4.
第1章の続きです。
−別に、忘れていたわけじゃない。ただ、身体が勝手に、いや自分が勝手に忘れさせていただけだったんだ。俺は会っていた。あいつと、夢の中で...。あぁ、全部思い出した。−
ドアへと伸ばされていた手が、ゆっくりと降ろされた。
隼人の顔は、こげ茶の長めの髪に隠れてしまい、よく見えない。ただ、降ろされた右手と、体の横に垂れ下がっているような左手には爪が食い込み、手の平から血が出るのではというほど、強く、強く握られていた。
全てを、夢を思い出してしまった隼人の顔には、悲しみのような色がうかがえるのであろう。
(俺は、自由を求めちゃいけなかったんだ。はじめから、俺に自由なんてものはなかった......。)
一人たたずむ隼人の姿は、だんだんと暗くなり始めた廊下の闇に、呑まれてしまいそうなほど、小さく弱々しかった。
まるでそこだけが、この世界から切り離されてしまったようで。
静けさだけが広がる廊下、ドア一枚向こうの教室からも、音は消えていた。
カタリ......
たった一枚のドアが立てた音が、音が無くなった世界を、元の世界へと戻した。隼人も音に気付いたようで。
目の前には、自分よりも多少背の低い前原がいた。教室には、前原以外誰もいない。前原に呼ばれた奏汰さえも......。
「待ってたよ、細之隼人......クン?」
前原の言葉が、隼人の脳へと直接響く。
−待っていた−
その言葉は、隼人の身体を支配した。奏汰がいないことなど、考えられなくなるほどに......。
「......っ...(信じたくなんか、なかったよっ.........。)。」
嘘であってほしかった。
そんな隼人の想いは、叶わなかった。現実は甘くはないのだと。
僅かな想いを砕かれたからであろうか。隼人の手足が、身体が、だんだんと冷たくなっていった。額には、うっすらとはいえ汗をかいているのに。いまだに手の平に食い込んでいた爪は、その皮膚を裂き、血を滲ませた。
一雫の血と汗が、暗い廊下へと落ち、混じった。
動き出した時間 廻り出す歯車。
夢が運んだ物語。
全てが決められた 定め。
もう 歯車は 止まらない。
もう 誰も 止メラレナイ。
更新遅くなってしまい、すみませんでした。一応、第1章はこれで終わりです。次回からは第2章が始まりますが、その前に間章として、隼人の夢を書きたいと思っています。仮ですが、第2章のタイトルは「能力は禍となりて」、間章のタイトルは「夢の狭間で」にしようかと思っています。あくまでも仮タイトルです。変更するかもしれませんのでご注意下さい。