第22話「世界停止」
村に着きましたが、道中不審者はいませんでした。このまま何事もないことが一番なのですが、現実はそうはいってくれません。
「……妙です。村の雰囲気が以前と違います。念のために警戒を」
「さっきあれだけ村を絶賛していたのに」
「申し訳ございません、ミア様。しかしながら重いのです……空気が」
何かあったのでしょうか。なんだか不安が一気に押し寄せてきました。
「お姉ちゃん、リンさん。向こうに人が集まっているよ」
ユキ様が指差す方に村人が集まっています。やはり何かあったのでしょうか。お話を訊かなければいけないようです。
「「尊い命の勇気に感謝と安らぎを。どうか天に召されたまえ」」
何を一斉に唱えているのでしょう。両手を組んで目を閉じています。どうやら、何かを囲んでいるようですね。
「リンさん。わたし、なんだか怖くなってきたよ」
「私もです。これは普通ではありません。この村に特別な習わしはありませんから余計に胸騒ぎがいたします」
囲まれている何かを確かめなければなりません。しかし、結構な密度です。人が通り抜けることはできません。飛び越えてしまえばいいのでしょうが、迂闊に飛び込むわけにはいきません。
「「来世は、太陽よりも輝く人生を謳歌せよ――」」
「――お姉ちゃん。わたし、もう我慢できない! 魔法使うよ」
「おう」
ユキ様が魔法を――いったいどんな魔法をお使いになるのでしょうか?
「無属性魔法――ワールドストップ」
※ ※ ※
わたし、できればこの魔法は使いたくなかったよ。
ワールドストップ――世界を停止する魔法。確かに便利な魔法だけど、世界から自由を奪ってしまうのは嫌なんだよ。それでも誰かを助けられるなら!
「ちょっと失礼しますよー。えい、えい……。あれは女の子だよね。まだ小さいよ」
泣いている。大の大人に手足を縛られて身体を押さえつけられて。目隠しされているけど、目隠しの布が涙で濡れちゃっているよ。絶対に嫌なはず……なのにどうして!?
「わたしが助けてあげるね。もう大丈夫」
斧で首を落とすつもりだったんだね。酷すぎる。異世界でも理不尽なことは起きているのが現実。やりきれないよ。
※ ※ ※
ユキが女の子を抱えているな。ワールドストップを使ったな。
「説明してもらえるか」
「うん。この子が手足を縛られて目隠しをされていて、斧で首を落とされそうになっていたの」
「カノンちゃん!?」
「リンさん。この子を知ってるの?」
「はい。私が村に来るたびに笑顔で出迎えてくれるのです。今年で6歳のはずです」
「何か悪さしたお仕置きにしては度がすぎるな。習わしでもないんだろう? じゃあいったい――」
「――おい、その子を渡すんだ。よそ者が首を挟むな」
斧を持った大男が現れた、てか。まったく面倒なことになったねえ。ちょっとは対話しようぜ。




