仮面をつけた一団
仮装行列には不似合いな仮面の一団。
列から外れ、広場で起こした出来事は、恐怖だった。
人々がざわめき始め、大通りに仮装行列が入って来た。
先頭をカボチャの着ぐるみが歩いていた。その後ろに、子ども達が赤や黒のローブをまとい、魔法使いの杖を持っていた。笑顔で手を振りながらカボチャのあとを歩いた。子ども達の後ろは、大人で、吸血鬼や狼男、赤い頭巾に花かごの娘、白い布をすっぽり被ったオバケ、かぼちゃ、ぶどうなどで、楽しそうに手を振り、キャンディやクッキーを配る人もいた。
アルアたちは、風船を持ったピエロからもらったクッキーをほおばって、行列を見ていた。
アルアたちの前を通り過ぎていく行列の中に、茶色の木の仮面で顔を覆った一団が近づいて来た。ただ行進しているだけで、まっすぐ前を向いているだけだった。
アルアは、ショードウのところに行き、「あの仮面の人たちは何?」と聞いた。
「さぁ、知らない。仮面はモリノミのモンスターがつけている物みたいだ」
「モリノミ? まだ行ったことないや」
アルアはサマンサとロールの所に戻って、モリノミの仮面の一団が前を通り過ぎるのを見た。その一団の先頭には、二人がいて、一人は顔の上半分を黒いマスクで覆っていた。黒いローブとマントを着て、右手に杖を持っていた。もう一人は、赤いクロスアーマーとマント姿、フルフェイスのマスクは紅と黒のクマトリ柄で、右手には剣を持っていた。
仮面の一団の一番後ろを歩く男が小さく手を振った。すると、アルアたちの隣りにいた男が「ルナだ」と叫んだ。
知り合いなのかと思ってアルアは叫んだ男をちらりと見た。ロールもサマンサも同じように見た。若い人だ。
「なんだか怖い人たちね。トイレに行こう」
サマンサが見物している人たちから抜けると、ロールも「僕も」とついて行ったので、アルアも一緒に行くことにした。
あいにくトイレは行列が進むのと同じ方向の少し先の右側だった。
「あれ、何の仮装? あまり見たくない雰囲気だわ」
サマンサは行列を見ないようにしているようだった。
「ショードウさんもわからないって。仮面はモリノミらしい」
三人がトイレをすませて通りに戻ると、トイレの前にある広場にモリノミの一団がいた。その広場は街の南側の門に近く、大きな木が一本立っていた。
「まだ行列、終わってないんじゃないの」
ロールが不思議そうに言った。アルアが大通りを見ると行列がまだ続いていた。
先頭を歩いていた男が、一人の仮面の男を木の下に立たせた。一番後ろを歩いていた男だ。黒いローブを着ているのは女のようで、ルナを呼ばれた男に歩み寄り、耳元に顔を近づけた。仮面の一団はルナという男をその場に残して、広場を後にし門の方に去って行った。
残された仮面の男は凍りついたように動かなかった。
「ねぇ、お腹すかない? ハンバーガーでも食べようよ」
サマンサがそう言い、三人で大通りに戻ろうとした時だった。男の奇声が響き渡った。
振り返ったアルアの目に飛び込んだのは、剣を振りかざし、叫び声をあげる仮面の男だ。
「うわぁ、何だこれは。手がかってに動くぞ」
広場にいた人々が逃げた。
男の持つ剣は、空を何度か切り、次に男自身の足を切りつけ始めた。
「おい、誰か止めてくれ」
しかし、誰も近づくことはできそうになかった。
「気でも狂ったのか」
アルアが言うとロールは、「いや、さっきまで普通だったじゃないか。知り合いに手を振ってたし」と
落ち着いて見ていた。
仮面の男は、剣を自分の腹に向け出した。
「なんとかしてくれ。俺は死にたくないんだ」
男が倒れ込んだが、それでも手の動きは止まることなく、何度も腹を突き刺した。
目をむき、息もあらくなり、声を出すこともできなくなった。
「おい、誰か警備の兵隊を呼んでこい」
「そうだ、兵隊だ。まだ暴れだすかもしれん」
「先に剣を取り上げろ」
周りから声がし始め、大きな騒動になった。
アルアたちは、急いでエル婆さんの店に戻った。ロールが見たことを話し終えると、
ショードウが「今日は変なことばかりだな。北の方でも一人身ぐるみ剥がされて倒れてた。
そっちは、何も思い出せない奴だったらしいよ」と話に拍車をかけてしまった。
モリノミ仮面たちは何をしようとしているのか。
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