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砂糖菓子娘  作者: 黒湖クロコ
本編
12/75

学友の距離

「うんうん。シルフィーネ嬢の言うとおりだ。ロディーナ嬢は必要以上に気を使いすぎている。自分が誰と仲良くなるかまで、他人に指図される必要はないな」

 フィーネをどう止めようかと考えたが、彼女の言葉をエドワード先輩が同意してしまった。……まあフィーネとエドワード先輩がくっつく未来に繋げるために動いているのだから、二人の意見がそろうというのは悪い話ではない。意見が合うということは話が弾む可能性が高いからだ。でも今、この場面で意気投合してほしくなかった。


「やはりエドワード先輩もロディーは気にしすぎだと思いますよね」

「ああ。ロディーナ嬢は自分が一緒にいることによって、俺に悪意を向けられるのが嫌だそうだが、納得がいかないから無視させてもらっていた。そもそもたとえ俺に不都合なことが起こったとしても、悪いのはロディーナ嬢ではなく、悪意的にこちらを見るものだ」

「その考え方はとても素敵だと思います。でも男性と仲良くし過ぎると、ロディーの外聞にも関わると思うんです。だからやはりここは、親友であるわたくしがロディーと一緒に調べたりするべきだと思いますの」

 ……フィーネがさりげなく自分の方が仲がいいとアピールしている。いや、そこはエドワード先輩と私が仲がいいとエドワード先輩に対して妬ける的な会話術にして欲しかった。これはかわいらしい女性としては減点だ。いや、でもちゃんと友情を大切にしている姿は好感度が高いのか?

 女の子同士がギスギスしているよりは、仲がいい方が見ている方も気持ちがいいとは思う。そして男に媚びるというより、女の子同士が仲良くしている方が嫉妬が生まれにくく安心感はある。

 このあたりの男性感情は調査してみないと分からないなぁ。

 そんなことを考えて私は現実逃避する。もうエドワード先輩とオリバー先輩に対しては、フィーネとの関係を隠し通すことなどできそうもない。


「二人の考えは間違ってはいないと思うけれど、ロディーナ嬢の話も聞いてあげるべきではないかな? 実際、この国では異種族は下等だと無意識に思うお年寄りもいる。もちろん変えていかなければいけないことだけど、それがあるからロディーナ嬢は周りにとても気を使っているのだろう?」

 異種族は下等ではないし、実際にこの国の人族よりもより高度な技術を持ち、高い生活水準で住んでいる国も多い。でも長く鎖国していたこの国の中は、ほぼ人族ばかりで、鎖国期間に異種族を奴隷のように扱っていたこともあり、老人の中には偏った認識の人がいる。今では異種族を奴隷にすることはこの国の法だけではなく、国際的にも禁じられているけれど、その歴史が消えることはない為、差別意識は残っている。

 あまりにあからさまな差別は国際問題になるので、表面上は普通に過ごせる。でも根付き、意識しない差別は消えないので、花人の特徴の強い私と仲良くするといらぬ災いを呼ぶ。


「わたくしは、自分の所為で友人が蔑まれるのは嫌です」

「俺を蔑めるものなら蔑めばいい」

「いや、うん。無理ですね」

 四大公爵に苦言はできるかもしれないけれど、蔑みは無理だ。

 堂々と言われて苦笑いする。いや四大公爵に苦言も結構大変だと思うと、私の方に苦言する人がいるかもしれない。それをかわすのも一苦労なのだ。


「話を戻しますが、わたくし、ロディーは不利な立場だからこそ、男性とばかり仲がいい姿を見せるのはよくないと思いますの。ロディーの外聞を傷つけることにもなりかねません。その点、同性であるわたくしならば問題ないと思います」

 まあ男ばかりと仲良くしていれば、男好きや男に媚びを売っているなどの中傷が出てくる可能性はある。とはいえ、エドワード先輩もオリバー先輩もそれぞれに個人的に相談をしたいだろう。

「……フィーネ。あのね、聞いて」

「何?」

「フィーネがやろうとしていることは、エドワード先輩の功績を奪う行為になりかねないものなの」

 私が愛称で呼びかけ、幼馴染としての言葉で話しかければ、彼女は自分の意見を押し通すのをやめ、困惑した表情で私を見た。

「今エドワード先輩がやろうとしているのは、エドワード先輩の未来への投資で、それをフィーネが奪ってはいけないと思うの。あとオリバー先輩の件は、実は別件で、先生にも確認をしないとフィーネには教えられない話なの。たぶんオリバー先輩の事情は、試験期間が終わって今学期最後の園芸部のお茶会が終われば、伝えてもいいと許可が出るとは思うけれど、今すぐにというのはオリバー先輩を困らせてしまうわ」


 もしも本当に生徒会に議案として提出するものの下調べをしているのならば、無理にそこに参加したいというのは功績の横取りになりかねない行動だ。それがどこまでも 善意でしかないとしてもエドワード先輩が手伝って欲しいと言わない限りしてはいけないと思う。

 だからそういう理由で口を出すべきではないと話す。

 オリバー先輩の毒の件は、園芸部員が全員知った後ならば多分生徒会役員であるフィーネが知る分には問題はなくなるだろう。毒の相談にフィーネとエドワード先輩が入る形になれば、エドワード先輩とフィーネが仲良くなるきっかけも増える。まあ、オリバー先輩がいるので、エドワード先輩の努力は必要となるけれど。


「……ならオリバー先輩との件は時間が経てば、わたくしも参加できるということ?」

「ええ。そういうこと。許可は必ず下りるわ。そしてエドワード先輩の方は、できればそっとしておいてほしいの。四大公爵家だからこそ、成果を残さなければならないから。フィーネもわかるでしょう?」

 フィーネはただなんとなく伯爵令嬢をしているわけではなく、その地位を認められるために色々努力をしている。だからこそ、この理由はフィーネに刺さり、納得するしかなくなるはずだ。


「そういう理由ならば、分かりましたわ」

「ごめんね、フィーネ」

「ですが……わたくしとも仲良くしてくれませんか? わたくし、学園でもロディーナ様ともっと仲良くしたいのです」

「うっ」

 フィーネ必殺、上目遣い。

 ばさばさのまつ毛で囲まれきれいな菫色の瞳を潤ませておねだりする方法は、昔から彼女が使って来た技術だ。このけなげ感がある視線から逃れられる人は中々いないと思う。かくいう私も、かなり弱い。

 ううう。可愛い。可愛すぎる。

 あざとさも、好意があるからだと分かるので、それすら可愛く感じるのだ。

「……分かりました。普通のご学友程度の距離感でしたら、かまいませんわ」

「よかったですわ。とても、うれしいです」

 嬉しそうにふわりと笑うと、フィーネは私の両手を握った。

 お互い本来のしゃべり方とは違うからなんだか変な感じだ。でもこれ以上この学園で言葉を崩すわけにはいかない。


「あー……普通のご学友は手を握り合う距離なのか?」

「同性でしたら握ってもよろしいかと思いますわ。殿方はしませんの?」

「しないな」

「しないね」

 おっとりとフィーネが聞けば、男二人は首を振った。まあそうだろう。ただ女子だって、相当仲良くなければ手など握らない。でもそんな情報流そうものなら、余計に面倒なことになりそうで、私はあえてスルーすることを選んだ。

 正しい情報を伝えることが一番いいとは限らないのだ。


「それで話し合いが終わったのならば、ロディーナ様はこのまま帰りますの?」

「ええ。図書館で勉強をして帰ってもいいけれど、落ち着いて勉強するならば自室の方が静かですし」

 屋敷は少し距離があるが学園まで通える。

 図書室で勉強をすると調べ物にはいいが、どうしても花人を見慣れない人からの視線が痛い。だから図書室の利用率が上がる試験期間は自室の方がはかどるのだ。

「そうですのね。図書館で一緒に勉強ができればと思いましたが……」

 この流れは、お部屋に招かれたいな☆的な流れだ。でも流石に試験勉強期間の部屋はかなり汚いので人様は呼べない。なのでこの空気を読む気はない。


「オリバー。園芸部の鍵は俺が返しておくから、少しだけこの後俺とロディーナ嬢に部室を貸してくれないか? ロディーナ嬢はこの後帰ってしまうのなら、もう少しだけ話し合いたいことがあるから時間をくれないか?」

「うーん。例の件の話し合いという名目で借りたから、あまり長く使うのはやめてくれよ」

 エドワード先輩の頼みにオリバー先輩は少し難色をしめしつつも、許可を出した。

 ……フィーネとの関係が暴露されたばかりだから、何の話か正直怖いが仕方がない。黙っていたのは私の方だ。

「分かりましたわ」

 私は憂鬱な気持ちを顔に出さないようにしながら、頷いたのだった。

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