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第23話「使者」

 これは由々しき事態です。大の大人が子どもに斧を向けるなど言語道断! こんなことが許されていいわけがありません。


「その子を渡すんだ。早く」


「なりません。その斧を納めなさい!」


「じゃあお前も一緒に殺す。悪いが」


 目に迷いがありません。何者かに操られている可能性はないようですが。なんにせよ止めなくては。


「――ちょっとやめなって。大人げないぞ」


 ミア様が素手で斧を受け止めました――いえ、あれは素手ではありませんね。何か装着しているようです。

 私は今のうちにカノンちゃんを連れて離れましょう。ミア様なら大丈夫だと信じております。


「逃がすか!」


「行かせないって。物騒な物、下ろしてくれない?」


「……な、なんでだ……!?」


「ボクの魔法は特殊なんだ。鉄板を仕込んだ手袋を作ることなんざ朝飯前でねえ」


「あの子を殺さなければ! 神のお告げに従わなければ!」


「はあ? アンタ正気かい。神なんているわけないだろう」


※ ※ ※


 リンさんと女の子は無事に逃げられたよ。カノンちゃんだったっけ。理由が何であっても、こんな幼い女の子を殺すのは間違ってるよ。


「カノン!?」


 カノンちゃんのお母さんが玄関で驚いている。涙を流して抱きしめてあげている。そうだよ。これが普通なんだよ。


「ご無沙汰しております。訳あって村に寄ったのですが、信じられない光景を目の当たりにしまして」


「これはリンちゃん。詳しいことは中で話そう」


 家の中に通される。至って普通の家だね。安心するよ。


「カノンのことを訊きたいんだよね?」


「はい。何故カノンちゃんが殺されなければならないのでしょうか?」


「少し前に、神の使者と名乗る女性がやって来た。村にポンッと大金を寄付して何者かと思ったよ。そんなに日も経たないうちに村の人間と打ち解けた女性は、村を去る直前に神のお告げを言ってきたのさ」


「して、そのお告げとは?」


「村で最も幼い者を天に捧げよ。さもなくば村に災いが起きることだろう――と。全員が女性を疑った。そんなバカなと笑い飛ばしていたくらい。だけどそれから、立て続けに亡くなる人が続出して。みんな怖くなってしまったのさ」


「それは確かに奇妙ではあります。ですが間違っています。守るはずの大人が危害を加えるなど」


「私と主人は最後まで反対をした。けど誰も聞き入れてくれなくてね。こうして再びカノンを抱きしめられるとは思わなかった」


「おかあさん」


 カノンちゃんが震えている。無理もないよ。一番怖い思いをしたのはカノンちゃんだよ。


「みんな気が立っているんだ。今日は、神の使者が来るんだ」


※ ※ ※


「これは皆さん、どうかなさいまして?」


 うん? ボクの背後に誰かいるな。女の声だ。


「し、使者様!?」


 使者様? ああ例のやつか。ということは元凶か。


「そちらの方は? 見ない顔のようですが」


「どうも。神の使者さんとやら」


「これはこれは。随分とかわいらしい方で」


 シスターの格好をしているが、まったく神秘の欠片もない使者だねえ。胡散臭さが隠せてないぜ。

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