仮装行列の日
アベニューで行われる仮装行列に遊びに行った三人。
そこにはエル婆さんが出店を出していた。
婆さんを手伝うことになったショードウさんが耳にしたこととは?
15年後。
「おはよう。朝っぱらから何のよう?」
アルアが面倒くさそうに言った。
「アベニューの仮装行列を見に行くんでしょ。ロールから聞いたよ。私もついて行く」
サマンサはアルアの機嫌などおかまいなしのようだ。
「ダメって言っても来るんだろ。帰りにいなかったらおいて帰るからな」
アルアの迷惑そうな顔もなんのその、サマンサは気にもとめないのだ。
「じゃあ見張ってたら。それとも首に縄でもつけておく?」
「そんな面倒なことできるか。お前が勝手なことしなければいいだけだ」
アルアは思った。ロールはなんでこいつにしゃべったんだ。
「すぐに用意してくる。待ってて」
そう言うとサマンサは急いで家に走った。
アベニューの街は、たくさんの人で賑わっていた。
街の中心にある大通りの両側には出店が並んでいた。
「行列が来るまで、出店を見てまわろうよ」
そう言いながら、サマンサはもう近くの出店をのぞいていた。
アルアとロールも後ろからついて行った。
飴やクッキーを売っている店もあれば、カードやとんぼ玉を置いている店もあった。
ハンカチを売っている店でサマンサがいつまでも動かないので、
「何か美味しいものないかなぁ」とアルアはサマンサに聞こえるように言った。
アルアを振り返ったサマンサは、近くの出店を見回して、
「あそこ、飲み物があるみたい。みんなコップ持ってるわよ。きっとそばにパンを売っている店もあるはず」
「なぜパンの店があるってわかるんだよ」
歩き出したサマンサにアルアが聞くと
「そんなの決まってるじゃない。そんなに暑くもないのに、みんながコップを持っているのは、パンを食べて口の中がモサモサしているからよ」
サマンサはさらりと答えた。
「さすがだね」
ロールが口喧嘩にならないようにと心配しているようすで、アルアの顔を見た。
大きなビーチパラソルを広げた下に、幾人もの人が寄ってはコップを受け取っていた。
店にはショートヘアのお婆さんがいて、客の注文に忙しそうだ。
「エル婆さんの店だ」
三人は駆け寄った。
「おや、お前たちも来たのかい。ハチミツレモンはいかが」
エル婆さんは嬉しそうに三人を見た。
「ハチミツ?もしかしてハニーパレスの蜂蜜なの?」
ロールが店の中を覗き込んでいると、箱を抱えた男がエル婆さんに声をかけた。
「婆さん、どこに置いたらいいんだ?」
「ああ、そこんとこに置いておくれ」
エル婆さんの指差す場所に男は箱をおろした。
「人使いの粗い婆さんだ。なんだ、町のガキたちが来ていたのか」
エル婆さんから、ハチミツレモンを受け取りながら、アルアは男の顔を見た。
「ショードウさん手伝ってたの?」
「婆さんが朝早く来て、店出すから手伝えって怒鳴るからだ」
三人はクスクス笑いながら聞いていた。
「わたしゃ怒鳴ってなんかないよ。ショードウさんが退屈だろうと思って声かけてあげただけだよ」
エル婆さんはショードウにもハチミツレモンを渡した。コップを受け取りながら、ショードウが思い出したように言った。
「そういやな、館に亡霊がでるらしいぞ」
「館って死霊の館のことかい」
「怖いモンスターがいるとこだ」
アルアは顔をこわばらせた。それを見たサマンサは、「私はちっとも怖くないわ。アルアは弱虫なだけよ」と言ってにやにやした。
「先月、カルティナ様が亡くなったことと関係があるんじゃないか。まだやり残したことがあって、死にきれないとか」
そう言いながら、ショードウはアルアに顔を近づけた。
「考えすぎよ」
エル婆さんは気にも止めてないようだった。
「エル婆さん、一緒に帰ろうよ。片付け手伝うよ」
アルアは、顔を覗くショードウさんを払い除けた。
「そうかい、ありがとう。夕方まではいるよ」
ショードウは今度はロールの顔を覗き込み始めた。
「ショードウさん、怖いこと言わないで。死霊の館で仲間気分で出るのかもしれないじゃん」
子どもたちをからかうショードウをエル婆さんが睨んだ。それを見てサマンサは笑い出してしまった。
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