードには仲良くしてもらっています。園芸部で問題が起こった時、エドワードとロディーナ嬢が手助けをしてくれたから、俺は今も学園を辞めることなく通えているんです」
さりげなく私の名前を挟まないで下さい。
エドワード先輩は満足そうに頷いているけれど、私は頭が痛い。
……そして嫌な事実に気が付いた。
アルフレッド先輩がフィーネが好きなことは嘘ではないけれど、もしかしてエドワード先輩の気を引きたくてフィーネに興味を持ってしまった系ではないかと。どちらがどのタイミングでフィーネに恋心を抱いたのかまでは私も調査しきれていない。気が付いた時には、フィーネをめぐって二人の高貴な男性が取り合っているという状態だったのだから。
呆れたような冷めた眼差しをするフィーネを見て、私はこれはいけないと頭を働かせる。
好きな女の子をほかっておいて、男の友情的喧嘩をするものではない。そういうのはよそでやれというやつだ。
「あの……アルフレッド先輩も生徒会役員でしたよね? でしたら園芸部の今後の活動の話に参加していただいてはどうでしょう? アルフレッド先輩はとても頭が良いと聞いておりますし、一緒に考えていただけたら、とても心強いのではないでしょうか? ね? シルフィーネ様もそう思いませんか?」
私の意図に気が付いたらしいフィーネも可愛らしく微笑んだ。
「そうですね。もしもお時間があるのでしたらアルフレッド先輩にもご協力願いたいです。同じ生徒会役員として力を貸してくださいませんか? もしも力を貸して下さったらとても心強いのですけど」
「そこまで言うのなら、もちろん協力しようじゃないか」
チョロい。
機嫌を直したアルフレッド先輩を見て、かまってちゃんかよというツッコミが口から飛び出そうになるが、寸前でこらえる。
個人的にはこのまま知的担当アルフレッド先輩が入ったということで、すううううっと存在感を消してフェードアウトしたいところだ。
しかしオリバー先輩が縋るような目をして私を見ている。
そのため私はあきらめて、アルフレッド先輩を入れた五人で茶会をすることになった。




