3)見舞い1
アルフレッドの執務室に、執務を手伝うという口実で呼び出されたアレキサンダーが到着した。
ロバートの不調は、王宮の御前会議で倒れたため、周知されてしまっている。アレキサンダーの腹心であるロバートの詳細な容態、特に、今朝の異常な状態などは秘匿せねばならない。
アレキサンダーは、通常通りの挨拶を済ませ、書類を手に取り、執務を始めた。普段は王太子宮で執務にあたるアレキサンダーが王宮にきて、早々にロバートが使っている王妃の間に行くことはない。ロバートの不調を周囲に吹聴するようなものだ。アレキサンダーは、冷静を装い書類に目を通していた。
茶を用意した侍女達が、何食わぬ顔で机に置いていった紙片に、問題ないと、書かれていたが、やはり、気になる。アルフレッドとアレキサンダーは早めに休憩を取り、王妃の間へ向かった。
着替えの途中だというロバートは、上半身裸で寝台に横たわっていた。痩せて骨が浮き出た身体に、アレキサンダーは思わず目をそらした。
「ロバート」
アルフレッドが、寝台の隅に腰を下ろし、ロバートの頬に触れた。
「あせ、が」
ロバートは、アルフレッドの手から逃れるように顔を動かした。
「遠慮などしてくれるな」
アルフレッドは、そっとロバートの額にふれ、頬を撫でた。骨が目立つ頬に触れた手に、ロバートの熱い息がかかり、アルフレッドは目を伏せた。
早朝、寒いと繰り返し、震えていたロバートの、冷や汗で湿っていた頬に触れた時、病死した次兄の最期の姿がアルフレッドの頭によぎった。病弱だった次兄は肺炎で死んだ。死を覚悟し、凪いだ瞳をしていた。『王になれ、支えてやることは出来ないけれど、見守っている』というのが、次兄からアルフレッドへの別れの言葉だった。
ロバートは、熱に浮かされながらも、生きようと足掻いていた。次兄にロバートのような強さがあれば、違ったのだろうかと思ったが、もう過ぎたことだ。
死んだ者は還らない。今を生きる者達にできることは、精一杯生きることだ。アルフレッドは、自分に何度も言い聞かせてきた言葉を、心の中で繰り返した。