第7話「覚醒」
わたしもころされちゃう。おとうさんとおかあさんは、つよかったのにころされちゃった。こわいよ。
「今すぐ追わせてやるぜ」
「いやだよ! いやあああ!!」
たすけて……おねえちゃん。
「ボ……クの……いもうとに……」
「な、何だこりゃ!?」
おとこのひとのおなかに、けんがささっている。
おねえちゃんは、くちからちをながしてる。ながしてながらおどろいている。
「よくも、とうさんとかあさんを! ぜったいにゆるさない!」
おねえちゃんは、けんをいっぱいだして、おとこのひとにさしていく。どうやっているのかわからないよ。
でもこれでたすかる。わたしとおねえちゃんはたすかるんだよね!
「知らねえ……そんな魔法……」
「へっへーんだ。ボクだってしらないんだな……うっ!?」
「おねえちゃん!?」
どうしよう! このままじゃ!
わたしにもまほうがあれば……あれば……!
「しなないで――えええ!!」
おねえちゃんをギュッてするしかない。それしかできない。ごめんね、おねえちゃん。
※ ※ ※
「わたし、思い出しちゃったよ。5年前のこと」
「ユキもか。実はボクも思い出していた。忘れたくても忘れられない記憶をな」
「墓参りに来たからだよね、きっと」
「どうだかな」
王様の計らいで作られた立派な墓。レイダスの近衛騎士として命を捧げた父さんと、近衛騎士の妻として誇らしい最期を迎えた母さんを弔って作られた。
レイダスは絶対王政だ。王様の一声で国の運命が決まると言っても過言じゃない。そんな絶対的な存在である王様に認められ、墓を作らすに至らせた両親は誇りだ。
「お父さん、お母さん。わたしとお姉ちゃんは元気にしているよ。安心してね」
「安心してくれるかねえ。宮殿には今日もファンレターが届いているじゃないか。ユキは人気者だから、近々交際が始まってもおかしくない」
「お姉ちゃん、からかわないでよー! わたし、まだ11歳なんだよ?」
「青田買いってやつさ。父さんの生前の功績を考慮して、王様が宮殿で一緒に住まないかと言ってきたときは驚いたけど、ユキが誰かと付き合うとなったらボク、もっと驚くだろうな」
「驚くだけなの?」
「もちろん祝福してやるさ」
「そうじゃないよ! 寂しくならないのってこと」
「寂しくなんかならない。この世界に転生しただけじゃなく、ユキとまた姉妹として生まれたんだ。生きていてくれるだけでボクは嬉しい」
「おっ、お姉ちゃんの意地悪っ」
「あはは。そう頬を膨らませていると、そういう表情が大好きな男が寄ってくるもんだ」
5年前のあの日、ボクは思い出していたんだ、前世の記憶を。そして魔法を手に入れた。万物を創造、破壊する魔法を。
5年前のあの日、わたしは前世の記憶を思い出したの。傷を負ったお姉ちゃんを強く抱きしめながら、そのとき初めて魔法を使った。全ての属性を操り、治癒を極めた魔法を。
「そろそろ帰ろうよ、お姉ちゃん。雨が降ってきたからね」
「本当に降ってくるとはなあ。しゃあないねえ……はい、傘」
今も不思議でしょうがない。どうして異世界に転生したのか。そんなこと考えてもしょうがないのは承知しているけど。
ボクとユキの魔法は特別らしい。レイダスはおろか、世界中で見ても前例がないと聞いた。俗に言う異世界チートなのかもとしれないけど、全然実感湧かないもんなあ。




