2)平穏
大量の汗をかいたロバートの震えが収まるころには、外はすっかり明るくなっていた。早朝、アルフレッドが見舞いに来たときに冷え切っていた手は、今は熱を帯び、少し温かくなっていた。
「ロバート」
呼びかけたローズの声に、ロバートはぐったりとしたまま頷いた。
汗で濡れ、額に張り付いた髪を、侍女が丁寧に拭っても、ロバートはされるがままだ。
「ロバート、これを飲め」
ハロルドが差し出した薬湯の匂いに、ロバートが僅かに顔を顰めた。
「文句を言うな」
小姓達に体を支えられたロバートが、渋々薬湯を飲んだ。
「不味い」
薬湯を飲み終え、小さな声で文句を言ったロバートにハロルドは笑った。
「文句を言えるならば上等だ」
寒いという言葉以外を、ようやくロバートが口から発したことに、部屋に張り詰めていた緊迫した空気は和らいだ。
ロバートは、皮肉めいたハロルドの言葉を無視し、早朝から付き添っていたローズの頬に触れ、微笑んだ。ローズも微笑むと、果実水を差し出した。
杯を受け取ろうとしたロバートの手の震えに気づいたアレクサンドラが、そっと手を添えた。
「今は、飲めるだけ飲んでおけ。それだけの汗だ。落ち着いたら、着替えだ。昨日の御前会議での無理が祟ったのだろうな。全くお前は強情だ」
ハロルドを軽く睨んだロバートに、ローズは二杯目の果実水を差し出した。支えるように持ち、ロバートの喉の動きに合わせ、少しずつ口に含ませる。
ロバートの痩せた首には筋が浮き、喉仏が目立っていた。