8)描かれた幼子達
絵の中で、覚えていない頃の自分とロバートが笑っていた。昼間、アルフレッドが見ていた絵だ。戯れる幼子達は、絵をみるこちらに笑いかけているようだ。きっと、この絵を描く画家の隣に、アリアがいたのだろう。
どうせなら、アリアも描いてほしかった。記憶にない産みの母には申し訳なく思うが、育ててくれたアリアを慕う気持ちはアレキサンダーの中に確実にある。
生前のアリアを知る者達が、口を揃えてロバートはアリアに瓜二つだと言う。おかげで、アレキサンダーの思い出の中のアリアの顔は、ロバートになってしまっている。本当はどんな顔だったのか、あれほど慕っていたのに、アレキサンダーは自分の記憶に自信がない。
「懐かしいか」
アルフレッドの問いかけに、アレキサンダーは苦笑した。
「さすがに覚えておりません」
「そうだろな」
幼子達の背景は、広い庭が描かれていた。
「庭は覚えております。ただ広いだけで、何もなくて、走り回っていましたから」
「そうか」
「馬場も鍛錬場も広かったですから、大人しく椅子に座る勉強の時間が苦痛でした」
「そう聞いている。勉強時間が終わって、窓から庭に飛び出していると手紙をもらったが、本当だったのか」
「先に窓からの出入りを覚えたのはロバートですよ」
ほんの数ヶ月だが、先に生まれたロバートのほうが力も強く腕白だった。
「そうか。そこまでは知らなかったな」
成長するにつれ、王子と小姓という関係に変わっていったことが、アレキサンダーは寂しかった。喧嘩のときだけは対等だったから、ロバートに突っかかっていったこともあった。
子供の頃の些細なことなど、アレキサンダーは、アルフレッドと話したことはなかった。
「お前たちの絵は他にも有る。見るか」
「えぇ。出来ましたら。ロバートも眠っていますし」
「添い寝が様になっていて、将来が心配だ」
「幼い頃は、私を相手に添い寝していましたからね。立太子式の前の晩、眠れずに居たら、寝台にロバートが潜り込んできて、いろいろな話をしました。私が王都を追われるようなことがあれば、二人で狩人になろうと約束したりしました」
幸いなことに、あの夜にアレキサンダーが恐れていた事態は現実とはなっていない。
「お前たちは、本当に仲が良いな」
「はい。これからも、そうありたいと思います」
アレキサンダーにとっては、たった一人の乳兄弟だ。心許せる相手であり、諌める言葉には遠慮などない。有能だが少々癖がある近習達を束ね、ときに腕白がすぎることもある小姓達にも慕われている。武芸にも秀で、荒事では最も頼りになる。アレキサンダーにとって得難い存在だ。無駄死になどしてほしくはない。だが、ロバートはアレキサンダーの思いをわかっていると言いながら、無茶ばかりする。
アレキサンダーが、ロバートが二度と目覚めないのではと、不安な夜を過ごしたのは一度や二度ではない。無茶をするな、死ぬなと何度も言ったが、ロバートは常に、主であるアレキサンダーを守るのが自分の務めだと言って譲らなかった。