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1話【なろうで始まるボーイミーツガール】

新連載始めました。

ワナビが頑張りながら、恋愛する話です。

よろしくお願いします。


「よし! 新作はこれで行こう!」


 亞汰彦(あたひこ)は満足げに頷いていた。


「ククク……ウラヌスさんとハリセンとも相談したし、今度こそ日間トップはもらった!」


 テキストエディタに表示されていたタイトルは”今度の転生こそまったり人生を送りたい元SSS冒険者!”だった。

 亞汰彦と創作仲間が分析し尽くして辿り着いた、キャッチーなタイトルである。


 小説投稿サイト”小説家になろう”。通称”なろう”。

 それは、日本最大級の小説投稿サイトであり、現在そこで成功する事が、最も小説家になる早道と言われていた。

 実際、なろう(・・・)のランキング上位に入れば、書籍化する人が多かった。

 だから亞汰彦も、なろうで小説を発表しているのだ。


 一年頑張って来た作品は、あまり伸びなかった。

 だが、その一年の間に、心強い創作仲間が出来たのだ。

 どちらもなろう関連のコンテストで1次通過したことのある猛者だ。


「勝つる! 今度こそ勝つる! これなら勝つるぞ! うわーっはっはっは!」


 亞汰彦は自分を鼓舞するためにも、大げさに笑ってみせた。

 創作仲間のウラヌスマンとセンボンハリセンとの結論。


 タイトル! あらすじ! 第一話!

 この三つが完璧なら、絶対にランキング上位に食い込める!


 そして今作はその3つを徹底的に作り込んだのだ。

 ランキングの流行も取り入れ、もはや勝利は確信していた。


 そして、満を持して、亞汰彦はなろうに新作を投稿した。


「ふふふ、明日のランキングが楽しみだぜ!」


 ニヤニヤと、ちゃんと登録されているか確認する。

 その時、全く同時刻にアップされている小説に気がついた。

 ”カーディナルドリシュリュー 紫の庭”。


 そのタイトルを見て、亞汰彦は嬉しそうに苦笑した。


「あー、ダメダメ。このタイトルじゃ誰も読まないよ」


 わかってないなー。やれやれと、首を横に振るしか無かった。

 あらすじも、物語の内容を一切説明していない、短い物が載っているだけだった。


「ふ。あらすじには、物語の大まかな流れを書いてしまうのが流行だというのに」


 今の読者は、あらすじの時点で、どんな物語か示唆してあげないと、一話すら読んでくれないのだ。

 これはダメな作品の見本だなぁと、亞汰彦はPCの電源を落とした。


 PCをつけていると、反応がないかと、数十秒ごとに見に行ってしまうからだ。

 精神的にもよろしくないし、明日の楽しみにしておいた方が良いだろう。

 スマホの電源も切っておいた。


 ベッドに潜り込んだ亞汰彦だったが、結局朝方まで寝付けなかった。


 ◆


「嘘……だろ?」


 起床してすぐに、朝のランキングを確認して、亞汰彦は愕然としていた。


「なんとかの庭が……1位?」


 あまりの驚愕に、自分のランキングを確認することすら忘却していた。それほどの衝撃だったのだ。


「え? 嘘だろ? なんで? どう考えてもなろう向きじゃないだろ! ああくそ! 会社行かなきゃ!」


 亞汰彦は吐き捨てながら、オンボロ中古車に飛び乗った。

 午前の仕事は完全に上の空だった。

 ようやくおとずれた、昼休みのチャイムと同時に、食事を無視してスマホにかじりつく。


 ”カーディナルドリシュリュー 紫の庭”。著:タクハタチヂメ。

 内容は中世ヨーロッパ風の舞台で、落ちぶれた貴族令嬢が戸惑いながらも逞しく生きていく話だった。

 文学的で美しい文体。まるでなろう向けでは無いはずなのに、脳にするすると入ってくる読みやすさ。

 目の前に広がる、リアルな貴族邸宅。

 気がついたら、夢中で読みふけり、至福の時間は一瞬で過ぎていった。


「なんだこれ……まだ一話なのに滅茶苦茶面白い……。一見女性向けなのに、男の僕が読んでも夢中になる」


 そこで亞汰彦はさらなる驚愕の事実に気付いた。


「え!? 一話で一万文字もあったの!?」


 背筋がゾッと凍った。

 それだけの文章を、さらりと読ませられて、まったく重さを感じていなかったのだから。


 小説家になろうで連載する場合、一話の文字数に関して、様々な意見はあるが、亞汰彦達が出した結論は2000~4000文字だ。

 実際ウラヌスマンとセンボンハリセンもそれでランキングを伸ばしていた。

 もちろん亞汰彦もそれに習って、今作より平均3000文字を心がけている。


 それが……。


 亞汰彦は首を振って、頭を切り替えることにした。


「僕の順位は……294位か」


 順位が表示されるのは300位まで。

 そう考えれば、辛うじてランキングインしたとも言える。

 一話からランクインしたのだ。前作と比べたら格段の進歩だった。

 だが……。


「クソッ! インチキしてるんじゃないだろうな!」


 呪詛を吐いてみたところで、読めばわかってしまう。

 ランキングトップに相応しい作品であることを。


 スマホがぽぺーん、という間抜けな音を鳴らした。


ウラヌス:今日のランキング1位見たか!?

アタル:今見た。


 創作仲間のウラヌスマンからだった。

 通称ウラさんである。

 アタルは亞汰彦のペンネーム、アルイタルを縮めた通称だ。


ウラヌス:なんだこれ! なんでこのタイトルとあらすじで1位なんだ!?

アタル:なんでって、そりゃ面白いからでしょ?

ウラヌス:は!? 何いってんだよ! 面白いから人気が出るなんて幻想だろ!

アタル:確かに、面白くて埋もれてる作品は多いよね。

ウラヌス:だろ! なろうに必要なのは面白さじゃないだろ!


 いや、それはどうなんだろうと、眉を顰めてしまう。

 たしかに、仲間内で話し合った結果、読者の求める要素を、わかりやすく集めて書くという結論にはいたった。

 だけど……。


ウラヌス:わからん! どうしてこれが上がるのかさっぱりだ!

アタル:ウラヌスさんは読んだの?

ウラヌス:タイトルとあらすじ、本編は三行でギブアップした。

アタル:全部読んだ方が良いんじゃ無いかな。

ウラヌス:アホ! 一話で一万文字だぞ!? 読者捨ててるだろこれ!


 状況だけで言ったらそうなんだけど、実際一位なんだよな。


アタル:悪い、今から飯なんだ。

ウラヌス:今日は遅いんだな? わかった、また今度。


 もやもやとした気持ちを抱えながら、急いで食事をする亞汰彦であった。


 ◆


「今日は喫茶店で書くか」


 家の近所にある、老夫婦が二人で経営する小さな喫茶店がある。

 小洒落た雰囲気だが、大人しい老夫婦のおかげか、居心地が良く、長居できる店だ。

 なにより珈琲が美味い。


 久々に店内に足を入れると、三つしかないカウンターに一人。二つしかないテーブル席も埋まっていた。

 めずらしい。


 もっとも普段カウンターなので、問題は無かった。

 先客は三つ並ぶカウンターの真ん中に座っていたので、必然的に隣になる。


 特に意識してるわけでは無いが、どうしても目がいってしまう。


 レトロランプの明かりをゆるりと跳ね返す、艶のある黒髪が肩上までさらりと流れ落ち、知性を感じる細いフレームの眼鏡を鼻に載せていた。


 横からちら見しているだけなので、ハッキリしないが、可愛さと端正さを兼ね備えているようだった。

 地味な色のサマーセーターが勿体ない。


 まぁどうでもいいと、さっそくノートPCを開いて、今日更新分の執筆を開始する。

 ネット小説の良いところは、公募と違って、完結させてから載せなくていい事だ。自分のペースで進められる。

 人によっては一日数話載せる事もあれば、一ヶ月に一話なんて人もいる。


 亞汰彦達の結論として、一日一話更新。

 これがもっともランキングが伸びるからと、気合いをいれている。


 珈琲でカフェインを補充して、執筆を開始すると、なぜか自分のパソコン以外からも、カタカタとキーボードを叩く音が聞こえてくる。


 隣のちょっと残念な美少女からだった。

 見慣れぬ小型の機器で、なにやら文章を一心不乱に書き込んでいる。


 ――それが。

 ランキング1位、タクハタチヂメとの出会いだった。



あらすじにも書いてありますが、念のためもう一度。


 この物語はフィクションです。

 本物語は株式会社ヒナプロジェクト様が提供するものではありません。

 「小説家になろう」は株式会社ヒナプロジェクト様の登録商標です。


よろしくお願いいたします。

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