第32話「すってんころりん」
なんとか付いていけてる。だが辛い。風景がちっとも変わらない。なかなか森から抜け出せない。飽きた。
「まだ抜けないのか?」
「お姉ちゃん、ガンバ! 漕がないと前に進まないよ」
「そんなことを言われても。ボクは飽き性なんだ」
「永遠に続く森なんてないよ。いつかは抜けるよ」
ユキのガンバコール。見ているだけで癒される笑顔と合わせれば無敵――と言いたいところだけど、やっぱり現実は上手くいかない。集中力も体力も尽きかけている。
「だらしがないわ。シャキッとしなさいな」
ロリババアめ。シャキッとしろだなんて言われても困る。もう既にシャキッとしているんだからな。
「ミア様、あと少しの辛抱です。森の終わりが見えてきました」
本当だ。森の終わりが見えてきた。こうなれば気合いで漕いでやる。うらああ!
「駄目だよお姉ちゃん! そんなに勢いをつけちゃ!?」
「ぎゃああああ!!」
なんでだチクショー。どうして道が途切れてるんだああ。
下は川なのか!? どっちにしたって落ちたら死ぬうう!!
「言わんこっちゃない! 風で……えい!」
風がキター。これはユキの魔法だな。ボクの身体を優しく包んでくれる。気持ちいい。
無事に命を救われたけど、ボクを仁王立ちで睨むユキがいた。頬をプクッと膨らませてご立腹。あはは。
「おーねーえーちゃーん。わたし、もの凄く怖かったんだよ! どうして心配しちゃうことばかりするの!」
「わざとじゃない」
「当たり前! わざと飛び込んだなんて言ったら許さない。折角こうして転生したんだから、命を大事にして」
「は……はい」
普段優しい分、怒ると滅茶苦茶怖いんだよねえ。かわいい悪魔の誕生だ。
「張りきってくれるのはありがたいですが、そのせいで死なれては意味がありませんわ」
「とにかく、ミア様がご無事でなによりです。向こうに橋が架かっていますので行きましょう。ミア様、お手を」
リンさんが優しく手を差し伸べてくれる。かわいい天使が舞い降りているねえ。
さあ、仕切り直しといこうじゃないか。あの橋を渡れば街までまっしぐら。
「そこの4にん、とまってなのじゃ」
橋の前まで行った途端、思わぬ足止め。
ピンクの髪の幼女のようだけど、ほかには誰もいない。新手のおままごとか?
「悪いけど通してくれ。街に行きたいんだ」
「はしをわたりたかったら、あっしをたおしていけ!」
やれやれ。なんと小さな通せん坊だい。




