第8話「宮殿」
「ただいまー!」
大きな声で帰宅を知らせる。すると、どこからともなくメイドの人が駆け寄ってくる。
「お帰りなさいませ」
わたしに声をかけてくれたのは、メイド長のリンさん。とても優しい人で、一般から宮殿に来たわたしとお姉ちゃんにも分け隔てなく接してくれる。
「雨が降ってきました。洗濯物を取り込まないといけないよ」
「既に対応しております。それよりもお2人、お食事の方はいかがいたしましょう」
「そういえば、まだ朝ごはん食べてなかった。今からでも食べられる?」
「もちろんでございます。ではすぐにご用意いたします」
リンさんはメイドとしては完璧な人。だけど、たまに悲しい顔になる。いったい何があったのかは分からないし、きっと訊いてはいけないと思う。
「ユキ、部屋に行こう。朝ごはんができたら呼びに来るだろう」
「うん」
宮殿は大きい。宮殿は広い。王族が住むところだから立派。執事とメイドが身の回りの世話をしてくれるなんて夢のよう。最初は驚いたし戸惑ったよ。
わたしとお姉ちゃんは1部屋ずつ与えられている。とても嬉しかった反面、本当にいいのとも思った。だけどそれはかえって失礼であることを王様から言われちゃった。
「じゃあ、あとでな」
1人で使うには広くて困っちゃう、わたしの部屋。
ベッドはフカフカで気持ちいい。日光を充分に取り込める窓からの街並みは綺麗。なにより防音なのが嬉しかったりする。
「ふっふーん……」
わたし、歌うのが好き。特別上手いわけじゃないけど好き。誰かに聴かれるのは恥ずかしいから、防音なのは助かるんだよね。
※ ※ ※
「やれやれ。朝が弱いのは変わらないようだねえ。折角転生したんだ、そういうところが改善されていてもよかったのに」
部屋に置いてある姿見の前に立つ。そこに映るのは銀髪銀眼の少女――つまりはボク。毎日毎日リンさんが櫛で梳かしてくれているお陰で、我ながら艶のある髪を保っている。
「今日はまだ梳かしてもらってないや」
自分で梳かしてもいいんだけど、前にそれやってリンさんに怒られちゃったからなあ。
「ちょいと調子を確かめてみるとするか」
ボクの魔法は何でも生み出せる。便利は便利なんだけど、たまに不甲斐ない結果になっちゃうから、ちょくちょく調子をみているんだ。帽子を作ってみる。なかなかに上手くできた。そんじゃ今度は壊してみよう……よし、完璧に消えた。
「なんでボクには、この魔法が使えるのか。転生したからって理由なら納得……できるかあ? こんなに世界は広いんだ。ボクやユキ以外にも転生者がいたって不思議じゃないし、もっと凄い魔法使いがいたって不思議じゃない。けど王様はボクとユキのようなレベルの魔法を使う者は知らないって言いきったもんな」
まあ、グチグチ悩んだり考えたりしてもしょうがないか。
おっと。部屋の扉をノックする音が。
「ミア様、お食事のご用意ができました」
「分かった。知らせに来てくれてありがとう」
「感謝されることではありません。私にとっては当然のことでございます」
リンさんはしっかりしてる。18歳とは思えない。ボクが18歳になったとき、今のリンさんのようになれているか……うん、ないな。
「本日のご朝食は、フレンチトーストでございます」
「やった! わたし、フレンチトースト大好き!」
「ボクには紅茶をお願い」
「既にご用意してあります」
リンさんは抜け目ないな。本当にできた青髪メイドだ。




