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2  『僕らは今』


「先輩って」

 と伊藤が顔を上げずに言った。

「受験生なのに部活に来て大丈夫なんですか?」

 伊藤はノートパソコンの画面をじっと見据えていた。


「大丈夫ではないけど」

 僕はキーボードから指を離した。

「伊藤が一人だと、寂しくないかなって思ってさ」

 歯の浮くような台詞を言ってみたが、伊藤は動揺の一つもせず「はあ、それはどうも、ありがとうございます」と返事をしただけだった。

 何だか悔しかったが、本気にされても困るのでこれ以上は広げないことにした。


 椅子にもたれて、背すじを伸ばす。

 ぴきぴきと骨が鳴って気持ちよかった。窓からの橙色の光が、やけにまぶしく感じた。


 七月上旬──梅雨が明け、そろそろ蝉が鳴き始める頃だった。


 三年生になって数ヶ月が経ったけど、僕の生活にさしたる変化はなかった。三年生のこの時期と言えば部活を引退し受験勉強に本腰を入れ始めるのが普通だが、僕は相変わらず部室に顔を出して、伊藤とたわいもない話をしながら小説を書いていた。


 外から野球部の野太い声が聞こえる。

 金属バットとボールが触れ合う音が、耳に心地よい。今年は甲子園に行けるのではないかと囁かれているようだが、果たしてどうなるだろうか。


「結局、今年は一人も一年生が来なかったな」


 天井の明かりを見ながら、僕は言った。


「仕方ないですよ」

 伊藤はやはり顔を上げずに言った。


 そう、今年は新入部員が一人もいない。ゆえに引き続き、文芸部は僕と伊藤の二人体制のままだった。

 このままでは遠からぬ未来、文芸部はなくなってしまうだろうことは明らかだった。


 それについては文芸部部長として(いや、今の部長は伊藤か?)、責任を感じないわけではない。僕がもっと上手く立ち回っていれば、新入部員ゼロという状況は避けられていたかもしれない。


 しかし、それは傲慢かもしれないとも思う。

 そもそも、小説を読む人が減っているのだ。

 だから書きたい人など──言わずもがなだった。


 向かいでキーボードを叩く、小さな後輩を見る。ボブカットの前髪には、水色のヘアピンが付けられている。それは去年、誕生日に僕がプレゼントしたものだった。


 伊藤愛──彼女を一人にさせたくないと言うのは、冗談ではあっても嘘ではなかった。


 まあ、一番の理由は家にいたくないからなのだが。

 家にいると、母親が勉強しろ勉強しろとうるさいのだ。

 元々ヒステリックな性格だったが、最近ますます拍車がかかっている。鬼のような形相というのが誇張表現ではなくなりつつある。


 だがいくら怒鳴られてもやる気が出ないのだからどうしようもない。むしろ日々怒鳴られることによって、やる気は下降の一途をたどっている。


 勉強しろと言われて素直に勉強するほど、僕は軟弱者ではない。


 僕はパソコンの真っ白な画面から目をそらし、隣に積んでいた文芸誌を掴み、357ページを開いた。僕はそのページをぴたりと開くことが出来た。


 そしてある一か所を、飽きもせずじっと見つめた。


 そこに湧き上がってくる感情は、わずかな嬉しさと大きな悔しさだ。

 口のなかにわずかな苦味が生まれた。


「惜しかったですね」

 伊藤の言葉に、惜しいわけないだろ、と出かかったが、吐き出す直前でこらえた。伊藤の八つ当たっても仕方がない。


 すべては、僕の実力が及んでいないのが悪いのだから。


「小説家、なりたいな」

 思わず呟いていた。


 新人賞の結果を見ると、いつも憂鬱になる。

 そこには一次選考を通過した者から最終候補に残った者まで、計67人の名前と作品名が印刷されている。受賞作は、最終候補に残った5作のなかより選ばれる。その結果は昨日発売した今月号に載っているはずだ。今回は誰のどんな作品が受賞したのだろうか。


 だけど僕は、その今月号を読む気にはなれなかった。

 自分が受賞していないことがわかっているのに、わざわざそれを確認してダメージを受けに行くほど、僕はマゾではない。


 僕はもう一度、一点を見つめる。

 そこには《星崎春輝》という親の顔より見た名前がある。生まれてこのかた十八年、ずっと僕が使っている名前だ。


 その名前が、一次選考通過者のところに載っている。

 嘘でも冗談でも、同姓同名の人違いでもない。


 半年前に応募した小説が、一次選考を通過していた。

 雑誌に名前が載ったのは、これが初めてだった。


 これまでは落選のたびに、編集部に届いていなかったのではないかとか、別の賞の原稿に紛れてしまったのではないかと疑っていたのだが、そんなことはなかった。


 ちゃんと読まれて、評価されていたのだ。


 今回の応募総数は2048作。そのなかで上位67人に選ばれたというのは、誇張抜きで快挙と言えるだろう。


 嬉しかった。

 誰に何を言われようと、めちゃくちゃ嬉しかった。


 しかし──それだけだった。

 現実はどこまでも平坦だった。


 六度めの投稿で、ついに雑誌に名前が載った。


 ……だから、何だというのだ?


 それで担当編集がつくわけでも、ましてや学校の成績になるわけでもない。

 一次選考通過というのは、言うなれば努力賞だ。


 小説らしきものが書けていますね、よく頑張りました──その程度のものに過ぎない。


 何のプラスにもならない。

 いや、もしかしたらマイナスまであるかもしれない。


 小説を書いていた時間を勉強にでも回していれば、今とは違った現在になっていたかもしれないのだから。


「なれますよ、先輩なら」

 伊藤が妙に優しい声で言った。

「私は、面白いと思いました」


 伊藤は僕の小説に対し、いつもそう言ってくれる。

 それが密かな自信になっていたから、僕は書き続けてこられた。


 だけどそれは伊藤の個人的な好みの話であって、作品を新人賞というまな板の上に載せたとき、僕の作品はまだまだ、足りないものが多すぎるのだった。端的に言えば面白くないのだった。

「ありがとう」

 いつも読んでくれて。


 伊藤も小説を書いてはいるが、賞には投稿していない。こいつは僕と違ってプロになろうとはしていないのだ。

 あくまで、趣味で書いている。

 僕は伊藤の、真剣なのか気を抜いているのかわからない、ぽけっとした顔を見た。そして少し重くなってしまった空気を払うように、努めて明るく言った。


「伊藤のほうは、調子はどうだ?」

「ぼちぼちですね」

 と言う割に指は軽快にキーボードを叩き続けている。調子は良さそうに見えるが、どうやら本人的にはぼちぼちのようだった。まあ伊藤から『最高ですね! ヒャッハー!』みたいな返答が来ても、それはそれで困るけれど。


「今は何章を書いてるんだ?」

「七十三章ですね」

「もうそんなところまで書いてるのか」


 このあいだ聞いたときは、六十九章を書いていたような気がする。

 相変わらず書くのが速い後輩だ。


 知り合ってだいぶ経つけれど、こいつがスランプに陥っているところなど一度も見たことがない。

 いつも一定のテンションで、ただ書き続けている。

 そしてその速度は、どんどん上がっているようだ。


 まったく、底が知れない──。


「まあ、まだ全然進んでないですけどね」

 伊藤は一瞬指を離して、頬をかいた。


《ユグドラシル・ファンタジア》──聖樹ユグドラシルに選ばれた十二人の子どもたちが世界を滅ぼさんとする魔王ミストルティンを倒すために戦う、剣戟あり魔法ありの異世界ファンタジーだ。


 伊藤はそれを自身の運営するホームページで連載している。最近は自分の小説を書くのが忙しいのと、伊藤の書くペースが速すぎるのとで、最新話までは読めていないが──。


 そしてその執筆速度もそうだが、六歳の頃からずっと書いているということにも驚かされる。

 僕が六歳の頃なんて、小説のしの字も知らなかった。


 単純計算で一章が一巻分に相当するとしたら、伊藤はこれまで七十二巻分の物語を生み出してきたことになる。

 それはとてつもないことだった。

 しかもそれで『まだ全然進んでない』というのだから、言葉を失う。


「ラストは、決まってるんですけどね」


 いつか伊藤が言っていた。

 ──死ぬまでに、自分の頭のなかをすべて出したいんです、と。


 伊藤にとって小説を書くという行為は、頭のなかにあるものを取り出していく作業に過ぎないのだろう。


 僕は書く気をなくしてしまい、雑誌を横に戻した。パソコンの画面は、まるで雪が降った後の畑みたいに真っ白だ。カーソルの点滅だけが無情にも繰り返されていた。


 止まっている場合でないのはわかっている。

 書くしかないこともわかっている。

 だが自分に足りないものが何なのかわからないまま書き続けるのは、精神的にかなりの負担だった。


 迷いなく書ける伊藤が、今は羨ましかった。なので僕はそのたゆまぬ推進力に少しでもあやかれないかと思い、お香を頭に浴びるように手でぱたぱたと仰いだ。


「何してるんですか?」

「いや、ちょっとオーラを」

「変な人ですね。まあ、いつものことですけど」

 伊藤がくすっと笑った。それで元の空気に戻った。


「伊藤は夏休み、何か予定はあるのか?」

「クラスの友達と海に行ったり、川に行ったり、プールに行ったりする予定です」

「水ばっかりだな。山には行かないのか」

「山は虫が多くて苦手です」


 そうだった。伊藤の虫嫌いは相当なものだった。一度部室にゴキブリが出たことがあるのだが、そのときの伊藤の狂乱っぷりは後世に伝えたいレベルだった。

 結局ゴキブリは僕が上履きで叩き殺したのだが、それ以来、伊藤は僕を先輩だと思ってくれるようになった気がする。


「先輩は──あ、すみません。先輩に遊びに行く友達なんていなかったですよね。私ったら何て失礼なことを」

「いるわ友達くらい」

 やっぱり先輩と思われてないようだった。

 まことに遺憾である。


「まあ、寂しかったら連絡してください。ご飯くらいなら付き合ってあげますから」

「伊藤は本当にいい後輩だな。涙が出てくるよ」


 優しさは時に人を傷つける刃になる。

 勉強になった。小説に活かせればいいな。


「でも、寂しさを感じる暇もなさそうなんだよな」

「何でですか?」

「塾に行かなきゃいけなくなったんだ」


 それは我が家の人権ピラミッドの頂点に君臨する素晴らしいお方(母親)からの絶対遵守の命令だった。


 このあいだ学校で全国模試を受けさせられたのだが、結果は予想通り、最悪のものだった。自分の学力飛行機がどの程度の高さを飛んでいるのかを、まざまざと見せつけられた。あまりの低空飛行ぶりに自分で笑ってしまった。


 そこで話が終わればよかったのだが、残念ながら母親を煙に巻くことはできなかった。なかば強引に奪い取られ、僕の成績表は白日のもとに晒された。


 そして我が家に怒りの暴風雨が吹き荒れた結果──僕はとうとう、塾にぶちこまれることになった。

 僕に拒否権はなかった。


 しかも母親が指定してきたのは、このあたりでは一番厳しい、鬼のようなスパルタで有名な塾だった。渡された夏期講習のスケジュールを見て、思わず母親を二度見したレベルだ。


 朝から晩まで、ずっと勉強だった。

 小説を書く暇すらなかった。


「それは辛いですね」

「まるで手足をもがれた気分だよ」

 自業自得とは言え、物言いをする余地はあると思う。


「でも、ちゃんと勉強しないと立派な大人になれませんよ?」

 母親みたいなことを言う伊藤だった。こいつは僕と違って成績はいいのだ。可愛くない後輩だ。


「いいんだよ、僕は小説家になるから」


 なれるかどうかもわからないのに、なれるつもりでいる僕だった。

 たかが一次選考止まりの人間が何を言っているのやら。


 しかし誰に何を言われてもやる気が出ないのだからどうしようもない。

 受験勉強と叶えたい夢が直結しているとは思えないからだ。


 別に大学へ行かずとも小説家にはなれる。

 逆に良い大学へ行ったとて小説家になれるわけでもなし。


 だったら勉強する意味などないのでは?

 そう考えてしまうのだった。


 まあそんなこと、母親の前では絶対に言えないけれど。


「先輩のそういうところ、私は好きですよ」

「ありがとう。僕も自分のこういうところは好きだ」

 冗談には冗談で返す。伊藤を相手に、いちいち舞い上がったりなどしない。


 野球部の声に、吹奏楽部の演奏が混ざり始めた。素人の僕にはそれが上手いのか下手なのかはわからないが、色とりどりの楽器が曲を織りなすのを聞いていると、心が洗われていくように感じる。


 もうじき高校生活も終わる。

 まだ七月と言っても、もう七月だ。きっとこれからあっというまに秋になり、冬になり、そして春を迎えるのだろう。


 そのとき僕は、後悔しないでいられる自信がない。

 この三年間何をやっていたのだろう、と自分を責めてしまうだろう。


 だからそうしないで済むために、目に見える結果がほしかった──のだが、僕の渾身の小説はあっけなく落選してしまった。


 焦る気持ちが抑えられない。

 早く、この目の前に立ちふさがる巨大な壁を乗り越えるかぶっ壊すかして、その先の景色を見てみたい。


 それはどんな景色なのだろう。

 小説を書くことが許されるというのは、どんな世界なのだろう。


 もちろん楽しいことばかりではないだろう、辛いこともあるだろう。


 でもそれらの情報は、所詮伝聞でしかない。

 壁の外の住人が、そう言っているだけだ。


 僕は知りたい。

 たとえ壁の外が地獄だったとしても、自分の目で見たい。

 自分の目で見たものを信じたい──。


「そういえば先輩、あの人とはどうですか?」

「あの人?」

「小説家の」

「……ああ、綾瀬さんね」

 一瞬誰のことかわからなかった。

 名前を言ってはいけないわけでもないだろうに。

 まさかこの学校一の有名人である綾瀬さんの名前を忘れたわけではあるまい。

 ……まあ、伊藤ならあるかもしれないが。


 伊藤は綾瀬さんの本は読んでいないらしい。ファンタジー小説を書いている伊藤としては、現代が舞台のヒューマンドラマが主の綾瀬さんの作品には食指が動かないのだろう。


 そもそもこいつは、本自体をあまり読まない。

 読むより書くほうが圧倒的に好きというタイプだ。


 インプットなしでもアウトプットが出来るのは才能だよなと思いつつ「どうって、何もないよ」と僕は言った。


 相変わらず綾瀬さんとは一言の会話もない。

 ただ同じ教室にいるだけだ。


 そこで伊藤が今日初めて、小説を書く指を止めた。タイピング音がなくなると、途端に世界が狭くなったように感じた。


「三年も同じクラスなのに、何もないんですか?」

「ないけど」

 答えると伊藤はわざとらしくため息を吐いて、肩をすくめた。

「本当、先輩は奥手ですね」

「何でそうなる」


 聞き捨てならない台詞だった。僕は説明を要求したが、伊藤は地球を中心に世界が回っていると主張する人を見るような目で「え、先輩、その人のこと好きですよね?」と言った。


「いや何でそうなるんだ」

 何を勘違いしているのだ、こいつは。

「違うんですか?」

 伊藤は首をかしげた。まるで僕が変なことを言ったような空気だった。


「違う」と僕は断固として答えた。「綾瀬さんは、そういう対象じゃないっていうか……」

 上手く説明出来ない。僕の口はこんなときに不良品だった。

 小説ならうまく説明出来るかもしれないのに。


 しかし伊藤はそれを、図星を突かれて困惑していると受け取ったのか「ふうん」と意味ありげに口角を上げた。

「うかうかしてたら、誰かに取られちゃいますよ」


 こういういやらしい笑みを浮かべているときが、こいつが一番輝いているときだと思う。僕をいじることにかけては、伊藤の右に出るものはいない。伊藤とは先輩への態度についてじっくり話し合う必要があるだろう。


 しかし今は、目の前の問題を考えるのが先だ。

 僕は綾瀬さんのことを、思い浮かべた。


 浮かんできたのは、綾瀬さんが本を読んでいるところだった。

 たったそれだけの光景なのに、僕は何世紀も前に描かれた気品あふれる絵画を見ているような気持ちになった。

 だから、伊藤の言ったことには賛同しかねる。


 あの綾瀬さんが、誰かのものになるなんて想像出来ない。

 彼女に釣り合う人間が──彼女に見初められる人間がこの世にいるとは、どうしても思えない。


 それほど彼女は儚げで、美しかった。

 生きているステージが違うと思わせるほどに。


 だから今抱えているものは、断じて恋愛感情などではない。

 もっと別の、もっと上位にある、言葉に出来ない何かのはずだ。


「まあ、いいですけど」

 僕が困っているのが面白いのだろう、伊藤は上機嫌そうに言った。

「でも何であの人、文芸部に入らなかったんでしょうね」


 痛いところを突いてきた。

 どうやら僕の考えていることなどお見通しらしい。

 それが悔しくもあり、心地よくもあった。


「さあ、一人でいたかったんだろ」


 小説は究極的には一人で書くものだ。漫画や映画といった媒体と違い、他人を必要としない。もちろんプロなら編集者というパートナーはいるだろうが、書くときは常に一人だ。


 だから自身の創造する世界に不純物を入れないため、他者と交わらないことをよしとする書き手もいる。

 きっと綾瀬さんもその口だろう──。


 しかし、一人では、いずれ限界が来ると僕は思う。


 一人は寂しい。一人は虚しい。

 僕のなかには、そんな価値観が根付いてしまっている。


 確かに作品と向き合うときは一人だ。僕も、もちろん伊藤も、それは弁えている。

 でもそうでないときは、誰かと一緒にいてもいいと思うのだ。


 一人で生きるには、この世界は広すぎるから。


 まあ、それが本気度の差だと言われたら、返す言葉もないけれど。


 もう三年の夏だ。自分も引退しなければいけない身だ。今さらあれこれ考えても仕方がない。

 しかしどうしても、今とは違った世界があったのではないかと考えてしまう。


 僕と伊藤と、綾瀬さん──三人で机を寄せ合って、馬鹿な話をしながら小説を書いていたのではないかと。


 だけどそれが、今より良い世界とは思えない。

 後に教科書に載るような人間になれたのだ、綾瀬さんにとってそれが良い未来でなくて何なのだろう。


 彼女が文芸部に入っていたら、そんな世界はなかったかもしれないのだ。


 そこで僕は──自分が彼女にとって不純物でしかないと気づいてしまった。


 ひときわ甲高い金属音が響いた。それは聞いただけで、特大のホームランを脳裡に浮かび上がらせた。


「そうかもしれませんね」

 伊藤は満足したのか、また小説の続きに戻った。

 僕も自分の世界に入っていこうとした。だが自分と世界の接続が上手くいかず、書いては消し、書いては消しと繰り返すはめになった。


 キーボードを叩く指が、自分のものとは思えなかった。


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