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聖母のおしおき ~賢者の母と石~  作者: きゅうどう のえ
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■旅から旅へ 2



「お兄さん。これ!これください」


私が指さしたのは壁にディスプレイされている茶色い帽子。

長い髪を纏めて収納出来そうなキャスケット帽、横にある値札らしき札には230Rと書いている。


オックチ町の二日目は、シュリさんの提案で午前中は旅に必要そうな一般常識を教えてもらうことになった。


通貨のこと移動手段のこと身分による生活水準の違い等、現在必要そうな内容を丁寧に説明してくれた。


通貨単位は『ルピル』で日本円に置き換え易かったから、覚えるのは簡単だった。

だって、高い順から金銀銅製で穴あきのコインは穴無しコインの半額

他に小貨大貨と呼ばれるマイクロSDサイズの四角い小銭がある。


紙幣は存在してなくて、そういう概念もないみたい。

火にも水にも弱いから汚れても洗えないしね。

紙に特殊な印刷して付加価値を付けた上で信用が紙幣の文化って成立するのかも知れない。



そんな知識を教えてもらった私は『はじめてのおつかい』の真っ最中なのだ。


頭の中は、かわいい軽快な音楽がエンドレスで流れてるよー。

おつかいしてるのは子供じゃなくて20代の大人だけどねー。


シュリさんから預かった紙に書いてた品はオックチ町にしか売ってない特産果物と佃煮みたいな瓶詰で、場所も商品もすぐに見つかって、無事購入できた。


あとは残りのお金で好きな物を買ってくるというミッション。


嗜好品は次元庫にたっぷり入っているし、実用的な物が欲しいなぁとウロウロした結果、目に留まったのが帽子だった。


町は賑わってて色んな色彩や姿の人が居たけど、私と同じ様な色合いの人は一人も居なかったんだよね。

揃って淡い色合いなのは同じなんだけど、藤色って珍しい色?って気になってた所に見つけたのが髪を隠せる帽子。

これだ!これで髪を隠せばいいんじゃん!って思ったんだよ。


「もうおじさんだよ。で、この帽子、お嬢さんが使うのかい?」


「はい。旅をするには少し髪が長くて邪魔なので帽子の中に入れてしまおうかと思いまして」


「お嬢さんがかぶるには少し大きいと思うけど、どうする?」


白髪交じりの白茶髪のおじさんは手際よく壁から帽子を取ると、小さな専用ブラシで汚れを払って形を整えて見せてくれる。


「この形のは、これ以外ないんですよね」


「残念だけど、ないね」


「じゃぁこれでいいです」


私が帽子を受け取り髪を纏めながら被って見せると、おじさんは面白そうにその様子を眺めたあと、何かを思い出して近くにあった棚の引出を開けた。


「あったあった。お嬢さんにこれをあげよう」


おじさんが私の目の前で手を広げると、濃淡2本の茶色とオレンジのリボンを複雑に編み込んだ細い紐があった。


「ほら、こうして・・・こうすれば・・・これで落ちないだろ」


リボンを手に帽子に手を伸ばしてゴソゴソすると満足そうに私の頭をポフポフと叩いた。

頭を上下に振ってみると断然さっきより安定してるのが判る。


「あ、ありがとうございます」


「お嬢さんの綺麗な髪を隠してしまうのは勿体ない気がするけど、こっちも商売だしね。これくらいのオマケはするさ」


おじさんはニカッと笑って再び私の頭をポフポフと叩いた。



※・・・※・・・※


「うふふ・・・とっても似合ってますよ。可愛い男の子みたいです」


『はじめてのおつかい』から帰宅した私を見たシュリさんの第一声は、とても楽し気だった。

その後、確認してもらったお遣いの内容が合格だったのは当然の結果である。


そして夜・・・夕食は昨日に引き続き『ウマウマはさみ焼き』

シュリさんが「今日が食べ納め、また暫く食べられなくなるから」と何故か3人前も頼んでて、それをペロっと平らげたのには驚いたよ。

どれだけ好きなのと思いつつも、嬉しそうに食事を堪能するシュリさんの姿は可愛かった。


勿論、夜のお茶会も昨夜同様シュリさんの突撃訪問で行われた。

明日で私の旅の同行を終えカドリアーナに帰るから、今夜は絶対来るだろうって予想できてたよ。


身体の汚れを流して簡素な服に着替えた直後にドアがノックされたのには、ナイスタイミングというより何処かから見てたんじゃないかと疑いたくなるレベルだったよ。


夜も更けてきて、他愛もない会話も終わりを迎えようとした頃、突然シュリさんが緊張したのが判った。

少し強張らせた顔に笑顔を張り付けて私の手を優しく掴むと、私に何かを握らせて手を離す。


「帽子を買っていたから必要ないかも知れないけれど髪飾りなの。せっかく綺麗な髪なんだもの。気が向いた時にでも身に着けてくれると嬉しいわ」


手を開いてみると赤と黄色い石が填め込まれ装飾された平らな楕円形で、その両サイドから15㎝ずつ灰色の紐が出てその先端に赤と黄色の玉が付いている。


楕円の部分はひんやりした手触りも見た目もシルバー素材にみえたけど、柔らかくて曲がる様に力を入れれば抵抗もなくフニャリと曲がった。

見た目は硬質なのに実体はゴム製品みたいに軟質って凄い!


またまた、私の固定観念が凝り固まってるのを再認識してしまったよ・・・

恐るべし異世界!!


「凄いでしょう?一見高価な物に見えるのに木の皮で出来ているのよ」


驚いた表情でフニフニと触っている私を見て、満足気にシュリさんは話し続ける。


「まだ、世間には出回ってない品だから、これを人に触らせてはダメよ」


「それって、とても貴重な物じゃないの?シュリさんが使うべきだよ。私が貰うわけにはいかない」


私は慌てて髪飾りをシュリさんへ突き返す。


世に出回ってない代物って事は、やはりこの世界も金属は硬質なのだ。

こんな簡単にフニャフニャ形を変えられないということだし、木の皮の強度が金属と同等で変化自在だとしたら大発明だと言えるんじゃない?

そんな大層な物、貰っても困る!


「これね。発明好きの幼馴染が作った試作品なの。見た目はシルバーなのに皮を加工して作ってるでしょう?原料の元は皮だから耐久が心配なんですって。二つ戴いたのに私の頭は一つだし、良い方が居たら渡そうと思っていたのよ。だから遠慮なく貰って欲しいわ」


シュリさんは、そういうとニッコリ笑って立ち上がり、私の背後に回ると髪を纏めて髪留めで留めた。


「ありがとう。大事に使わせてもらうね」


「次、逢った時に感想を聞かせてちょうだいね」


本当は使ってなかっただけで、ヘアゴムとかヘアバンド・ヘアピンと色々次元庫に入ってる。


でも、私の予想では、この世界にゴムの文化はない。

いや、あったとしても実用的活用はしてないと言った方がいいかも知れない。

だって、パンツ系って腰にゴムを通して留めてるじゃない?

伸縮性があって履き易いしフィットするんだけど、今日町で見た服も、ラキスから貰た服も下着も含めて全て紐かボタンで留めるだけ。

いつかズリ落ちてあられもない姿を晒してしまいそうで気が気じゃない。

それを考えると、ゴムがあるならさっさと普及してそうだよね。


長い髪が鬱陶しいのは事実だし、ヘアゴムで結んで帽子にインするつもりだったけど、TPOを考えると何処でも帽子って訳にはいかないかもしれなし、有難く頂く事にした。





一夜明けて、今日は朝から生憎の曇り空、いつ降りだしてもおかしくない天気だった。

そんな中、私とシュリさんは畜車(ちくしゃ)の停留所へ向かって歩く。


畜車(ちくしゃ)とは、簡単に言うと馬車の色んな動物バージョン

運搬させる為に飼育している動物達で国によって常用されている動物が違うらしい。

昔は獣車(じゅうしゃ)って言ってたらしいけど、獣人族がその呼称を嫌悪した為に変えたそうだ。

今では畜車(ちくしゃ)って名称だけど、通常は車で通じるんだって


私の愛車も自動車だけど、普通の会話では車って言うもん。

バイクも自動二輪だけどバイクって言っちゃうしね。


「それで、何処に行くのか決めたの?直接トゥモマクアの王都に行くの?」


「・・・まだだけど、ハッキリとした目的が無いからトゥモマクア行きの適当な車に乗って適当に降りちゃおうかなぁとか思ってる」


昨日からシュリさんに聞かれてた今後の日程だけど、トゥモマクアの王都を訪れた後はマシュゴルカ帝国が砂漠の国って習ったからマシュゴルカ以外ならどこでもいいかなぁと呑気に考えてる。

何にも縛られない一人旅だもん。ゆっくりまったり行こー


「キホさんは、各国の事を知りたいって言ってましたよね。提案ですけど、首都や大きめの街に行けばキシュラ大陸図書館がありますよ。ラキス様から身分証も作って戴いてますし、身分や国籍に関係なく利用できますから、キシュラ大陸図書館を利用するのも『知る』には良いと思います」


シュリさんが思い出した様に手を一つ叩いて、私を見た。


大陸名が付いている図書館って事は蔵書数も多くて綺麗で広いんだろうなぁ

なぜか字も読めるし、本を読む事は嫌いじゃない。

むしろ好きな方の部類だよ。

シュリさんの提案悪くない!


「それ良いです!図書館に行ってみます!シュリさんありがとうございます」


「取りあえずの目的が出来て良かったですわ。貸出には料金が掛かりますけど館内での利用は無料ですし、有意義に過ごせると思いますわ」


トゥモマクアに行って図書館に通うという目的が出来たと同時に畜車(ちくしゃ)の停留所に到着した。


「キホさん 良い旅を。またお逢いする日を楽しみにしてますわ」


シュリさんはそう言うと私に何かを握らせて足早に去っていった。

私と同じく畜車(ちくしゃ)を利用するのかと思っていたけど、わざわざ此処まで送ってくれたらしい。


「ありがとー!また逢う日までー!」


私は小さくなっていくシュリさんの後ろ姿に届く様、声を張り上げた。



読んで頂きありがとうございます(o_ _)o))


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