無職 即ち最弱
今回、初投稿した蔵野光です。気ままに投稿をしていこうと思いますので、少しでも興味を持ち、面白いと感じられたら幸いです。
それは突然起こった出来事だった……
とある高校の3年Aクラスの生徒達が失踪する事件。
目撃者である生徒が語るには、Aクラスから謎の光が急に現れたらしい。その生徒は光がおさまると、直ぐにAクラスの教室に駆け込んだそうだ。しかし、その教室には誰一人いなかった。消えた生徒はどこにいったのか……
しかし、彼らは知らない。この世界とは異なる世界で始まる一人の男の物語を。
「こ、ここはどこなんだ……? さっきまで俺は教室にいたはずだ。どうしてこんなところに……」
白よりも白い純白な柱が幾本も天井に連なっている。周りにはどうみても高級感が溢れている誰かの肖像画に加え、床にはレッドカーペットまでしかれている。さしずめ、中世に存在した城の中と言ったところか。
そんな場所に場違いで慌てふためく男が一人。そう、彼の名前は時雨勇馬。3年A組の生徒としてなにげない日々を過ごしてきた男だ。
と言っても、過ごしてきただけでけして充実した日々ではないが……
「あれ、俺達さっきまで教室にいたよな?」
「私達なんでこんなところにいるの?」
「は、ふざけんなよ!!スマホ圏外とかあり得ねぇだろ!!」
「こ、これってゆ、誘拐?」
周りにはいつものクラスメイト達がいた。
しかし彼等もやはり困惑していた。まぁ、いきなりこんなところにきたら困惑するなと言うほうが無理な話しだろう……
「みんな!!とりあえず落ち着こう。まず、ここに誰がいて誰がいないのか状況を確認するんだ!!」
「さすが、海翔。この状況で冷静でいられるのはどうやらあなただけみたいね。みんなここは海翔の言う通りにしましょう」
この男は宮城海翔。このクラスの中心といってもいい。文武両道でイケメン。まさに非の打ち所がない。だから、女子からの人気は絶大である。
かといって、男子からも頼りにされていて、けっして疎まれる存在ではない。
その宮城の隣にいつもいるのが乱崎桜。宮城の幼なじみでこのクラスで宮城に続いて2番目に人気がある。顔立ちもよく面倒みが良いことからこちらも男女共に好かれている。
「この変な場所でもこの二人がいれば安心ね」
「まったくだ。海翔がいてくれて本当、助かったぜ!!」
周りも少しずつ冷静さを取り戻していった。この二人のカリスマ性には毎度、驚かされる。やがて、二人による状況確認が終わると今後のことについてまた辺りがざわついてきた。
「みんな! ここは知らない未知の場所だ。だけど、必ず帰ろう! 俺も頑張るから、皆で力を合わせるんだ!!」
ワーワーワー!! ピーピー! ヒゥーヒゥー!
ざわついていた声は黄色い声援へと変わり、その全てが彼に降り注ぐ。彼の自信はいったいどこから湧き出てくるものなのか……
「あらあら。みなさん、とても頼もしそうですね」
突然、上空から声がした。とっさに、全員が同時に上を見上げると……そこにはおとぎ話で出てきそうな背中から翼をはやした女性が、空からゆっくりと降りて来ていた。
「あ、あなたは?」
宮城がその女性に問う。
見るからに、人間ではないその女性の登場に空気がピリつく。
「私の名はバレンティーナ。女神バレンティーナです。そして、貴女達は私が異世界から召喚した勇者です」
自分は女神であると名乗ったその女性……バレンティーナは辺りを見渡しながら、静かに告げる。
「え、嘘でしょ……」
「なにそれ……帰して……帰してよ!!」
「俺達が勇者?」
「えっ!? ここって異世界なの?」
「やべぇ! わくわくしてきた!!」
辺りからは不安の声を漏らすやつもいれば、異世界召喚という事実に胸を踊らすやつらもいた。
「単刀直入に言います。貴女達には、この世界を支配しようと企む魔王勢力、そして魔王を討伐してもらいたいのです。魔王の力は巨大でこの世界……イグアナにいるものでは手がでません。そこで貴女達を召喚しました」
まだ、事態を把握仕切れていない勇馬達一同に事の次第を説明するバレンティーナ。
「なるほど……でも女神様。僕達には何の力もありませんよ? これじゃあ魔王討伐どころではないですが……」
宮城の意見には、勇馬も同感だ。勇馬達はいたって普通の高校生
である。しかし、普段からラノベを足しなんでいる勇馬さんには分かっていた! このあとのお決まりの展開が!!
「その点は大丈夫ですよ。異世界から召喚された勇者の方々はこの世界の人間とは比べ物にならないほどの力を有しているのです」
お決まりの展開……そう!! ずばりチート能力だ。今までは平凡だった人間が、異世界に来たとたん最強になる。これはラノベの王道そのものだ!!
「これを見て下さい。これは、ステータスプレート。貴女達のレベルや能力、天職を見ることが出来ます」
そういって女神からプレートが一枚ずつ手渡される。すると、プレートを受け取った瞬間、なにやら文字が浮かび上がってきた。
(時雨勇馬)レベル1
天職…………無し
筋力…………10
敏捷…………10
耐久…………10
魔力…………10
スキル
『一度きりの幸運』
自分の命が危険にさらされた時運が格段に上昇。(一回限定)
勇馬は絶句した。そして、
………は? なにこれ? 天職無しってなに!? えっ!? どうなってんの!! このよく分からんスキルも一回しか使えないの!? 俺は異世界でニートになるの!? お、落ち着くんだ俺!!心を沈めろ! 心を沈めろ!ふー。ふー。平常心を保つんだ……
狼狽した。これ以上ないほど、狼狽していた。
と、とりあえず他のやつのを見てから判断しよう……もしかしたら俺のステータスは高いほうかもしれないし……天職は嫌な予感しかしないけど……
勇馬さんはまだ諦めて無かった。だが、諦めた方がある意味楽だったかもしれない。
「すげぇー! 海翔、さすがだぜ!!」
「海翔君、素敵。もう、結婚して!!」
なにやら周りが騒がしい。勇馬はその騒ぎの中心になっている宮城のとこに行き、彼のステータスを見た。
(宮城海翔)レベル1
天職…………勇者
筋力…………500
敏捷…………300
耐久…………300
魔力…………500
スキル
『光撃』
光属属性初球魔法が使える。
『疾走』
高速移動ができる。
『精霊に愛されし者』
全属性耐性がつく。
『選ばれし者』
聖剣カリバーンが使える。
『限界を超えし者』
一定時間、自分の力が倍になる。
一瞬、放心しかけたが何とか耐え忍ぶ勇馬。
あぁ……これぞチート。俺が求めていたもの……しかも、このスキルの数はなに? 俺、1つしか無いんだけど……それに、一回しか使えないんですけど!? ……まぁ、こいつは特別だろう。他のやつらは俺とそう変わらない……よね……
勇馬はそう信じ、他の人のステータスを見た。
(乱崎桜)レベル1
天職…………賢者
筋力…………200
敏捷…………200
耐久…………200
魔力…………1500
スキル
『大魔導』
全属性の初級魔法が使える。
『全知全能』
相手のステータスを瞬時に把握できる。
『詠唱破棄』
魔法を使用する際、詠唱がいらない。
『魔力回復』
魔力の回復が格段に上昇。
(稲田飛鳥)レベル1
天職…………魔術師
筋力…………100
敏捷…………100
耐久…………100
魔力…………500
スキル
『火炎』
火の初級魔法が使える。
『氷結』
水、氷の初級魔法が使える。
『竜巻』
風の初級魔法が使える。
(阿部田優吾)レベル1
天職…………双剣師
筋力…………300
敏捷…………400
耐久…………200
魔力…………100
スキル
『二刀流』
攻撃が決まる度に敏捷に補正がつく。
『鬼神』
魔力をすべて使用し、筋力と敏捷を
大幅に上昇させる。
『疾走』
高速移動ができる。
(安藤謙治)レベル1
天職…………侍
筋力…………300
敏捷…………300
耐久…………200
魔力…………100
スキル
『抜刀術』
鞘から刀を出して一秒の間、敏捷に大幅な補正。
『断食』
あらゆる耐性に補正がつく。
『風雷坊』
風と雷の初級魔法が使える。
何という事でしょう。このクラスはチート集団でした。たった一人を除いて……
……ば、ばかな……どいつのステータスを見ても全ステータス最低100以上はある。しかもスキルはみんな3つ以上持っている。俺なんかただの一般人ぐらいじゃねえか!! 勇馬の内心は荒れに荒れていた。
結果としては勇馬は最弱だった。そしてもちろん、みんな戦闘職で、職業を持っていない奴など勇馬の他にひとりとしていなかった。
「みなさんやはりステータスが高いですね。レベル1でそれは充分に素晴らしい。とくに、海翔さん、桜さんのステータスは飛び抜けていますね。この世界のレベル1のステータス平均値は大体、50~100ぐらいですよ。いやぁみなさんは随分強いですね」
恍惚とした笑みを浮かべながら女神は続ける。
「それに、スキルは経験を積むごとにレベルアップします。また、新しいスキルが手に入る事もありますよ。まぁ、簡単にはいきませんが……」
これを聞いた勇馬は、
へ~そうなんだ……じゃねえよ!? 俺は平均以下だと……そんなバカな話しがあるわけがないだろ!! 少々切れていた。勿論、こんなステータスで納得できるはずがなく、彼は恐る恐る女神と名乗る者に近付いた。
「あの、女神様……俺のステータスが異様に低いんですが……」
勇馬は女神にステータスを見せた。当然、周りにたむろしていたやつらも寄ってくる。
「うわぁ~。なにこのステータス。弱! まぁ、時雨だから当たり前か」
「なに!? 無職って!! お前はここに来て自分の立場がわかってきたの?」
「ギャハハハ。おい!なんだよ時雨!お前、元々弱いことは知ってたけどここまでだったとはな。くっくっく」
「うわぁ。ザッコ。赤ちゃんにも負けるんじゃない?」
ありとあらゆる罵倒が彼を包む。
日頃からなにかといじめの対象になっていた(ラノベを読んでいたから)勇馬はクラスで浮いた存在だった。
だからこそ、今回のこの不思議な体験でみんなを見返してやれると息巻いていたのだが、勇馬の幻想は打ち砕かれたようだ。勇馬が怪訝な表情を浮かべていると、女神が困り果てた顔を浮かべ、
「ええっと……時雨さんでいいのかしら? このあと私のとこにきてね。貴方にだけ話したいことができたわ。使いの者を寄越すから待っててね」
女神はどこか、遠い物を見るような目で勇馬に言った。
おおっ! もしかして、俺にはまだチャンスがあるかもしれない!! 多分、俺のステータスは何かの間違いだったんだろう!! そりゃそうだ!無職なんてあるわけないだろ!
そう、勇馬は思い込んだ。しかし次の瞬間、勇馬は見てしまった。勇馬に言葉を告げた女神の顔が一瞬悪魔のような笑みを浮かべたことを……
勇馬は恐怖を感じた。感じずにはいられなかった。
とても、聖人の象徴である女神がしてよい顔ではなかった。まるで、あれは、悪魔……いや、魔王という名の方が相応しい有り様だった……
まだまだ未熟ですが投稿、頑張ります!!
誤字脱字があれば、どんどん報告してください。
よろしくお願いいたします。