真理花と魔女
私は幼い頃から独りぼっちだった
お父さんにもお母さんにも事情がある
今ならわかる
少なくともわかったつもりにはなれる
でも幼い時はたださみしかった
ある時、夢の中で私は不思議な世界にいた
その世界は色とりどりのガラス細工のよう
淡い光に包まれた世界は繊細で儚く
本当にガラスで出来てるか知りたくて砕いてみた
そしたら虹色の破片が花びらのように舞い散った
とても綺麗だった
だから夢を見るたびその世界を壊していった
ツンとつつけばシャボン玉のように割れ、フゥと吹けば飛んで行き、指を鳴らせば崩れていく、
面白いようにその世界は壊れていった
ああ面白い
いっそこの夢の世界を滅ぼしてしまおう
その最後の瞬間はどれほど美しいだろう
破壊することが楽しくて楽しくて
現実のさみしさを忘れていった
忘れていったつもりだった
儚い世界にも住人はいた
その多くを蟻を潰すように闇雲に散らした
そんな時
私を見つめる瞳に気が付いた
その少年の体も、つつけば壊れるほど華奢で、嵐になぶられる様は滑稽だった
でもその瞳の炎は七色に揺らめいていた
睨まれていたのだ
当たり前だ
この世界の全てを私の悪意で破壊し尽くしてきたのだ
当たり前だ
この世界は生きている
私に滅ぼされる為に生まれてきたわけではない
私は何をしてるの?
ワタシハナニヲシテルノ
気付いたら夢は覚めていた
現実の私はやっぱり独りぼっちだった
でもだからって
夢で世界を破壊していいの?
私は初めて夢を恐れた
でもあの少年の瞳が
七色に揺らめく炎が
あの少年が
自分でも意味がわからない
願ってはいけないのにあの瞳の七色の揺らぎに焦がれたまま眠ってしまい
また夢の世界に戻ってきてしまった
人々の抗いは一層激しかった
されるがままに目は七色の虹を追う
果たして私は、前より少し成長した少年を見つける
ああ会えた
ただ嬉しかった
七色の虹をもっと見たくて覗きこんだその少年の瞳に私が
私だと思われる化け物が映った
少年の掠れ声が聞こえた
「魔女よ必ずお前を殺す」
私は、笑顔を張り付けたまま目を覚ます
ああ当たり前だ
憎まれて当たり前だ
私はあの世界を滅ぼそうとした
あんなに醜い魔女だったんだ
でも嬉しい
独りぼっちで誰にも気付かれなかった私を
あの少年はまっすぐ見返し言葉まで掛けてくれた
さみしかった世界が、どす黒く、でも色付く
もう一度会ったらあの少年は私を殺すだろう
でないと今度こそ私があの世界を滅ぼしてしまうだろうから
三度会ったらそれが私の殺される時
でもそれは――なんて甘美なんだろう
大切なあの少年のいる世界には二度と行かない
夢に見ない滅ぼさない
どす黒い、大切な私の初恋
その思いをシャボン玉に飛ばした日、私はシイ君に会った
そして婚姻届を前にする今まで
その罪を忘れていた




