勇者と魔女
※勇者視点です
この世界の脅威を
あの時初めて見た
辛うじて人に見えなくもない異形の姿の
瞳があるであろう部分が濡れていた
何度目を凝らしても濡れて濡れ続けている
泣いてるんだと気付いた時
目が合った
そしてソレは消えた
この絶望的な状況で奇跡が起きたと
人々がもてはやした
この世界の脅威を退けたと
滅亡を回避できるかもしれないと
もちろん手放しで嬉しかった
嬉しかったのに
どうして泣いてるのか
心が奥底で渦巻いた
来なければいいのに
ソレは再び来た
人々の阿鼻叫喚の中
ソレは何かを探し
俺と目が合うと――笑った
ああコレはこの脅威は
―――女の子なんだ
根拠も無いのに確信した
ソレは俺を覗きこんだ
その異形の―――女の子に全てを見透かされそうで
正義という建前を奮い起こした
「魔女よ必ずお前を殺す」
ソレ―――魔女は消えた
再び退けたと人々に称賛された
お前こそが勇者と推された
違うそうじゃない
俺は脅威を排斥したんじゃない
女の子を傷つけただけなんだ
なのに卑怯な俺は勇者となった
およそ人の姿には見えないのに
笑った顔は綺麗に見えた
もう一度見たかった
現世の命と引き換えの
異世界の先にいたのは
見たこともない女の子だった
恐ろしい姿ではなかったけど
笑った顔がやっばり綺麗だった
それがあの魔女の証―――
独りぼっちな女の子だったから
ずっとずっと大切にして
―――笑った顔が見たかった
一刻も早くこちらの世界の魔法で縛り
恐ろしい魔女も滅亡する世界も
異世界の無情な少年に「殺す」なんて言われた事も忘れて
ずっと自分に笑いかけて――――
卑怯な「勇者」の卑怯な夢




