5)男心女心1
花も咲いていない中庭の東屋に、人影があった。王の間と王妃の間は、小さな中庭に面している。王妃不在のため、中庭は最低限の手入れがされているだけだ。清潔ではあるが、飾り気のない東屋にいたのは、ローズとアレクサンドラだった。
「ローズ、アレクサンドラ」
「アルフレッド様、アレキサンダー様」
立ち上がって挨拶をしようとした二人を、アルフレッドは座るように促した。夜明け前からロバートに付き添っていたはずの二人は、疲れた様子だった。
「元気がないね、ローズ」
「疲れたのではないか。休んだらどうだ。食事はしたのか」
「ね。ほら。ローズ様。ですから、少し休みましょう」
アルフレッドとアレキサンダーの言葉に、アレクサンドラが続けた。
「おっしゃってくださることは、そのとおりです。でも、心配で」
ローズが不安げに手を胸の前に組み合わせた。
「外でまちなさい、休んでおいでといわれました。着替えが終わったら呼ぶからと言ってくれたのですけれど。でも、私が居ないあいだ、なにもないと思うのですけれど、何かあったらと心配で」
ローズの目に涙が浮かぶ。
要領を得ないローズの言葉に、アルフレッドとアレキサンダーは、アレクサンドラを見た。
「今、侍女たちがロバート兄様の着替えを手伝っておりますから。身を清めております。手や顔はともかく。なんと申し上げますか、やはり、そこは、熱で朦朧としていても、いえ、その、身を清めていますから。ですから、あの、ロバート兄様にも男心くらいはございます」
遠回しなアレクサンドラの言葉に、父子は合点がいった。
「そうだね。それはそうだ」
「まぁ、待っている間に食事でもしたらどうだ」
朦朧としている間に、全裸をローズに見られたとなれば、ロバートがどう思うか。落ち込むに違いない。夫婦になったあとであればよいが、二人はまだ婚約中だ。本人の意思とは関係ないというのも問題だ。
ロバートをよく知る父子は、アレクサンドラの側に立つことにした。
「よそをむいているから、そばにいたら駄目かしら」
ローズの言葉に、アレクサンドラは、何とも言えない顔をした。ローズなりに、わかっているのだ。
ロバートは誇り高く神経質で大胆かつ繊細だ。ロバートに慣れているローズは気づいていないだろうが、ロバートは、少々扱いにくい男だ。朦朧としている間に、ローズに裸など見られたとなれば、羞恥心で何処まで落ち込むかわかったものではない。
「ローズ、そこは、男心を持つ身としては、駄目だと言わせてもらうよ」
「父上のおっしゃるとおりだ。ローズ、ロバートの男心くらい察してやれ」
気難しいロバートが、不機嫌だろうが落ち込んでいようが、大抵はローズがいればなんとかなる。だが、ローズに関することでロバートが落ち込んだら、ロバートの気分を誰が上向かせるのか、人選が難しい。
将来、二人が夫婦喧嘩をしたら、誰が仲裁するのだろうかと、どうでもいいことがアレキサンダーの頭をよぎった。