町の夕暮れ 人影が消えた
このあたりで、やっと奇妙な敵が見えてきます。
町の人々の描写はあえて書いていません。残酷すぎることになりそうだから。
モスルーシの町の北側に、仮面をつけた一団が立っていた。
デーモン・クイーンとマッスル・キングが一団の前に立ち、モリノミ仮面たちが後ろに並んでいた。
デーモン・クイーンは右手の杖を前に突き出した。
「ハプン・フリーズ」
大きな声でその言葉を唱えながら、町に入って行った。
しばらくして、デーモン・クイーンと一団が町の南から、コロポルの洞窟へと向かった。町の人々が後ろに続いて歩いていた。
陽が傾き始めた頃、アルアたちとエル婆さんは、モスルーシの町に戻って来た。ショードウさんは、ロバに荷車をひかせていた。
町に入るとエル婆さんがゆっくりと辺りを見回した。
「やけに静かだね」
そう言われて、アルアたちも周りを見たが、人影もなく静かだった。
「エル婆さん、今日はありがとう。またね」
アルアはエル婆さんにお礼を言って、家に向かった。
「楽しかった。またお菓子買いぬ行くよ」
ロールは、エル婆さんとショードウに手を振りながら、アルアのあとを追いかけた。
サマンサも「ショードウさん、あとよろしくね」と言うと帰っていった。
「みんな、またね」
エル婆さんは、ショードウと店に向かった。店に着くと、エル婆さんは荷物を中に運び、ショードウは荷車をロバから外した。そこにアルアが走って来た。
「ショードウさん、変なんだ。家に誰もいないんだ」
「どこかに出かけたんじゃないのか」
アルアは首を横にふった。
「夕方から出かけるなんて聞いてないよ」
店から出てきたエル婆さんが「何かあったのかしら。町に戻ってから誰にも会ってないわ」と言い終えると、サマンサとロールも走ってきた。
「どうしたんだい」
エル婆さんがロールとサマンサの顔を見つめた。
「誰もいないんだ」
「私のとこもいない。隣りの家も覗いたけど、いなかった」
ショードウが荷物をエル婆さんに渡しながら、「じゃ、いるのは昼間いなかった俺たちだけか」と不思議そうに言った。
荷物を受け取ったエル婆さんは店の中に入りながら、
「とにかく中にお入りなさい。今日はここで一緒にいましょ」とアルアたちを誘った。
ショードウは子どもたちに荷物を一つずつ渡して、目で中に入るように誘い、まだ残っていた荷物を店の中に置いた。
「わしは、荷物を下ろしたらこいつを裏に連れて行く」
「ああ、お願いね」
エル婆さんに案内された部屋は、暖炉のある広いもので、町の南側が見える窓があった。
「エル婆さんの家の中なんて初めてだ。広いんだね」
ロールはソファーを見つけて座った。アルアもその横に並んだ。サマンサは暖炉の上にある絵を見ていた。
「シチューの残りがあるから、温めてみんなで食べましょ」
エル婆さんはランプに火を着けた。
「この絵、誰?」
「モルル・シャルル1世。今の国王のおじいさんよ」
サマンサだけでなく、アルアも知らない顔の絵だった。
「なんで飾っているの」
「昔はたくさんの家で飾られていたけど、最近はしなくなったみたいね」
そこにショードウが入って来た。
「ありがとう。お疲れ様。助かったわ。ショードウさんもシチュー食べて、今夜はここにみんなでいましょ」
「そうするよ」
ショードウは暖炉の上の絵を見ながら、「平和ボケってやつさ。国がたいへんな時のこと忘れるんだ。だから、ただのじいさんの絵だと思ってんだよ」。そう言いながら、サマンサにエル婆さんについて行くように、背中を押した。
「じいさんねぇ。シチューを温めてくるわ」
エル婆さんは、笑いをこらえた。
「そういやぁ、コロポルの方にカラスがいっぱいだぞ。今まであそこにカラスの寝座なんてあったか」
ショードウはみんなの顔を見回した。
「カラス?」
「あまり見ないわね」
エル婆さんはサマンサと部屋を出た。
かなり不定期な投稿になりそうですがお付き合いください。