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4)見舞い2


 アレキサンダーは、骨と筋が目立つロバートの手を握った。

「無理をさせた。すまなかった」

「いえ」

ロバートは、力のない声で短く答え、首を振った。


 アレキサンダーは、ロバートの服に、かなり余裕が出来ていることは知っていた。ローズを追っていた間、気苦労と野営の疲れで痩せたのだろうと思っていた。南にいた数ヶ月の間に、ロバートは、一度は倒れたが、毎朝変わらず鍛錬し、通常よりも多くなっていた執務をこなし、周辺の町や村へもでかけていた。ローズと一緒に過ごす様子も変わりなく、もう大丈夫だろうと思っていた。骨が目立つほど痩せたとは、思っていなかった。


「身体を清めて着替えさせます」

深々と頭を下げ、ハロルドは遠回しに出ていくように促した。アルフレッドとアレキサンダーは立ち上がった。


「ありがとう、ございました」

ロバートが、礼の言葉のあと、何かを言い淀んだ。

「どうした」

アレキサンダーの言葉に、ためらいがちにロバートが口を開いた。

「アレクサンドラに、言伝(ことづて)を、お願いできますか」

「あぁ」

「ローズに、ついています。休ませてやってくれと」


 アレキサンダーは、他人の心配をする前に、自分を心配しろという言葉を飲み込み、ロバートの額に触れた。

「わかった」

ロバートの額は熱を帯び、熱かった。触れたアレキサンダーの手を冷たく感じるのか、ロバートは、気持ちよさそうに目を閉じた。


「ハロルド、後は任せた」

「畏まりました」


 怪我や病気の治療は、医者のハロルドが専門だ。アルフレッドとアレキサンダーには、二人にしか出来ないことが有る。


「ロバート、今のお前は、傷を癒やし、身体をもとに戻すことを優先しろ。執務を手伝う者はいる。ヴィクターやアレクサンドラに手伝わせてもいいころだ」

アレキサンダーの言葉に、ロバートが眉間に皺を寄せた。

「まだ、若い二人ですが」

「何、私とお前が、慣れない執務に四苦八苦した頃のほうが若かった」

アレキサンダーの言葉に当時を思い出したのだろう。ロバートが苦笑いした。


 一人の人が出来ることには限りが有る。全員が、出来ることを、きちんと果たし、協力し合うことが大切だと、アレキサンダーとロバートは、アリアに繰り返し教えられた。

「今のお前は、休むことが仕事だ」

「はい」

アレキサンダーは、ロバートの返事を背に受け、部屋を出た。


 アルフレッドが、壁に掲げられた絵を見ていた。子供の頃のアレキサンダーとロバートが描かれた絵だ。

「お前たちも大きくなったな」


 今のソフィアと大してかわらない、丸々とした頬で手足の短い幼子が二人、絵の中で戯れ、笑っていた。

「お前たちには、あまり会えなかったから、よくこの絵を見ていた」


 王都から遠い屋敷には、何度か画家がやってきた。アレキサンダーは絵の行き先など気に止めていなかった。画家は、アルフレッドのために描いていたのだ。

「他にもいろいろあるが、これが一番だ」


 アレキサンダーは、ソフィアの成長を間近で見守ることが出来る。アレキサンダーが当然のように享受している幸せは、アルフレッドが経験できなかった幸せだ。


 王妃が亡くなったあと、王妃の間は無人になった。王宮の一角で、一人孤独だったアルフレッドは、何を思い過ごしていたのだろう。


 アレキサンダーは感傷を頭から追い出した。今やらねばならないことは、いくつもあるのだ。

「ローズとアレクサンドラを探しましょう。父上。珍しくロバートがねだったのですから」

「そうだな。どうせ、そのあたりにいるだろう」

アルフレッドの言葉に、控えていた小姓たちが先導するように歩き出した。




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