■未知空間から旅へ2
サワサワと頬を撫でて通り過ぎていく風が心地良い・・・
時々、草花と土の香りが鼻孔をくすぐって安らかな気持ちになる。
気持ちがいいなぁ・・・昨夜は旅支度で疲れてたはずなのに、旅への期待と不安で興奮してたからよく眠れて無かったんだよね。
「そろそろ、起きてくださいませ・・・」
聞き覚えのない女の子の声が頭上から聞こえてきて、それさえ気持ちよく感じるよ。
「目の色も確認したかったが、もう戻らなければならない」
子供の声なのに大人口調はラキスだ。
そろそろ30分たったの?
微睡みの中で、そろそろ起きなくてはと思いつつフニャフニャしてたら
「あまりにも遅すぎません?お薬を処方して1時間以上経っていらっしゃるのでしょう?」
と、思いもよらない時間の経過を聞いて目をバチッと開いた。
1時間以上も人を待たせて寝てるって、申し訳なさすぎる。
「寝過ごしちゃいました!ごめんなさいっ」
ガバッと身を起して謝ると、目の前にあったニヤケ顔のラキスと目が合った。
「お加減はいかが?悪い所はありませんか?」
すぐ後方で、先程から聞こえていた女の子の声がした。
振り向くと、赤みが帯びた真直ぐな髪を顎のラインで切り揃えた知的美人が座っている。
ちょうど私の頭があった位置に居るのはどうして?
「ラグがあるとはいえ、少し下が堅くて寝苦しそうでしたので・・・」
女の子・・・いや、十代後半位だから女性っていうべきか?が、私の不思議顔で察したらしく、はにかんだ笑みを浮かべて答えてくれた。
やっぱり!膝枕をしてくれてたんですね・・・
「膝枕!ありがとうございました。長々とお借りして申し訳ないです」
「私が勝手にしたことですから、お気になさらないでください。キホ様」
・・・何?このザ・乙女!みたいな女性は!
どう見ても良い所のお嬢様だよね。
あ!お貴族様ってやつ?お貴族様ってこんな感じなの?
「申し遅れましたわ。今はカドリアーナ共和国に居候させて頂いておりますシュシュリ・・・と申します。シュリとお呼びくださいキホ様」
さ・・・様?キホ様って何様?
さっきは聞き間違いと思ってスルーしてたけど、今度はハッキリと『様』呼びされたよね。
「大層な人間では無いので『様』は要らないです。宜しくお願いしますシュリさん」
「挨拶は終わったな。では、君の髪を染め直す」
小さい咳払いの後、ラキスがそう言いながら小さい手で私の髪に触れる。
髪の色が変わると言われていたのに、目の端に映った髪は前の色と然程変り映えしてない。
「上手く染まらなかったの?」
「キホさ・・んの髪、斑に色が違ってて、ちょっと違和感があります」
シュリさんはそう言いながら私の後ろから軽く髪を梳いた。
斑と聞いて自分の髪を一房抓んで見てみるけどよくわからない。
「試してみるか・・手元が狂って巻き添えになったら大変だからシュリはちょっと向こうの方へ行ってて」
「判りました」
スッと立ち上がったシュリさんと目が合うと彼女は微笑んで会釈をしてから立ち去った。
身のこなしといい、あの完成された笑顔といいお嬢様だわ。
ラキスはシュリが離れて行ったのを確認すると、私の顔を覗き込み両手を私の頭にのせて撫でながら小さく口を動かし始める。
「髪の毛を直に染めたみたいだな」
ラキスが言った通り、結婚式に出席する前日に美容院に行って髪を染めてもらってた。
本来の私の髪は極太、真っ黒、量が多いの三難。
この際、イメチェンしようと思って染めてもらったんだけど、想像した色にならなかったんだよね。元の髪が真っ黒過ぎて光が当たれば判るかな程度しか染まらなかったんだよ。
仕事の事を考えると思い切った色には出来ないし、おしゃれだけど職場でも大丈夫な色って結構難しいものだと思った。
「染色材で染めてもらったよ。あまり染まってない気がしてたけど・・・このせいでラキスの薬が効かなかったんだよね?」
「そうだね。染色されてるから見た目が殆ど変わってない。目の色は変わってるけど」
「そっか・・・なんかごめん・・」
自分のせいで成果が出なかったのって、ちょっと申し訳ないなぁ。
でも、こんな事になるなんて過去の私は知らなかったんだからね。
仕方なくない?
「謝る必要はない。こんなものすぐに戻せる」
「頼もしい言葉!宜しくお願いします」
斑頭のせいで笑い者になるのは嫌だもんね。
「あとシュリのこどだけど、色々あってカドリアーナに居座ってる女だ。リペアの事も存在しか知らない。従って次元庫の事、君が別世界から来た事は知られることが無い様に。君はリペアが拾ってきた子で名前以外の記憶を無くしてると話しているから口裏を合わせるように」
ラキルは視線を重ねたまま、一段と小声になり無感情に言葉を連ねる
「それじゃ、イヴァンの事も知らないフリしないとだね」
「・・・聡いな。確かにそうだ」
私の言葉にラキルの目が楽しそうに揺れた。
「俺が君に同行する予定だったけど急用が出来てしまい、シュリがどうしても君と同行したいと此処まで来てしまったからな。本人にも言っているがトゥモマクアまで案内させたら此処なり何処なり行かせるんだ。いいね」
ラキルの口ぶりを聞いてると、何だかシュリさんに対して良い感情じゃない気がするんだけど、なぜ?
「シュリさんって、何か問題ある人なの?ラキルの言い方聞いてると不安になるんだけど」
時間も限られてるみたいだし、ここは直球で聞いてみる。
するとラキルは目を見開いて、そして可笑しそうに口元を綻ばせた。
「ああ、そんな風に聞こえたならごめん。シュリとはお互いが個人的に良い感情を抱いてない。簡単に言えば、俺はヴァンの仕事にシュリは邪魔だと思ってるし、シュリもそんな俺を邪魔だと思ってる。あいつは我儘だし甘えた所はあるけど基本真面目だし気が利く」
三角関係と言う奴ですか?!
というか、男の友情に彼女が割って入ってきて気に入らないという感じか?
大人びて生意気な喋り方をする割には感情を隠せないなんて、やっぱり子供なんだなぁ
私が一人で納得していると、ラキルが静かに立ち上がった。
「終わったよ。さっき言った事、覚えておいて」
「記憶喪失だったよね。わかった」
「あと次元庫も、君の世界の物も安易に使えないだろうから、必要そうな物を見繕って荷物にしてある。自由に使って」
ラキルは私に手を差し出して、立ち上がらせてくれると、手際よくラグと薬品のセットを片付けていく。
「何から何まで、ありがとう」
「あの甘い菓子のお礼・・・美味しかった」
こちらに顔を向ける事なく丁寧に次元庫へと荷物を入れる手を止めたラキルが小さい声で言った。
「今度は、綺麗に色が変わってますよキホさん」
いつの間にか近づいて来たシュリさんの明るい声が聞こえてくる。
「あ、ありがとうごさいます。ラキル君のおかげです。時間を取らせちゃってごめんね」
「ラキルくん・・くんって・・」
私の横に並んだシュリさんが小さい声で何か呟いてクスクス笑う。
「いいから、早く行きなよ。夕方までに宿が取れなくなる」
ラキルはいつの間に取り出したのか、さも預かってましたと言わんばかりに肩掛けのバッグを私に寄越した。
「うん。色々とありがとう」
「見聞を広めてくるといい」
「では、少し急ぎましょう。ラキル様、数日後には戻りますわ」
シュリが私の腕を掴むと挑戦的にラキルを見て微笑んだ。
作り笑いが実に見事だと私はラキルとシュリを交互に見比べながら思ったのだった。
ところで私の外見はどんな風になったんだろう。
純日本人の私に赤や黄色や緑の髪とか目が似合うのかなぁ
何気なく自分の長い髪を一房取って確認してみて
「うへぇ・・・」
今までの人生で自分がしないであろう髪色に固まってしまった。
読んで頂きありがとうございます。
誤字などありましたら教えて頂けると助かります。
ダラダラと書き連ねている妄想ですが、読んで頂けたと思うと嬉しいものですね。
感謝です♪