2.
第1章の続きです。
やがて鈴高の広々とした校舎全体に、朝のHR開始のチャイムが鳴り響いた。
隼人と奏汰は何とか間に合ったらしく、席に着いていた。二人のクラスは2年C組で、担任は佐々木という、2年の中でも厳しいと有名な教師だった。
そのため、当たり前のように時間にも厳しく、チャイムが鳴っても席に着いていないとひどい目にあう。(前に遅刻した男子が資料室の整理をさせられていた。整理ぐらい何ともないと放課後に行ったが、かかった時間はなんと四時間。散々だったとか。)
しかし、HRの時間になったというのに佐々木は来なかった。時間に厳しい佐々木がと、教室がざわめく。
「ねぇねぇ、隼っち。せんせーどうしたんだろうねぇ?」
「さぁな。ってかお前、ちょっとうれしいだろ?」
「あはっ、ばれちゃった?」
舌をちょこっとだして笑う奏汰。(いい忘れていたが、隼人と奏汰の席は近い。教室の一番左側にある、窓に近い列の二番目に奏汰、その後ろに隼人がいる。)それと同時に沸き起こる女子たちの黄色い声。
こう見えても奏汰はモテる。以前女子に聞いたら、弟みたいでかわいいと言っていた。ちなみに隼人もかなりモテる。しかし、そんなにモテるのに、この二人に彼女が居ないのは以外である。
二人のように、各々の生徒たちが話をしながら5分ほどたった時だった。
教室のドアが、音を立てて開いた。
入って来たのは担任の佐々木ではなく、田中とかいう在り来たりな姓をもつ、この鈴高の教頭だった。相変わらず、ださい眼鏡をかけている。見た目は、何処にでもいるおっさんだ。頭の天辺が禿げてきたのが、この頃の悩みらしい。
田中はいつもなら佐々木がいる教壇に立った。生徒たちの声が切れる。
先ほどまで隼人の方を向いていた奏汰も、渋々前を向いた。
「え〜、急なお知らせがあります。田中先生がある事情により、学校を暫く休む事になりました。なので、今日から新しい先生がきます。」
田中が言った言葉が、再びざわめきという波紋を教室に描いた。所々から、どんな人だろうと言う声が聞こえる。対して、佐々木が心配だと言う声は、一切聞こえて来ない。
「静かにっ!!今その先生に来てもらっています。くれぐれも、失礼のないように。では、前原先生、後はよろしくお願いします。」
田中がそう言うと、一人の若い小柄な男性教師が教室に入って来た。それと同時に田中は教室を後にした。
再びおこる女子たちの黄色い声。男子のちょっとした不満も混じっている。
「はじめまして!2年C組の皆さん。今日から佐々木先生の代わりとしてきました、前原 流です!みんなよろしくね!!」
前原が声を出すと、女子の黄色い声は一層大きくなった。所々に、男子のうるせーと言う声が聞こえる。
この前原という教師は一般的に見ても、男性にしては背が低く、声も高めだった。いわば、奏汰と同じ部類に入る。
「男の人かぁ、なんかつまんない。ねぇ、隼っちはどう思う......って、隼っち、そんなに目開いてどうしたの??」
奏汰が驚くのも無理はない。なんせ、隼人は前原という教師を、目を見開いて見ていた。
「あいつ、朝すれ違った奴だ......。」
そして再び、隼人を襲う違和感と、隼人本人もわからないほどの一瞬の恐怖。
「うそ!?おれ気付かなかったなぁ。てか、隼っち大丈夫?なんか顔色悪いよ?」
奏汰が心配そうに隼人の顔を見た。その額には、冷や汗が滲んでいる。隼人は、大丈夫と一言いうと、気を紛らわすかのように窓の外へと目を移した。しかたなく、奏汰は前を向く。
(...まさか...ね。)
そんな思いとともに......。
いつの間にか一時間目は、前原への質問タイムとなったようで、女子たちの質問がひっきりなしに教室を飛び交っていた。
刹那、奏汰と前原の視線が一度だけ交わり離れる。奏汰は目があった後、欠伸を一つだけして机に突っ伏してしまった。
隼人が目を向けた先にある空は、久しぶりの晴天だった。澄んだ空には、白い雲一つ無く、青く汚れのない空が終わりなく続いていた。
隼人の席は窓側という位置にあるので、暇な時や気分が晴れない時、隼人はよく空を眺めている。
空を見ていた視界の隅で、奏汰の茶色が下がったのがわかった。暇で寝たのだろうと、隼人は気にもとめない。また、視界いっぱいに空を移す。
隼人はただ ただ広がり続ける青を見続けていた。
今回の話はいかがでしたか?気に入っていただけたのなら幸いです。次回も頑張りますのでよろしくお願いします!ちなみに第1章はまだ続きます。下手な文ですか、応援して下さるとうれしい限りです。