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第30話「冷たくて気持ちいい」

 うーん。なんだか身体が重いぞ。息苦しくならない程度に体重をかけられているみたいだ。こんなことをするのは妹のユキ以外にはありえない。このままボクが起きないでいると、きっと耳を舐めてくるだろう。残念ながらそうはいくもんか。そう何度も同じ手を喰うボクじゃない。

 一気にガバッと身体を起こしてみせるべきか。目を開けつつ静かにしているのもありかも。どんな風に起きればユキを驚かせることができるのかねえ。……よーし決めた。


「残念だったなユキ! たまにはボクが攻めてもいいだろう――うおお!?」


 あれれ。いったい何がどうなっている!? こんなことをするのはユキくらいだと思っていたのに。


「これは失礼致しました。ついついミア様のかわいい寝顔を見ていると自制が利かなくなります」


 はあ? この人は何を言っているんだろう。


「とにかく、一旦落ち着いてくれない?」


「そうでございますね」


 まさかまさかのリンさんだったなんて。しかも、まだ夜中じゃん。全然寝てていい時間でしょうに。

 起こされ方が起こされ方だったからか目が冴えちゃったねえ。こんなときは、温かい牛乳でも飲んでまったりしたい。


「それでリンさん。ボクをどうするつもりだったの?」


「どうも致しません。私はただ、かわいく眠ってらっしゃるミア様を触ってみたかっただけです」


 いやいや、それは充分に駄目だろう。なんでボクを触る流れに至ったのかを知りたいような知りたくないような。


「ボクに触ってもしょうがないぞ」


「いいえ。ミア様を触るのに理由など不要です」


「不要なのかい!」


「はい。ミア様の艶やかな肌をじっくり愛でることなど普段はなかなかできませんので」


 ボクの肌を触りたかったのか。なんだ、それならそうと言ってくれればいいのに。リンさんに羨まれる肌とは思わないけど。


「そんなに気持ちいいものかねえ?」


「ご自分にもっと自信を持ってください。ミア様は大きな武器を、魅力をお持ちなのです」


「そんなことない。ボクからすればリンさんの方がよっぽど魅力的だ」


「私にはもったいないお言葉です。ああ……それにしても……ミア様のお肌はスベスベでいい!」


 そんなうっとりとした顔で触られると恥ずかしくなってくるんだけどねえ。っていうかリンさん、だんだん呼吸が荒くなってるぞ!?


「リンさん、ちょっと落ち着こう!」


「……ミア様が私を奮い立たせるのではありませんか。……はあ……はあ!」


 そういえば、リンさんに髪を解かしてもらっているとき、後ろから生唾を飲み込む音が聞こえることがあったねえ。あれもリンさんが興奮していたからだったのかあ~。

 しかし、これは参った。寝るどころじゃなくなってしまったな。どうしたもんか……そうだ!


「リンさん。アンタの火照った身体を冷ましてやる」


 万物創造――冷却ジェルシート!


「あら、これは冷たくて気持ちいいですね!」


「これでぐっすり眠れるだろう。ボクも貼ろう。それじゃあおやすみリンさん」


「はい。おやすみなさいませ」


 ふぅ。危なかった危なかった。冷却ジェルシートの効果は異世界でも抜群だな。ふわぁ……グッドなタイミングで……睡魔が……。

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