唯一の才能
投稿遅れてすみません!!
勇馬は今、女神バレンティーナの前に立っている。勇馬は先ほど己の力がどれだけ無力か思い知った。
だからこそ、こうして自分が女神に呼び出されたということは、自分のステータスに何らかの不備があったに違いないと思いこんでいた。
そうでなければ、あの理不尽なまでの力の差は納得できない……できるはずがない……勇馬は重々しい口調で事の発端である彼女に尋ねた。
「女神様。俺に話す事ってステータスのことですよね? やっぱりなにかおかしかったんですよね!?」
勇馬は口早に言葉を並べる。
「はい。もちろんそのことです。あなたのステータスは確かにおかしすぎます」
その言葉が耳に届いた瞬間、勇馬の体には歓喜の思いが閃光のように駆け巡った。
「や、やっぱりそうですよね!? 俺だけこんな弱いはずある訳ないですよね!?」
勇馬は安堵感を覚えながらも再度、女神に尋ねた。しかし、次に女神が発した言葉は勇馬を絶望させるには申し分ないほど衝撃的なものだった。
「はい。勿論、貴方はおかしいですよ? だって、貴方のステータスは笑えるほど弱いんですもの。いやぁ、本当にびっくりしましたよ、最初は?勇者の召還に成功したと思ったら場違いな不良品が紛れているんですもの」
女神は失望したような顔で勇馬を見た。
「……えっ? 今、なんて……? 不良品?」
予想外の言葉に戸惑う勇馬。しかし、女神は追い討ちをかけるかのようにまくしたてる。
「は~あ。あのね私は勇者を召喚したの!! 貴方みたいなクズは呼んでいないの!! 貴方はゴミと一緒よ!! 廃棄処分!! ほんと、なんで貴方みたいなのが…………」
怒りの形相で勇馬を睨みつける女神。勇馬は事態が読み込めずただ、唖然としていた。
俺がクズ? いらない? 廃棄処分…………?
勇馬の中で女神に対する意識が変わった。否、勇馬のこの世界に対する意識が変わった。
「なんだ、こいつも結局あいつらと変わらないんだ。俺を蔑み、けなし、罵る。そして、嘲笑する…………」
勇馬はこの時自分の価値観が変わった。それも、人生を揺るがすほどに……
周りは敵だ。もう、嫌ってほど分かった。もう、だれも信用出来ない……
勇馬の中にまるで、魔物が住み着いたかのように場の空気が淀む。そして、勇馬は殺気を放ち静かに呟いた。
「おい…………俺に価値がないんだったら、さっさと元の世界に戻せ。こんな世界は勝手に滅んでろ……」
勇馬の重々しい言葉に女神は何か考えこむふりをして
「……はーあ。言われなくてもそうするわよ。もう貴方に用はないし、さっさと消えてちょうだい。さあ、早くこの、魔方陣の上に乗って」
この言葉に勇馬は少し意外性を感じた。
なんだ、意外にすんなり戻すのか。もう少し何か、あると思ったが…………?
勇馬は言われた通りに魔法陣の上に乗った。
カァッッッ!!
魔方陣が輝き出した。妖しげな光を伴って……
「おい、本当に帰れるん……!?」
何やら嫌な予感がした勇馬はとっさに魔法陣から降りようとしたが、体が硬直してしまった。なぜなら、今までの女神とはまるで違う、別の何かが
そこにいたからだ。
「フッフッフッ。じゃあねぇ~。し、ぐ、れ、く、ん。さっき言ったこと忘れた?貴女は廃棄処分よ」
口元が三日月のように割けて笑っている女神がいた。勇馬はこの時、記憶の片隅にあったあの顔を思い出した。女神が見せたあの笑みを。
「ちっ! 罠か!」
勇馬は再度、降りようと試みるが既に体は光に包まれて身動きができない。
「ちなみに、召喚先は生存率0%のダンジョンよ。今まで何人も気に入らない歴戦の戦士や魔術師を送り込んできたけどみーんな死んじゃったわ。貴方はいったい何秒持つかしらね」
女神が高らかに笑う。
俺は馬鹿か! さっき信じないって言ったばかりじゃねえか!! つくづく自分が嫌になる。この甘さも捨てないと……
また、勇馬が壊れた。そして、新しい勇馬が形成されていく。優しさ、そして臆病さが薄れ、明確な殺意を身に秘める勇馬に…………
「……一言、いわせろ」
勇馬は思った。これだけは言わなければならないと。
「どうぞご自由に」
勇馬は女神を睨みつける。復讐の炎をその瞳に宿して。
「俺は絶対に死なない。お前を殺すまで。その顔を苦痛で満たすまで、絶対だ!」
勇馬は吠えた。まるで魔物のように。それを女神は、鼻で笑った。
「無能の戯れ言はおしまい? じゃあ行ってらっしゃ~い。貴方の死に様を見れないのは残念だわ~。でもでも、最後まで騙されたのはちょっと笑えたわ~あ、り、が、と、う!!」
そして、勇馬は虚空へと姿を消した。
これは勇馬が女神に騙される少し前の話。
「なんだぁ~?あいつ。急に消えやがったぞ?」
勇馬をリンチしていた樋口が呟く。
「なんだ。なんだ~。時雨のやつ逃げたのかぁ~」
「まぁ、あんなオタクどうでもいいや。むしろ目障り
だったし、消えてくれてありがたいわ」
この言葉を勇馬が聞いたら、自分をダンジョンにとばしてくれたことをむしろ感謝するだろう。勇馬にとって、もう自分の居場所などないのだから……まぁ、元々、無かったかも知れないが……
「てかさ~、これから俺達どうすんの?」
樋口グループのお調子者、名古屋昇大がみんなに尋ねる。
しかし、返答はクラスメイトからのものではなかった。
「すみません、ちょっと用事がありまして退出してました」
ここで彼女、女神バレンティーナが何食わぬ顔で戻ってきた。
「女神様。これから僕達は、なにをすればいいのでしょうか?」
リーダーの宮城が尋ねる。
「貴女達にはまず、修行を積んでもらいます。いくら、ステータスが強かろうと戦い方をしらなければ宝の持ち腐れなので」
周囲の男子から歓声が上がる。
「やったぜ!!こっちの方が断然、授業なんかより楽しいぜ!!」
「俺、修行とか憧れてたんだよな~。」
「早くやろうぜ!!」
女子からもひそひそと話し声がする。
「なに~修行って。うけるんですけど~」
「でも、なんだか面白そうね」
あっという間に周囲が騒がしくなった。
「みんな、落ち着いて! 嬉しい気持ちは分かるけどおしゃべりはそこまで!」
「「「「「はーい!」」」」」
宮城の一言で辺りは静けさを取り戻した。
改めて宮城のカリスマ性が伺える。
「ふふ。宮城さんはいいリーダーですね。さすが勇者です。さて、これから貴女達に訓練所に行ってもらいます。そこで我が王国……ハイルーン王国の精鋭である神聖騎士団と宮廷魔術師団に鍛えてもらいます。では、さっそく行ってみましょ~う」
バレンティーナは魔法陣を作り出した。
おそらく、転移魔法のようなものだろう。
「はーい、皆さーん!これに乗って王城までいきますよー!」
女神のかけ声と共に次々とクラスメート達は魔法陣に
乗っていった。
「私は後から行きますので、向こうについたら騎士団長の
指示に従ってくださいねぇー!」
そして、3年A組一同は王城へと向かった。
「……ここはどこだ?」
現在、勇馬はダンジョンにいる。
それも、クソ女神によってとばされた鬼畜難易度のダンジョンに……
「あの野郎……絶対、殺す!!」
未だに冷めない怒りを胸に抱いていると、だんだん目が慣れてきたのかぼんやりと周囲が見えるようになってきた。
「……これ、骸骨だ……」
勇馬の近くには大量の骸骨があった。
恐らく、女神にとばされた者達だろう。
「さすが、生存率0%のダンジョン。恐ろしいな……」
勇馬は今自分が危機に晒されていることを改めて自覚する。
「グルルルルゥゥ」「キシャァー」「シュゥーー……」
人間とはとうてい思えない声が聞こえてきた。
「……魔物に見つかったら一発アウトだな」
勇馬は慎重に行動を開始した。
薄気味悪い洞窟を孤独に進む勇馬。周りからは獰猛な魔物の声しか聞こえないなが、勇馬はただ、淡々と歩いた。そして、ついに勇馬の行くてを阻む者が現れた……
「ガァウ!グルルルル!」
人生初の魔物に勇馬は遭遇した。
見た目は狼によく似ているが、体からバチバチと電気が走っていることから明らかに魔物ということが分かる。
「こいつは、かなりヤバそうだな……」
勇馬は慎重にこの場を離れようとした。しかし、事態は急変する。狼の魔物が突然勇馬の方を振り向き、逃げ道を塞ぐように立ちはだかった。
「な、なぜバレた!!」
まだ、視認されていないにも関わらずこの魔物に見つかってしまったことに動揺を露わにする勇馬。勇馬はしらないが、実はこの魔物、
(フェンリル)レベル200
筋力…………20000
敏捷…………50000
耐久…………30000
魔力…………50000
スキル
『神獣』
全属性耐性がつく。
『雷神』
雷の属性魔法に極大の補正。
『感知』
生命反応を感じとり生物の居場所を特定できる。
『聖獣』
光の属性魔法に極大の補正。
という、勇者もビックリなチートスペックなのである。勇馬はステータスこそ知らないが、窮地に陥っていることは誰がみても歴然だった。
「ちっ、どうすれば……」
バチバチと電気を放電させフェンリルが近づいてくる。
「グルルルゥ……」
唸り声を上げた瞬間、フェンリルが勇馬の視界から消えた。
「なっ!」
驚愕の表情を顔に浮かべた勇馬は、ここにいたらマズい! と直感し、その場から、横っ飛びをして瞬時に離れる。
「ガァウ!」
その直後、突然虚空から出てきたフェンリルが牙をむき出しに
しながら現れた。とっさの判断でよけた勇馬は直撃は防いだものの牙が肩を掠めた。
「ぐ……痛すぎるだろ」
平和な日本で生きてきた勇馬は当然痛みに慣れていない。肩の傷口から血がどんどん溢れてくるのを必死に抑えながら勇馬は迸る激痛に顔を歪ませる。
フェンリルも、かわされたことがお気に召さなかったのか唸りながらまた飛び掛かろうとしてくる。
クソっ! いったいどうすれば!
勇馬は打開策を練ろうとするが、この絶望の状況を前に自分ではどうすることもできないと、思ってしまった。
情けない。情けない。情けない。痛い。怖い。辛い。もう、いやだ……
そんな時だった。
「スキル『一度きりの幸運』所有者の命が危険です。よって、『一度きりの幸運』を発動させます」
「……は?」
勇馬の唯一の力が発動した。
次回から新人物登場!!